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第二十六章 夜の石舞台

その夜。


沈帰塵は旅館の窓辺に座っていた。


灯りはつけない。


街灯の明かりだけが部屋へ入ってくる。


珠を手首から外す。


机の上へ置く。


目を閉じる。


最初は何もない。


闇だけだった。


やがて。


砂が現れる。


見えるのではない。


感じる。


乾いた砂。


風。


顔へ当たる砂粒。


遠くで鈴が鳴る。


駱駝だった。


ゆっくり。


ゆっくり。


一人の男が歩いている。


長衫。


笠。


疲れている。


それでも歩き続ける。


長い旅だった。


やがて。


城門が見えた。


長安。


人があふれている。


男は門をくぐる。


人波へ消えていく。


景色が変わる。


今度は海だった。


船が揺れる。


風が強い。


同じ男が船首に立っている。


手には玉。


欠けた玉だった。


強く握っている。


風に奪われないように。


その姿も、


やがて消えた。


沈帰塵は目を開けた。


珠を手首へ戻す。


窓辺へ立った。


若草山の方を見る。


西村敬も、


きっと、


毎日ここを見ていた。


朝も。


夕方も。


二十年間。


誰にも知られず。


高田は、


明日も山へ登る。


明後日も。


その次の日も。


誰かが見ている限り、


山は黙ってそこにある。


沈帰塵は窓を閉めた。


夜は静かだった。


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