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第十七章 坐る
沈帰塵は古墳の前の草地に座った。
高田も隣に座る。
「何か、できることはありますか」
高田が言った。
沈帰塵は答えなかった。
目を閉じる。
「毎日、ここに座れ」
「何のために」
「見るために」
「何を」
「山が教えてくれることを」
高田はノートを閉じた。
夕方の光が奈良盆地に落ちている。
家々の明かりが、一つ、また一つと灯り始めていた。
沈帰塵は目を開ける。
「今日はもう帰れ」
高田は立ち上がった。
小さく頭を下げる。
そして山を下りていった。
沈帰塵はまだ座っていた。
風が南から吹いてくる。
枯れ草の匂いがする。
彼は珠を手首から外した。
掌の上に置く。
風が珠を撫でていった。
何かを伝えるようだった。
彼は珠を耳元へ近づける。
遠くでラクダの鈴が鳴っている気がした。
砂漠を歩く誰かの足音。
もう何百年も前の音だった。
誰も覚えていない。
珠だけは、まだ覚えている気がした。
沈帰塵は珠をしまう。
そして立ち上がった。
一人で山を下りていく。
彼の後ろ姿は、暮れなずむ山道の向こうへ消えていった。




