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チートでもらった【アクセサリ制作】はおまけでした。本命は装備枠無制限だけど、カードに載らないし関係ないよね?   作者: めざし


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第三話 損が、嫌いなだけ

王狼の牙の一員になって、一年が過ぎた。

季節はもう二巡目に入り、俺は十五歳になっていた。この一年で、俺の日常はすっかり形が決まっていた。朝一番に起きて掃除と買い出し。昼はダンジョンで荷物運びと剥ぎ取り。夜は装備の手入れと、素材の売却。合間に雑用が入る。そういう毎日だ。


変わらないものが、もうひとつあった。


俺の冒険者ランクは、いまだにFのままである。

レベルも、1から一度も上がっていなかった。当然だろう。魔物を倒したことが、ただの一度もないのだから。とどめは全部、四人が刺す。俺は後ろで荷物を抱えて、それを眺めているだけ。


―経験値なんて...入るはずもなかった。


でも、それでいいと思っていた。


俺は荷物持ちだ。戦うのは、あの人たちの仕事。役割が違うのだから、それでいい。そう自分に言い聞かせて、俺はその日も、素材を卸すためにギルドへ向かった。


その日、俺はまた、飯を抜いていた。

三日前にもらった分け前は、いつもの安物のアクセサリと、銅貨が数枚。宿代を払えば、もう手元にはほとんど残らない。パンひとつ買うのも、迷う。そういう財布事情だった。

空きっ腹を抱えたまま、ギルドの依頼掲示板の前で、俺はぼんやり立っていた。


「——ちょっと、あんた」


鋭い声が飛んできたのは、そのときだった。

振り返って、俺は一瞬、視線を下に落とすことになった。声の主が、思ったより小柄だったからだ。

俺より頭ひとつ小さい、小柄な女の子だった。年は少し上だろうか。左右で高く結った赤みがかった栗色のツインテールが、腕を組んで仁王立ちする動きに合わせて、ぴょこりと揺れる。つり上がった猫みたいな目が、まっすぐ俺を睨みつけていた。小さいのに、やたらと迫力がある。

魔術師らしい紺のローブを着て、その肩越しに、へらへらと笑う大柄な男が見えた。小柄な彼女と並ぶと、まるで大人と子供みたいな体格差だった。


「あんた、王狼の牙の荷物持ちよね。前から見てたけど」

「え、あ、はい。そうですけど……」


彼女は、つかつかと歩み寄ってきて、下から俺の顔を覗き込んだ。小柄なぶん、睨み上げる格好になる。それでも、猫目の眼力はまるで衰えなかった。


「……こけた頬。落ちくぼんだ目。手首、枯れ枝みたいじゃない。あんた、まともにご飯食べてないでしょ!」


図星だった。俺は、言葉に詰まった。


「い、いや、そんなことは」

「ごまかさなくていいわよ。見りゃわかる」


彼女は、ふんと鼻を鳴らした。それから、後ろの大男を肘でこづく。


「バルト。あんたの持ってる串焼き、こいつに」

「え、俺の? まだ食ってる途中なんだけど」

「新しいの買ってあげるから。ほら、早く」


バルトと呼ばれた男は、やれやれと肩をすくめて、食べかけの串焼きを俺に押し付けてきた。……いや、食べかけはさすがに、と思ったが、女の子の目がそれを許さなかった。


「食べなさい」

「え、でも」

「いいから食べなさいよ! なんであんたがご飯抜きで、あたしがイライラしなきゃいけないの! 意味わかんない!」


小柄な体で、精いっぱい吠える。ツインテールが、ぶんぶん揺れた。怒っているのに、どこか小動物が威嚇しているみたいで—と思ったのが顔に出たのか、彼女の目つきが、さらに鋭くなった。


「……なに、その顔。文句あるわけ?」

「い、いえ! いただきます!」


怒られた。ご飯を恵んでもらいながら怒られた。

わけがわからないまま、俺は串焼きにかじりついた。冷めかけていたけれど、それでも、じんわりと美味かった。空腹に、肉の脂が染みわたる。


「……美味しい、です」

「当たり前でしょ。バルトの奢りなんだから」

「俺の!?」


バルトが素っ頓狂な声をあげた。女の子は、それを完全に無視した。


その女の子は、ミレイと名乗った。

隣の大男が、戦士のバルト。二人は同じパーティを組んでいる冒険者で、俺たちより少しだけ格上の——銀級のパーティだと、あとで知った。


「あんた、名前は」

「レイ、です」

「ふうん。レイね」


ミレイさんは、腕を組んだまま、また俺をじろりと見た。


「あのねえ、レイ。あたし、はっきり言うけど。あんたのいるパーティ、おかしいわよ」

「え……?」

「金級パーティが、荷物持ち一人にまともなご飯代も渡してないって、どういうこと? 分け前、ちゃんともらってんの?」


俺は、正直に答えた。安物のアクセサリと、銅貨が少し。そう言うと、ミレイさんの眉が、これ以上ないくらい吊り上がった。


「はあ!? それだけ!? あんた一年も働いて、それだけなの!?」

「で、でも、俺は荷物持ちですし。戦ってるのはあの人たちだから」

「そういう問題じゃ——」


言いかけて、ミレイさんは、ぐっと言葉を飲み込んだ。何かを言おうとして、けれど、それを引っ込めた。

代わりに、彼女はそっぽを向いて、吐き捨てるように言った。


「……まあ、いいわ。あんたのパーティのことに、あたしが口出しする筋合いもないし」


その横顔は、なぜか、悔しそうに見えた。


「勘違いしないでよね。あたしは別に、あんたを心配してるわけじゃないの。ただ—目の前で誰かが損してるのを見るのが、嫌いなだけ。」

「損...ですか」

「そう。あんた、明らかに損してる。搾取ってやつよ。それが視界に入ると、無性にイライラするの。だからご飯を食わせた。あたしのイライラを消すため。それだけの話」


妙な理屈だった。でも、その不器用な言い方の奥に、たしかなやさしさがあることは、鈍い俺にも、なんとなくわかった。


「……ありがとうございます、ミレイさん」

「勘違いしないで!あたしがやりたいからやっただけ!」


ミレイさんは、ぷいっと顔を背けた。ツインテールの毛先を指でくるくるといじりながら、そっぽを向いたその耳は、少しだけ赤かった。


「いやー、うちのミレイは口が悪くてなあ」


ミレイさんが素材の卸しに窓口へ行っている間、バルトが俺の隣に来て、へらりと笑った。


「けど、悪い奴じゃねえんだ。あいつ、ああ見えて情に厚くてよ。困ってる奴、見過ごせねえタチなんだよ。……まあ、本人は絶対認めねえけどな」

「はは、なんとなく、わかります」

「だろ? わかるやつにはわかるんだよ」


バルトは、豪快に笑った。チャラそうに見えて、仲間のことを話すときの目は、あたたかかった。

そのとき、俺はふと思った。

この人たちのパーティは、なんだか、いいな、と。

ミレイさんが損を嫌って怒って、バルトがそれを笑って受け止める。強さだけじゃない、何か—あたたかいものが、二人の間には流れていた。

王狼の牙にも、そういうものが、あるんだろうか。

……いや、あるはずだ。ガロさんは俺を拾ってくれた。ケイルさんだって、最初はきついけど、悪い人じゃない。きっと、俺がもっと役に立てば、あの人たちとも、こんなふうに。

そう思おうとして、けれど、なぜか胸の奥が、ちくりと痛んだ。

その痛みの正体を、俺はまだ、認めたくなかった。


それからも、ミレイさんとは、ギルドでたびたび顔を合わせた。

会うたびに、彼女は「あんた、ちゃんと食べてんの?」と眉を吊り上げ、何かしら食べ物を押し付けてきた。そのたびに「心配してるわけじゃない」「損を見るのが嫌なだけ」と、決まり文句を繰り返した。

フィーネさんの、弟を見守るようなやさしさとは、また違う。

怒りながら差し出される、不器用なやさしさ。

俺には、そのどちらも、あたたかかった。

この街には、俺を気にかけてくれる人が、たしかにいる。

—その事実が、後になって、俺の支えになる。

王狼の牙という居場所を失ったとき。ひとりぼっちになったと思ったとき。差し伸べられた手が、この二人だったのだと知るのは、まだ、もう少し先の話だ。


一方その頃。

俺の知らないところで、王狼の牙の空気は、少しずつ変わりはじめていた。

金級に上がって、しばらく経つ。だが、そこから先—十六階...十七階と...深層へ進むための壁が、どうしても越えられない。フロアボスの手前で撤退する日が、増えていた。


「くそっ、また届かなかったか」


ガロが、拠点で酒をあおりながら舌打ちする。


「なあガロ。うちのメンツ、これが限界なんじゃねえのか」


ケイルの言葉に、ガロは答えなかった。


「上に行くには、もう一人上位職がいる。今のままじゃ、金級止まりだ」


その視線が、部屋の隅で装備の手入れをしている俺のほうへ、ちらりと向いた。

荷物持ちの、Fランク。パーティの戦力には、一切数えられていない存在。

このとき、ガロの頭の中で、何かが、静かに動きはじめていた。

パーティの枠は、五人まで。上を目指すなら、椅子を、ひとつ空けなければならない。

—いちばんいらない椅子を。

もちろん、そんなことをそのときの俺は、知る由もなかった。


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