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第十三章 古本屋

翌朝、彼は三条通近くの路地で古本屋を見つけた。

看板には「奈良書房」とある。

手書きで、墨は薄れていた。

扉を開けると、古い紙と埃の匂いがした。

店は狭い。

本棚は天井まで続いている。

老人が奥で本を読んでいた。

彼を見ると軽くうなずき、また本に戻った。

彼は本棚の間を歩いた。

奈良の歴史、古墳の本。

一冊を抜き取る。

『石舞台発掘調査概報』

表紙には除籍印。

ページをめくる。

第三章。

発掘調査の経緯。

その中に名前があった。

阿倍。

阿倍某――清乃の曾祖父。

「地元協力者」

彼の指が止まる。

この人物は発掘に関わっていた。

考古学者ではない。

地元の協力者。

彼は別の記憶を思い出す。

南京の書店。

風水の本。

著者の名前が自分だった。

内容は知っているものだったが、どこか違っていた。

誤りと欠落。

誰が書いたのか分からない本。

彼はさらにページをめくる。

調査団の写真。

最後の一枚。

石舞台の前の集合写真。

後列の右端。

そこに、あの中国人がいた。

長衫。

姿勢。

同じ存在感。

写真の下に小さく書かれている。

「大正三年、発掘調査終了時」

本を閉じる。

レジへ向かう。

「五百円」

財布から出して置く。

「ありがとうございます」

老人が紙袋に入れて渡す。

そのとき、老人が言った。

「あの写真、気になりましたか」

彼は振り返る。

「中国人ですか」

「ええ。父が知っていたと言っていました」

「お父様が」

「ええ。もう亡くなりましたが。調査のとき現場に案内したそうです」

「その中国人は?」

「石舞台の下に何かある、と言っていたそうです」

「何と」

「入口は見えない。でも何かがある、と」

彼はうなずいた。

「ありがとうございます」

店を出る。

朝の光は柔らかい。

川は変わらず流れている。

東から西へ。

千年ずっと。

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