チョコレート・ゲーム
「ぐっ……またか……」
「ふふん、この私に勝とうなんざ十年早いよ」
ピンクのフレーム越しに彼女の得意げな視線が僕を射抜く。ああ、悔しい。
僕と新藤さんはカフェテリアで机を挟んで向かい合っていた。
今日は千紘のその後の体調を報告するという名目で彼女に会いに来たのだ。
先週、新藤さんは僕の妹であるところの河野千紘と会い、しばらく彼女を悩ませていた『悪夢を運ぶ白い猫』の謎をズバリ解き明かしてみせた。しかし、実のところ彼女の推理は完全なものではなく、千紘の精神面を考慮して真実のように仕立てあげた単なる可能性の一つを大げさに披露したに過ぎなかった。故に、彼女は千紘の予後を気にかけていたのだろう。
彼女の通う東橋大学のキャンパス内にあるカフェテリアには、却って休日である方が人が少ない。おやつ時の店内では、僕らを含めて数組の客が話に花を咲かせている。
外は気持ちの良い晴天だ。徐々に熱を帯び始めた風が青々とした葉をつけた木々を靡かせて駆け抜けている。その様は見ているだけでも心が洗われ、換気したばかりの部屋のような心地よさを覚える。
長閑な休日のワンシーン。実に平和だ。
しかし、それとは裏腹に僕の心中は穏やかではない。
「どうして勝てないんだ……」
「三連勝だね。これなら何か賭けておくべきだったか……」
ムッとして新藤さんの方を見ると、彼女は悪戯っぽく笑っている。こうしていると、彼女の顔立ちのあどけなさが本当に際立つ。
未だに居酒屋でアルコールを頼むと年齢確認されるというのも頷ける話だ。
「ぐっ……もう一回!」
「うふふ、仕方ないなあ河野くん」
新藤さんは白いビニール袋から再び板チョコを取り出した。そのすらりと綺麗な指で箱を開け、銀色の包装を破ってチョコ全体を引っ張り出す。
包装の上に置かれたチョコは、コンビニで買ってきた何の変哲もない板チョコだ。縦横に割線が入っており、それによって6列✕4段に分けられている。
新藤さんがそのまま長方形のチョコを割ると、パキリと小気味よい音を立てた。
「はい、君の番だ」
彼女はそう言って残りのチョコを手渡すと、割った方は口に入れてしまった。
僕は渡された長方形のチョコを受け取り、長方形の長辺を削るように彼女と同じように割って、残りを彼女に渡す。
受け取った彼女は、やはりまたチョコを割って僕に返してくる。
そうしたやり取りが幾らか続いて……。
「勝負アリ、だね」
「何でだ……っ!」
新藤さんは悔しがる僕に最後のひとかけを渡した。
「これで四連勝……もう諦めたまえよ」
新藤さんは哀れみすら含んだような目でこちらを見てくる。弱いものいじめは気が進まん、とでも言いたげな顔だ。
しかし、口元は笑っているあたり、完全にからかっているのだろう。わざとなのかは分からないが、そのニヤつきが悔しさを煽る。
それでも持ち前のかわいらしさでイラッとは来ないあたりが彼女のすごい所だ。
僕と彼女のしている勝負というのは、チョコ割りゲームだ。
やり方はすごく簡単。適当な板チョコを買ってきて、お互いにチョコを割っていく。僕が割ったら新藤さんに残りを渡し、新藤さんは更にチョコを割って僕に渡す。
そうして最後のひとかけを掴まされた方が負け、という訳だ。
チョコはどこで割っても良いが、必ず割線に沿って縦か横に真っ直ぐ割らなくてはならず、途中まで割って凸凹な形にすることは出来ない。
おやつのついでに始めた極めてシンプルなゲームだ。そして僕はその極めてシンプルなゲームで四連敗を喫したところだ。
「……」
「おいおい、不貞腐れるなよ」
負け続けた僕が大人気なくむくれてやると、新藤さんは少し困ったように眉を下げた。
「私が悪かったってば」
「……僕が弱かっただけですよーだ」
「いや、それは当然のことなんだよ」
彼女の言い様に、僕は一瞬追い討ちをかけられたのかとさらに凹みそうになるが、すぐに違和感に気づく。
「当然のこと……?」
「そう、当然のこと。意地悪してごめんね」
彼女はチョコレートをかじりながらこちらにウインクしてみせた。
「このゲーム、必勝法があるんだ」
懲りずに読者様へ挑戦状!!
チョコレート割りゲームの必勝法とは何でしょうか!
分かった方はメッセージか活動報告か何かで教えてくださいっ!笑
分からない方はチョコレート買い込んで試してみましょ!笑




