16 2つの心に1つの体
彼女は真剣に言葉を発したのはわかる。わかるのだが……
「えっと…ゲームの話?」
まさかゲームの話をされるとは思わなかった…というか、すごいタイトルだな。まるで、小説の様な…
「…知らないの?嘘!あんたも転生者なんでしょ!」
……?転生…?…あんた“も”?
「えーと、イベリアは前世の記憶を持ってるの、かな?」
「……え、あ……じゃあ、じゃあ!なんで、ルビィを持ってるのよ?……あ、いえ。そうね。普通は、意味がわからないわよね…
えぇ。私は前世の記憶があるの。」
……私はここでなんと答えたら良いのだろう?だからどうした。と言ってやりたい心境なのだが…
「うーん、そうね。これじゃあ、わからないわね…先に要点を言うわ。あなたを中心に周囲の人間が魔法にかけられてる。」
「どういうこと?私、魔法なんて使って無いよ。」
「えぇ、あなたが魔法を使って無いのはわかるわ。誰かがあなたに魔法をかけている。…最初は私もあなたを疑ったわ。だけど、あなたは転生者じゃないと言った。」
「転生者じゃないから?そんなのが理由で良いの?」
「……全て私の憶測の話よ…まずは、私自身の話を聞いてくれるかしら?」
私は頷く。彼女はころころと態度が変わってよくわからない。でも、今の彼女ならきちんと説明してくれるだろうと直感した。…イベリアもそれをわかっているのだろう。だから、説明を早急にしようとしてる。
「私は前世では、西野彩音という名前の人間だったの。そこで、西野彩音はあるゲームをしていたの。そのゲームのストーリーがこの世界の歴史にそっくりなのよ…。
私は、この世界に来た時に自分がゲームのヒロインになれると思ったわ。ほら、禁忌とされてるみたいだけど…よく魔力を持つ者が本の世界に入って主人公に成り代わっていたって言うじゃない?それと同じよ。」
イベリアが言っているのは、魔犯罪“本喰化物”だろう。魔力を用いて書いた本のストーリーには、その本の登場人物にそれぞれ生命が与えられる。生命を操ることになるので禁忌とされているが、それをまず出来る人間がいないのだ。それをするには、生命を操るのに大量の生贄に大量の魔力が必要になる。
確かに、本喰化物の効果は生命を操る…そのストーリーに新たな登場人物(生命)を加えたりすることが出来るし、その登場人物の記憶を弄ることも出来る。しかし、本の世界では自分達が本のキャラクターであることを知らずに存在しているのだ。本のキャラクターは作者の都合によって様々な動きをする。全て、作者の掌で動いている。だから、作者自身を、自分を主人公として御都合主義的に動くのも可能だ。
「……聞いたことない。自分でなく、他人を本喰化物の効果の対象とするなんて。面白がって、にしても膨大な魔力に生贄。そんなひょいひょいと出せるものじゃない。」
「……。そうじゃなかったにしても、この世界は私にとってはゲームの世界。でも、シャーロット=イベリアにとっては現実なのよ。他の小説の主人公の様に前世の知識を使って困難を超えていくこともそうそう出来ない。2人の人間が1つの肉体の中にある状態。シャーロットが滅多に真実の部屋に行かなかったのは西野彩音を表に出さない為よ。あの子はこの世界をゲームとして拘りを持っていたからね。それを現実で生きているシャーロットが押さえ込んでいた。でも、この間あなたが私に魔法をかけたおかげで西野彩音が表立って自分を主張した。それで、少しはすっきりしたみたい。そして、他の生徒会役員の前でも表立って動ける様になった。シャーロットが無理矢理に抑えるのを軽減したのよ。だから、あなたに感謝してるのよ?」
「ねぇ、あなたはどっちなの?イベリア、それとも西野彩音?」
彼女の意見はまるで自分のことでは無いかの様に客観的かつ自分の気持ちに感情的に喋っていた。
「私は、彼女達の間。どっちでも無いわ。だって、あなた…どちらかが喋ったって全部彼女達の主観になった話になるから理解出来ないでしょう?
話を最初に戻すわ。あなたは誰かに魔法をかけられている。多分、皆があなたを好きになるような魔法。…皆が魔法をかけられてるとわからない位に徐々に、よ。
……後はあの子達から聞いて?私は一旦消えるから…。」
彼女は優しい笑顔で言った。女神の様な笑顔。私はその笑顔に見惚れていた…




