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第二十一章 カフェ再び

午後、沈帰塵はあの無名のカフェへ入った。


風鈴が鳴る。


「アメリカン、ホットで。」


窓際の席に座る。


猫がいた。


今日は外ではない。


店の中だった。


いつもの席で丸くなっている。


彼が近づいても動かない。


ゆっくり顔を上げる。


目が合う。


猫がゆっくり瞬きをした。


彼も静かに返した。


猫はまた目を閉じた。


沈帰塵は隣の席に座った。


『石舞台発掘調査概報』を開く。


阿倍の名がある。


その横の小さな書き込み。


「協力者。地元古老より聞き取り調査。」


彼はもう一冊の本を開いた。


『飛鳥の水脈』。


西村敬。


第三章。


石舞台と地下水。


赤鉛筆の線が引かれている。


「石舞台の地下には人工的な水路の痕跡が残る。」


彼はページを閉じた。


コーヒーを飲む。


少し冷めていた。


店主が声をかける。


「猫、今日は中ですね。」


「そうですね。」


「あなたが来る日は、不思議なことがあります。」


沈帰塵は少し笑った。


「何もない日はありません。」


店主もうなずいた。


沈帰塵は窓の外を見た。


阿倍仲麻呂は帰らなかった。


帰れなかった。


帰ったのは、人ではない。


遺された物だけだった。


そのことに気づくまで、一千三百年かかった。


彼はずっと中国で探していた。


断玉の欠けた理由を。


答えは奈良にはないと思っていた。


だが違った。


最後の欠片は、奈良へ渡っていた。


だから来た。


探していたのは石ではない。


宝でもない。


一つの因果だった。


彼はコーヒーを飲み干す。


立ち上がる。


「ごちそうさまでした。」


「ありがとうございました。」


風鈴が鳴った。


外は冬の風だった。


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