02『冒険者ギルドが国を潰す日』霧の森のアルヴェイン著
一、著者より
私は霧の森のアルヴェイン。
北部狩猟協会第七代目会長を務めた者である。
年齢については聞かないでもらいたい。
人族の王朝が三つ滅びる程度には生きている。
若い頃は魔獣狩りとして各地を渡り歩き、その後は狩猟協会の運営に携わった。
人生の大半を魔物と人間の境界線で過ごしてきたと言ってよい。
さて、本書の題名を見て眉をひそめた者もいるだろう。
”冒険者ギルドが国を潰す日”
実に刺激的な題名である。
私も出版社から提案された時には反対した。
もう少し穏当な題名はなかったのか、と。
すると編集者はこう言った。
「穏当な題名では誰も読みません。」
残念ながらその通りだった。
だから私は折れた。
もっとも、読み終えた後には諸君もこの題名が決して誇張ではないと理解するはずである。
二、冒険者ギルドは何のために作られたのか
昨今の若者は勘違いしている。
冒険者ギルドは最初から魔物退治のために存在していたわけではない。
そもそも冒険者ギルドとは何だったのか。
答えは簡単である。
貴族の道楽である。
時は第三王国時代。
遺跡探索は一部貴族の間で流行していた。
失われた聖遺物。
古代魔導具。
伝説の武具。
彼らはそうした財宝を求めて各地の遺跡へ人を送り込んだ。
聞こえは良い。
だが率直に言えば盗掘である。
当時の法では遺跡所有権が曖昧だったこともあり、
これらを管理・調査するという建前のためのに、
組織として設立されたのが冒険者ギルドの原型であった。
冒険者とは文字通り”危険を冒す者”であったのである。
一方で、魔物討伐は誰が担っていたのか。
それは狩猟協会である。
狩猟協会は冒険者ギルドとは違い、
魔物を経済活動の道具とは見ておらず、
魔物との共生を図る存在として地域社会に根付いた組織であった。
魔獣には縄張りがある。
繁殖期がある。
生態系がある。
必要なのは無秩序的な討伐ではなく共生であった。
また、護衛任務や山賊討伐は各地の傭兵団が担っていた。
彼らには彼らの流儀があった。
依頼人を守る契約。
契約を果たす責任。
仲間を見捨てない掟。
今では古臭いと言われる価値観である。
しかし状況は変わる。
王国が財政難に陥ったのである。
魔物は増える。
街道整備も必要。
治安維持も必要。
軍の維持費もかかる。
王侯貴族は変わらず国庫を浪費する。
税収は足りない。
いつの時代も同じだ。
そこで考え出されたのが、
”全部まとめて民間に任せれば良い”
という極めて魅力的な発想であった。
そして白羽の矢が立ったのは、
貴族が運営していて制御しやすい”冒険者ギルド”であった。
こうして制定されたのが有名な派遣組織統合法である。
名目は管理の効率化。
しかし実態は利権の一元化であった。
狩猟協会は吸収された。
傭兵団は吸収された。
採集組合も吸収された。
鉱夫労働組合も吸収された。
各地の専門組織は次々と統合されていった。
そして気付けば世界には冒険者ギルドしか残らなくなった。
冒険者ギルドは勝者となった。
そして勝者は歴史を書く。
耳障りの良い甘言だけが流布される。
各組織が守ってきた独自の技術や掟は切り捨てられ、
まったく新しい価値観が生み出されることになった。
三、冒険者は自由なのか
冒険者ギルドの宣伝文句を私は好んでいる。
実に耳触りが良い。
”自由な生き方”
”実力主義”
”誰にでもチャンスがある”
なるほど。
その通りかもしれない。
だが私は一つ問いたい。
その自由とは誰のためなのか。
冒険者は個人事業主である。
依頼を受けるのも自由。
断るのも自由。
死ぬのも自由。
実に結構。
では負傷した時の保障は誰が行うのか。
老後は誰が面倒を見るのか。
依頼中に命を落とした者の家族は誰が支えるのか。
当然ギルドではない。
結局は本人次第である。
組織に縛られない働き方だと人は言う。
それを私は否定しない。
だが縛られないということは守られないということでもある。
これらは全ては同じ意味だ。
かつての傭兵団は違った。
同じ釜の飯を食らった仲間同士、
互いに助け合ってきた。
怪我をした時は治療を行い、
病気になった時は医者へ連れて行った。
傭兵団の団長という親のもと、
全員が兄弟であり家族であった。
優秀な団であれば遺族補償もあった。
負傷兵を養う制度もあった。
狩猟協会には引退した狩人を支援する仕組みが存在した。
狩猟協会は地元に根付き、
周辺住民と共に生活していた。
引退すれば、
協会の伝手を使い、地元で燻製小屋で働くこともできる。
獲物の解体作業のみに従事することもできる。
若い狩人に教えを与えることもできる。
たしかに完璧ではなかったかもしれない。
だが仲間を使い潰すことを前提にはしていなかった。
だが、冒険者ギルドは違う。
登録さえ済ましてしまえば、
矢のように狩場に放ってしまう。
冒険者が潰れれば新しく募集すれば良い。
都市の若者が尽きれば地方から集めれば良い。
それが組織として合理的だからである。
私はその合理性を否定しない。
だが人間を消耗品として扱う合理性を、
果たして進歩と呼んでよいものだろうか。
四、国家は何を失ったのか
国もまた冒険者ギルドに依存している。
いや、依存し過ぎていると言うべきだろう。
魔物討伐は冒険者。
貴族の護衛も冒険者。
国境警備の一部も冒険者。
街道整備も冒険者。
災害対応も冒険者。
何でもかんでも冒険者である。
確かに予算は削減できる。
ギルドは与えられた報酬でやりくりするのだから。
財務官は喜ぶ。
議会も喜ぶ。
貴族も喜ぶ。
だがそれでは”国の人材”は育たない。
軍人は育たない。
貴族は育たない。
当然、国も育たない。
経験は蓄積されない。
技術も蓄積されない。
戦う人材も育たない。
やがて軍は警備隊へ変わる。
さらに年月が経てば儀礼隊へ変わる。
そして本当に動乱が起きた時、
国家は初めて気付く。
自分たちが剣の握り方を忘れていたことに。
便利な制度は危険である。
なぜなら便利なものほど依存するからだ。
冒険者ギルドとは、
国家を支える組織ではない。
私は冒険者ギルドを憎んでいるのではない。
憎んでいると思われているかもしれないが違う。
だが私が真に恐れているのは、
一つの組織に全てを任せる社会そのものである。
狩人は魔物を知っていた。
傭兵は戦場を知っていた。
採取者は素材を知っていた。
だが今、その全ては「冒険者」という一言で片付けられている。
専門性を失った社会は脆い。
そして脆さとは、崩れるまで誰にも気付かれないものなのである。
五、失われた機能を取り戻すために
ここまで私は冒険者ギルドという組織が抱える問題について論じてきた。
無論、一冊の書物で巨大組織の全てを否定するつもりはない。
冒険者ギルドが果たしてきた役割を私は認めている。
多くの街は彼らによって守られてきた。
数多くの魔物が討伐されてきた。
辺境の開拓においても多大な貢献をしてきたことは疑いようがない。
しかし、それでもなお私は言わねばならない。
組織は巨大になり過ぎた。
あまりにも多くの権限を抱え込み過ぎたのである。
魔物討伐。
護衛業務。
素材流通。
遺跡管理。
依頼仲介。
人材斡旋。
今や冒険者ギルドは国家機能の一部と言っても差し支えない。
だが本来、それらは別々の専門組織によって担われるべき役割であった。
一つの組織が全てを管理する社会は効率的である。
しかし効率的であることと健全であることは同義ではない。
健全な社会とは、
多様な組織が互いに監視し、
補完し合う社会である。
私はそう考えている。
六、最終提言
以上のことからに私は、ここに提言する。
”冒険者ギルドは解体されるべきである”
少なくとも現在のような独占的権限は解消されるべきだ。
魔物管理は狩人へ。
護衛業務は傭兵へ。
素材流通は商人へ。
採掘は専業労働者へ。
それぞれの分野を、
適切な知識を持つ者たちへ返還するべきなのである。
また依頼仲介や人材斡旋機能に関しても必要に応じて改善・統合するべきである。
そして何より。
魔物との共生と管理を専門とする新たな狩猟組織の早期設立を私は強く望む。
もちろん、その名称については諸説あるだろう。
仮に私案を挙げるならば、
”霧の森狩猟協会”
などはどうだろうか。
実に響きが良い。
霧の森には長い歴史がある。
かつての会員の多くも存命であり、経験も豊富である。
エルフという種族は、なかなかしぶといのである。
何より私には長い会長職の経験がある。
無論、読者諸君の中には、
「結局それを主張したかっただけではないのか」
と思う者もいるだろう。
それに関しては強く否定はしない。
実際、その通りという側面もあるからだ。
私は狩猟協会の人間であった。
今も誇りを持ってそう名乗る。
数百年以上をその組織に捧げてきた。
であれば、それを失ったことを惜しむのは当然の感情だろう。
だが勘違いしないで頂きたいのは、
私が願うのは”過去への回帰”ではない、
ということである。
役割を取り戻し、社会全体が調和することである。
狩人には狩人の役割がある。
兵士には兵士の役割がある。
職人には職人の役割がある。
そして冒険者にもまた、
冒険者にしか果たせない役割がある。
問題は、それら全てを一つの組織に押し込めてしまったことなのだ。
願わくば人々がこの過ちに気付き、
冒険者ギルドという巨大な独占体制に疑問を抱き、
より健全な社会の在り方を模索することを切に願う。
そして願わくば、失われた狩猟協会の理念が再び世に求められる日が来ることを。
その時もし諸君が新たな会長を探しているのであれば、
幸いなことに私はまだ生きている。
私がこの場で斯く主張するのは、
私の残りの生を全て賭けて、この国の再生を願っているからである。
なんかところどころ変な自我が出ててキモいなって思って貰えれば幸いです。
AI君に「味がしますね」って遠回しにディスられました。




