第3話 兄妹を支配する聖女 ※セコ視点
放課後、私はタダシの部屋に遊びに来ている。
「ねぇタダシ、部屋に隠してるエロ本のありか、そろそろ白状してもいいんじゃない?」
私は清楚スマイルを浮かべながら、ベッドの下に視線を滑らせる。
「はぁ!? なんで俺がそんなもん隠してる前提なんだよ!」
タダシは顔を真っ赤にして声を荒げる。
「だって、男の子でしょ?」
私はわざと無邪気に笑ってみせる。
「……こいつ、ほんと人の家を自分のテリトリーみたいに扱いやがって……」
タダシがぼやいたその時──。
ピンポーン。
玄関のインターフォンが鳴る。
「兄貴?荷物重いから手伝って!」
外出から戻った妹さんの声。
両親は留守らしい。
「お、おう!今開ける!」
彼は慌てて返事をし、私に向かって言った。
「俺、妹の荷物持ってくるから、この話はここまでな!」
そう言って逃げるように階段へ向かう。
「ちょっ、何話そらしてるのよ!私も妹さんの荷物手伝うから!」
私は追いかけて階段を駆け下りる。
しかし──。
「きゃっ!」
足を踏み外しバランスを崩す。
「セコ!」
タダシが咄嗟に抱きとめようとしたが、二人揃って階段から転げ落ちた。
ドサッ。
階段の下、玄関前。
受け身を取ったタダシのおかげで私は無傷だったけど、気づけば彼が私に覆いかぶさっていた。
顔の距離は数センチ──キス寸前!
彼の息が頬にかかり、心臓がバクバクと跳ねる。
さらに、落ちた拍子に私の上着がはだけ、ブラがちらり。
そのブラの上からタダシの片手がぴたりと重なってしまう。
「……なっ!」
私は目を見開き、頬が一気に熱くなる。
「わ、悪い!俺──」
タダシが慌てて言い訳しようとした瞬間。
「こ、こ、このどスケベど変態野郎ー!!」
「ぐはぁ!」
私は反射的に彼の顔へ平手打ちをおみまいした。
その直後──。
ガチャッ!
玄関のドアが開き、荷物を抱えた妹さんが立ち尽くす。
「兄貴?今すごい音したけど……って、ええー!?」
目の輝きが一瞬で消え、状況を理解した彼女は顔を真っ赤にして慌てて荷物を置いた。
「ご、ご、ごめんなさーい!!」
それと……。
兄貴。最低」
「あ、ちょっと待て、にに──!!」
タダシが必死に呼び止める。
「馬鹿兄貴、うっせえって言ってんだろ!」
「お前は何でいつもそうなんだよ!」
タダシの声も虚しく、彼女はそのままドタドタと玄関を飛び出していった。
私は頬を赤くしながら、タダシと気まずく見つめ合う。
そんな気まずい空気の中、彼は私にジュース買ってくると言い残してコンビニへ。
それから──
彼の部屋に一人残された私の前に、さっき逃げた妹さんが戻ってきた。
「えっと……さっきは、ごめんなさい、なのです」
彼女はバツの悪そうな顔で小さく頭を下げた。
私も頬を赤くしながら、ぎこちなく笑う。
「私こそ悪かったわ。驚かせてしまってごめんね」
すると彼女はふんわりと表情を和らげ、ぴょこんと立ち上がる。
「ボク、宗方仁姫です。ににって呼んでください。中学二年生!兄貴の舎弟です!」
「……舎弟?」
私は目を瞬かせた。
「そう!ボクにとって兄貴は仁義を体現する親分なのです!」
それから、ににちゃんは瞳をギラリと光らせ、私にぐいっと顔を近づける。
「お姉さん、セコさんっていうんですよね?
あなたのことは兄貴から聞いてます、なのです。
だから……セコさん? 兄貴との関係、洗いざらいぜーんぶ吐いてもらいましょうか?」
「えっ……」
私は思わず後ずさりする。
(そうだわ……妹ちゃんは甘いものに弱いってタダシに聞いてたっけ)
私は手土産に持ってきていた人気店のプリンを差し出す。
「これ、よかったら食べながら話さない?」
「え!!」
すると、ににちゃんの目が一瞬輝く。
……しかしすぐにそっぽを向く。
「い、言っときますけど、スイーツでボクを釣れると思ったら大間違いなのです……」
だがその言葉とは裏腹に、彼女の口からはヨダレが溢れ、視線はプリンをガン見していた。
(この娘──なんてわかりやすの!?)
そして、プリンを一口食べた瞬間、彼女は表情をほころばせた。
「おいちぃ〜!幸せ〜♡」
さっきまでのににちゃんの姑モードはどこ吹く風。甘いものの前にあっけなく崩壊。
それから──。
「な〜んだ、二人は付き合ってなかったんですね。心配して損しちゃいました」
ににちゃんはふんわり妹モードに戻り、私に笑いかける。
「でもね、ボクの兄貴、マジでヤバいくらいカッコいいんですよ!」
そこから始まる兄自慢のま〜止まらないこと。
それでも私は「うんうん」と相槌を打ちながら、心の中で思う。
それから10分後……。
タダシは「ジュース買ってくる」と言い残して部屋を出てい(……この子、完全にブラコン拗らせてるわ)ったから、まだ戻って来ない。
私はベッドに腰を下ろし、頬をふくらませた。
「……逃げたわね、タダシ」
清楚スマイルの裏で、目がすっと細くなる。
「ふふん。じゃあ、ちょっと腹いせでもしてやろうかしら」
私はタダシの机に近づき、引き出しを勝手に開けた。
中にはノートや筆箱、プリントが整然と並ぶ。
「へぇ、意外と几帳面なのね」
そう言いながら、私はタダシのノートの宿題のページを一枚だけ抜き取り、代わりに、別に見つけておいた彼のエロ本のページを紛れ込ませ、ページの束に合うようにもう一度丁寧に縫い付ける。
さらに、明日は体育がある。
私は、予め持ってきておいた自分の女子用の体操服から私の名前を消し、
こっそり彼の体操服と入れ替えた。
明日学校で使う時に必ず混乱する仕掛けだ。
(彼の元の体操服は私が明日代わりに持って行くとして、明日返してあげるかは彼の態度次第ね)
「ふふ、学校であいつが困る顔が目に浮かぶわ……これは飯ウマね!」
私はくすくす笑いながら、何食わぬ顔でテーブルに戻った。
その様子を見ていたににちゃんは、一瞬目を丸くすると、呆れたように呟く。
「セコさん……あなた、けっこうえげつないですね」
私は清楚スマイルを浮かべて肩をすくめる。
「ズルは私の処世術よ。可愛いから許されるの」




