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第十五章 頂上

頂上は開けていた。

草は短く、冬の風に地面へ押し付けられている。

遠くに奈良盆地が広がっていた。

東大寺の屋根。興福寺の塔。平城宮の跡。

すべてが小さな点のように見える。

一人の若い男が草地に座っていた。

ダークグレーのジャケット。

黒いスニーカー。

手にノートを持っている。

風景を見ているわけではなかった。何かを考えているようだった。

沈帰塵が彼のそばを通りかかった。

「あの――」

沈帰塵が足を止める。若い男が顔を上げる。その服装に、一瞬だけ目を留める。

「您是中国人?」

沈帰塵がうなずく。若い男は立ち上がり、軽く頭を下げた。

「奈良警察署の高田です。今日は休みです」

日本語に切り替え、ノートを閉じる。

沈帰塵は彼の手元を見た。ノートの表紙は古い。角が擦り切れ、白くなっている。


沈帰塵は何も言わず、頂上の古墳を見た。

封土は草に覆われ、周囲の斜面と一体化している。

注意しなければ、古墳だと気づかない。

彼はしゃがみ込み、封土の縁に指を止めた。土の色がおかしい。青みがかった黄土色の中に、赤黒い粒が混じっている。自然のものではない。

高田が言った。

「この山、何か変だと思いませんか」

声は高くない。何気なく尋ねるような口調だった。

沈帰塵は答えなかった。

古墳の周囲を歩き、別の場所でしゃがみ込む。

地面の苔を見ている。苔の一部が途切れている。自然に切れたのではない。人の手が触れた痕跡だった。

「あなたの先生は、ここに来ていた?」

高田の指が、わずかに動いた。

「どうして――」

「あなたが言った」

沈帰塵は立ち上がった。

「この山。あなたがここにいるのは、あなたの先生もここにいたからだ」


高田は黙った。しばらくの間があった。風が吹いている。

「三か月前です」高田が言った。

「私の先生が、この山で亡くなりました。西村敬。京都大学で哲学を教えていました」


沈帰塵は何も言わなかった。ただ、高田を見ていた。

「先生は毎日、この山に来ていました」高田は続けた。

「雨の日も、雪の日も。二十年近く。散歩だと言っていましたが――」

「散歩じゃない」

沈帰塵の声は静かだった。彼はもう一度、古墳の封土を見た。土の色。赤黒い粒。何かが撒かれた痕跡。

「あなたの先生は、この山の下の水を守っていた。目には見えない。だが、ずっと流れている。それを、誰かが動かそうとしている」


高田はノートを握りしめた。何か言いかけて、やめた。

沈帰塵は山の東側を見た。尾根の向こうに細い沢がある。水の流れが途中で曲がっている。不自然な曲がり方だった。

「あなたは、先生のことを調べている」

高田はうなずいた。

「先生の死因は、はっきりしていない。自然死とは言えない――そう思って、調べている」

「わかったことは?」

「まだ、何も」

高田の声はかすれていた。疲れていた。三日間、眠っていないような口調だった。

沈帰塵は彼を見た。若い。悲しんでいる。何かを必死に掴もうとしている。

「毎日、ここに来ているのか」

「はい。仕事の前と、仕事のあとに」

「二十年くらいか」

「……はい」

沈帰塵はもう一度、古墳を見た。草が風に揺れている。赤黒い粒は、雨が降れば流れ去るだろう。時間が経てば、苔がまた生えるだろう。だが、その下の水は、もう戻らないかもしれない。

「明日」沈帰塵が言った。「もう一度、ここに来い」

「何のために」

「見るために。あなたの先生が見ていたものを」

沈帰塵は振り返らずに歩き出した。

風が後ろから押していた。草が倒れる音だけが、しばらく聞こえていた。高田はその場に立ち尽くし、彼の背中が小さくなるまで動かなかった。


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