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第十二章 三条通

博物館を出ても、彼はすぐには戻らなかった。三条通を西へ歩く。


奈良漬の店の前を通り、暖簾が風にふくらんでいる。小さな寺の前を通る。山門には「十輪院」とある。門は閉じている。橋に出た。橋の下の水は浅く、ゆっくり流れていた。彼は欄干に手を置き、水の流れを見た。東から西へ流れている。


そこへ自転車の老人が通りかかる。後ろには葱が数本くくりつけられている。


「観光か?」


「はい」


「そこの寺、寄ったか」老人は顎で十輪院を示した。


「いいえ」


「寄りなさい。いい寺だ」


「はい」


老人はそのまま走り去った。青い作業服。灰色の帽子。葱が風に揺れていた。彼はその背中を見送った。


そして八百年前を思い出した。鎌倉。ある村で、老人が竹籠を編んでいた。道を尋ねた。老人は彼を見て「僧か」と言った。違うと答えた。「その服は何だ」「漢服だ」「漢服?」「中国の服だ」「中国はどこだ」「遠い」「そこで何をしている」「人を探している」「見つかったか」「まだだ」「どうする」「続ける」老人は竹籠を差し出した。「持っていけ。使うだろう」彼は受け取った。老人は笑った。「お前は悪い奴には見えない」「なぜ分かる」「こういう老人に話しかける奴は悪くない」


橋を渡り、彼は歩き続けた。パン屋の前には列ができている。主婦、母親、会社員。誰も話さない。バターと小麦の匂い。彼は路地へ入る。古い木の家、狭い道、蔦。一軒の家の前に鏡が置かれていた。向かいの窓を映している。彼は立ち止まるが、呼び鈴は押さない。六百年前を思い出す。江南の町。隣家の老夫婦。鏡をめぐる口論。


そしてまた歩く。風鈴の音。カフェに入る。


「アメリカン、ホットで」


コーヒーは来た。緑のコースター。葉の模様。彼は銅鏡のページを開く。坎卦、水、北方。珠を取り出す。離卦、火、南方。反対。彼はもう一度つけ直す。離と坎は対立ではない。同時に石舞台へ向かう。彼はそう理解する。


コーヒーは冷えていた。


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