表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

115/120

115

 異世界宮殿が消え去り、東京は天に蓋をしたような鬱陶しさからは解放されたが、巨大宇宙空母は翌朝もまだ上空に居残っていた。


 しかし、こちらは地上に電磁波障害も起こさないから、異世界宮殿より遥かに気立てはいいらしい。


 空を見上げて、そう東京都民は思うのだが、わけがわからないという点にかけては、どちらも似たり寄ったりであった。


「なんでもいいから、早くここから消えてくれ」


 都民は切実に願ったが、かといって昨日の異世界宮殿のように、直下をほぼ壊滅させるような消えかただけは困る。


 素早い避難のおかげで、人的被害が報告されていないのは幸いだが、一日にして副都心が失われた。


 これは未曾有の大災害なのだが、それでも東京は半ば以上、都市機能を維持してた。


 霞ヶ関官庁街も湾岸道路も無傷で残り、手のつけられない大騒ぎながら、なんとか役割を果たしており、ディズニーランドも新東京国際空港もそれなりに営業している。


 支障は山ほどあったが、都民はけっこう生活できていたのだった。


 テラスに出て空を見上げ、月葉は朝の空気を深呼吸した。


「天気も気分も爽快だ。

 眩しい太陽と白い雲のほかになにもない。

 これが空の正しい姿だ」


 昨日まで、このテラスから見る空は、半ばまで異世界宮殿に覆われていた。


 そして、ここからは宇宙空母の艦影は見えない。


 気分が明るいためか、今朝の月葉は極彩色のゆったりとしたアロハシャツを着ている。


 部屋を出た月葉は軽快に階段を一階まで下り、イーライの部屋の前に立った。


 控えめなノックをしてしばし待ち、応答がないので勝手にドアノブを回す。


 ノブを掴んだ月葉の手に、傷はほとんど残っていない。


 月葉の細胞より二十倍優れた人工細胞と、月葉の皮膚より以下同文の人工皮膚のおかげだった。


「イーライ?」


 細く開けたドアの隙間から覗くと、カーテンがいっぱいに開かれた室内は明るく、日差

しの差し込むベッドにイーライの姿はなかった。


「やっと目が覚めたかな。

 だけどどこへ行ったんだ」


 中へ入り、主のいない室内を検分する。


 ベッドはきちんと整えられてあり、たったいま起きたという雰囲気ではない。


「死んだように眠っていたくせに」


 昨日、宇宙空母に帰還した月葉たちを待っていたのは、異世界猫たちの戦勝祝賀会、いわゆるドンチャン騒ぎだった。


 幾星霜にも渡った戦いを、しみじみと振り返ることも、ましてや涙することもなく、異世界猫たちは大宴会場になだれ込んだ。


 地球人たちも大切な主賓として祝勝会に招かれた。


 というより、むりやり引きずっていかれ、オモチャにされまくった、というほうが正解であろう。


「ようするに、異世界猫はお祭り騒ぎが好きなだけなんだ。

 とても付き合ってはいられない」


 月葉の悲鳴に他の三人も賛成して、一人残念そうなレイといっしょに、いつ果てるともしれない宴会を逃げ出した。


 ようやく家に帰り着き、ぐったりと月葉は居間のソファーにもたれこんだ。


 顔をくしゃくしゃにした眞鳥に、何度となく月葉と貴奈津は抱きしめられたが、二人とも宴会疲れのあまり「まあね」とか「そんなとこ」とか、ろくな返事をしなかった記憶がある。


 今思えば悪いことをした。


 あんなに心配して待っていてくれたのに。


 そして、月葉たちがようやく人心地ついたころ、イーライが突然、


「眠くてたまらない。

 先に休ませてもらうよ」


 といって席を立った。


 倒れそうなほどの睡魔に抗ってシャワーを浴び、宇宙空母内で一度着替えた服をもう一度パジャマに着替えて、それからベッドに倒れ込んだのが、イーライの最後の根性である。


 まだ日のある時間だったが、それきりイーライは眠り続けた。


 心配した月葉が何度か覗いてみたが、呼びかけてもなんの反応も示さなかった。


「カンフルのせいだ、気にするな」


 とレイは言った。


 レイの説明では、カンフルを打つと一時的に元気になるが、後で数倍の疲れが出るのだという。


「だけど、本当にそれだけかな」


 ベッドの前で腕組みをして月葉が呟く。


 そこへ窓の外から挨拶がかかった。


「おはよう、月葉」


 庭からテラスヘの石段を、イーライが登ってきていた。


 明るい茶系の髪が、朝日を受けて金髪のように見えた。


 庭を散歩してきたらしい。


「長いこと寝ていたけど、やっと起きたか。

 年を取ると疲れやすくっていやだよねえ」


「お年寄りの睡眠時間は一般に短いものだよ。

 よく眠るのは若い証拠」


「カンフルのせいだとレイが言っていたよ」


「ああ、そうだったの。

 それできみは……」


「なに?」


「わたしを心配して、様子を見に来てくれたというわけだね」


 ベッド脇の柱に片手をついて、イーライは嬉しそうに笑った。


「全然違う。

 朝食は時間通りだから。

 それを伝えに来ただけだ」


「もっとましな嘘を用意しておきなさい、月葉」


「永遠に眠ってろ」


 言い捨てて月葉は部屋を出ていった。




 同じ頃、ローユンは眞鳥の書斎に呼ばれていた。


 呼びつけられたわけではもちろんなく、眞鳥がローユンの腕を引いて、なぜかこそこそと書斎につれこんだのである。


「栗最中のいいのがあるが、どうかね?」


 机に向かい合わせにかけて、日本茶をすすめながら眞鳥が尋ねる。


 ローユンは礼を言って断ったが、これは当然で、朝食前から最中を食べるやつはめったにいない。


「それより、なにかわたしに話があるのでは?」


「そう、それそれ。

 昨日の今日で慌ただしくてすまないが、なにしろ商売は先手必勝」


 だいぶ前から、眞鳥には秘めていた計画があった。


「なるほど」


 真面目な顔でうなずくが、じつのところ、ローユンには眞鳥の言わんとするところはまるで見当がつかない。


 適当に相槌を打っているだけだ。


 ところが、ローユンを見ていると、相手にはとてもそうは思えない。


 かなりの部分まで理解してくれているに違いない、という錯覚をおこす。


 眞鳥もそうだった。


 いきなり前置き抜きで本題に入ってしまう。


「というわけで、眞鳥グループの次期会長はきみだ」


「話が見えてこないのだが」


「おかしいな」


 眞鳥は首を捻ったが、掻い摘まみすぎたかもしれないと思いなおす。


「順を追って説明したほうがいいかね?」


「できればそう願いたい」


「ま、お茶でも。

 農林大臣賞受賞の狭山茶だが」


「ありがとう」


「さて……と」


 どこから話そう。


 太い眉をしかめて少し考え、眞鳥はポンと手を打った。


「そうだ。

 ローユンくん、きみ、昔はなにをやっていたのかね。

 文官だったことは知っているが、具体的には?.」


「今の日本でいえば、行政官僚のようなものではないかな」


「ということは、商売と共通する才能を持っているわけだ。

 行政は国家的商売なのだから」


「そういうものだろうか」


「この道三十五年のわたしが言うのだから間違いない」


 説得力があるのかないのか、よくわからない。


「では、あなたの経験に敬意を表して、そういうことにしよう」


「うむ、ありがたい。

 そこで、きみのその才能を生かして、今後は多国籍企業眞鳥グループの次期会長として働いてみる気はないかね?」


「厚意はたいへんありがたいが、今はまだなにも考えていない」


「だから早い者勝ちなのだよ。

 ゆっくり考えてくれて構わんが、一番先にきみをスカウトしたのはわたしだということを、くれぐれも忘れないように」


 今までは黙っていたが、眞鳥は以前からローユンの人間性に惚れ込んでおり、ローユンをどうしても後継者に迎えたかった。


 ようやく見つけた人材を、他にさらわれてはたまらないという気持ちが、珍しく眞鳥に押し付けがましい科白を口にさせた。


「しかし、あなたには貴奈津と月葉という正式な子どもがいるはずだが」


「大企業の会長などという煩雑な仕事が、貴奈津に務まると思うかね」


 肯定するかわりにローユンは小さく笑った。


 誰もが納得するように、貴奈津はまるでデスクワーク向けの人材ではないのだ。


「かといって、月葉にはまるで商売っ気がない」


 深々と眞鳥は溜め息を吐いた。


 本人にまったくやる気がないことをのぞけば、能力的に見て月葉は、企業のトップになれば、並外れた手腕を発揮することは間違いない。


 しかしあの性格だから、さぞかし敵も作るだろう。


 その点ローユンなら知的で忍耐力もあるうえに、なにより性格がいい。


 大企業のトップとしての得がたい資質をローユンは備えていた。


 滅多にない逸材だと眞鳥は確信していたのである。


「うんと言ってくれ、ローユンくん。

 これ、このとおり」


 手を合わせて拝み倒す眞鳥に、ローユンは苦笑してついに答えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ