19 友達になろう?
「えーと、何から話せば良いかしら?…え、この世界について?……この世界を舞台としたゲームについて…のことですの?」
「乙女ゲーム?」
イベリアの口から出たのは、聞いたことの無いジャンルのゲームだった。
「えぇ、私も彩音から聞いたのだけど…シュミレーションゲームのことらしいわ。なんでも、女性の主人公が攻略対象キャラと呼ばれる男性を惚れ込ませて異性間交流をする内容…みたい。」
言いながら口籠るイベリアは「うーん、うーん」と魘された。
「あ…まだ調子悪い?お水持ってこようか?」
もしかして、さっき倒れたのがまだ後を引いてるのかと思って聞いてみたが「大丈夫ですわ」と言う。
「……アネットさん、ごめんなさい。」
「うん?…大丈夫だよ。具合が悪い人がいたら心配するのが当たり前だもん。」
「有難う御座いますわ…でも、そのことでは無くて…私、記憶を探ってみましたが、どうしてもルビィをドラゴン化させる方法が思い出せませんの。……確か、一度彩音が言って筈なのに…」
……。そうか、イベリアは知らないのか。あの、女神の様な微笑みを浮かべたイベリア…彼女は3人目のイベリアと呼ぶことにして。彼女の「誰かが私に魔法をかけている」という言葉…私はいつの間にか本目的であるルビィのドラゴン化よりもその言葉の意味について探ろうとしていたらしい。
本目的であるルビィについて調べるのも大事だが、どうにもその言葉の方がひっかかる。
『後はあの子達から聞いて』
3人目のイベリアの言うあの子達というのは多分イベリアのことだろう。シャーロット・イベリアと西野彩音…3人目のイベリアは一体誰だ?2人の間って何だ?
「……あ、でも、彩音に聞けば何かわかるかもしれませんわ!…えーと、とりあえず真実の部屋へ行って…ってあれ、あぁ!今もう真実の部屋にいるのに……!」
考え込んでしまった私を元気付けるかの様にいきだったイベリアだが、彼女も疑問の渦に呑まれてしまったらしい。
「そういえば、真実の部屋では西野彩音の方が主導権を握りやすい、って言ってたよね?」
「えっ、えぇ…何だか不思議な感じ。いつもだったら、真実の部屋にいる内に意識が薄くなっていくのに…今はそんな感じがしませんわ…」
どうしたのかしら?と不安がる彼女に違和感を感じた。
「西野彩音のこと、嫌いじゃないの?」
つい、口から出てしまった言葉。それに対して、不躾に思える言葉に彼女は律儀に答える。
「彩音のことは……私も最初は、自分の中に他の人間がいるという感覚に気持ち悪いとか思っていたわ。彼女が表にいる間は私の意識も薄くなるし、彩音自体を嫌な奴だとも思うし…
でも、
イベリア家の人間として…貴族として厳格に育てられた私は彼女の自由さを羨ましくも思ってるの。」
貴族たるもの言葉使いは、いつだって丁寧に…仲の良い友達に対しても。
将来は、家の為に結婚をする…自分の夢や目標に向かって一直線になることもなく。
…例え人の迷惑になっても、人なんて気にせずに進む彼女を羨ましく思う。もちろん、いけないことだとはわかっているけど。
そうな風に語る彼女に対して、私は思ったよりも驚かなかった。
私は友達もいないで一人でいる。イベリアも同じだったのかな?…私はイベリアの周囲にはとりまきだとか人がいて羨ましくて、苦手だった。…でも、イベリアはいつも孤独だったんだね。
「ねぇ、イベリア。イベリアのこと…名前で呼んでいい?」
気が付けば、口が開いていた。なんだか、とても彼女に親近感が湧いたのだ。イベリアと友達になりたい。…これは、ルビィがどうのとかそういう問題とか関係無しに私の思ったこと。
しばらく何も言わず固まってしまった彼女だが、
「もちろんですわ!」
笑顔で応えてくれて、なんだか嬉しかった。




