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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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「うわっ!」


 なにかの上に落下して転がり、月葉は叫んだものの、にわかには状況が掴めなかった。


 瞬きして明るい青一色を見あげる月葉を、伸びてきた手が助け起こす。


 風に明るい茶系の髪をなびかせ、微笑むイーライが目の前にいた。


 そして、その隣には見覚えのある黒猫と、水色のふわふわ。


 さらにまわりを、たくさんの異世界猫が取り囲み歓声を上げていた。


「わたしたちは助かったようだよ、月葉」


「イーライ!」


 ここが異世界宮殿の上空を旋回する飛竜の上だと、ワープは成功したのだとようやく気づき、月葉は思わずイーライに飛びついた。


「よかった、無事でよかった、イーライ」


 このような好機をのがすイーライではない。


 月葉をしっかりと胸に抱く。


 周りで見ていた猫たちがそれを見て、大喜びでいっせいに月葉とイーライにまとわりついた。


 そこへ貴奈津の声が降ってきた。


「月葉」


 振り仰ぐと、ローユンに抱き上げられて手を振る貴奈津の姿があった。


 レイとともに、ローユンが飛竜の上に舞いおりてくる。


 月葉たちの乗る飛竜は、来たときと同じ第一号飛竜である。


 最後に異世界宮殿を飛び立ち、他の四体と共に、レイと地球人たちを待って異世界宮殿上空を旋回していたのだった。


 一体の飛竜が体を傾けて隊列を離れ、方向を転じて宇宙空母を目差す。


 その後を残りの四体が次々に続いた。


 眼下では急激に異世界宮殿の崩壊が始まっていた。


 暗黒の穴を抑えるものは、もうなにもない。


 異世界宮殿が内部から崩壊して、中心部に向かって吸い寄せられ落ち込んでいく。


 ひしゃげて圧縮されていく巨大な人工島は、まさに重力崩壊を起こしているように見えた。


「レイ、ダイナーの用意は出来ているな?」


 異世界宮殿の崩壊を眺めていたレイは、振り向いてぎこちなく肯いた。


「う、うん。

 さっき連絡しておいたから、もう照準あわせも完璧だ。

 任しとけ」


 言葉のわりには口の端がひきつっている。


「では起動してくれ。

 周囲が巻き込まれるまえに」


「ほんとにダイナーを使ってもいいんだな?」


「他にない。

 急げ」


「わかった。

 ダイナー起動!」


 レイが声を張り上げる。

 宇宙空母のコンピュータルームで、ダイナーのスイッチが入った。


 ダイナーは一種の転送機で、宇宙のどの空間でも物でも、座標をポイントして瞬時に転移をおこなう。


 宇宙空母が地球上に出現したのも、この方法によるものだ。


 前回、異世界宮殿に使用したときは、異世界宮殿を亜空間に閉じ込めようとしたが今回は違う。


 転移先は、銀河中心にある超巨大ブラックホールだ。


 不要になったファイルを、マウスでクリックしてくずかごに放り込む発想である。


 異世界宮殿の重力崩壊現象が一気に加速した。


 見えない巨大な手で紙くずが握り潰されるように、東京都心を覆いつくした建造物の大集合体が、瞬く間にその大きさを半減させる。


 飛竜の上では、乗客の全員が固唾をのんで崩壊の光景を見つめていた。


 その視界から、忽然と異世界宮殿が消え失せた。


 どよめきと歓声が同時に上がる。


 異世界猫たちが飛竜の上で狂喜乱舞する。


 終わったのだ、もうこれで完全にけりがついたのだ。


 異世界猫たちの言う宇宙の辺境の星、地球くんだりまで追いかけてきて、ようやく異世界宮殿戦はその幕を閉じたのである。


 大騒ぎする猫たちと対照的に、四人の地球人は一見ぼんやりと異世界宮殿の消えた虚空を見つめていた。


 ローユンは風に黒髪とサッシュをなびかせて立ち、イーライは片ひざをついて、貴奈津と月葉は飛竜の背に座り込んで。


 それぞれ胸に去来するものも感慨もあるのだが、周囲の喧噪のため、自分だけの思いに浸ることができない。


 貴奈津が地上に目を移した。


「ダイナーが一緒に吹き飛ばしたのは、どのあたりかしら」


 呟いた貴奈津の頭を、レイがひじでグリグリする。


「バカ者。

 ボクたちのダイナーに失敗はない」


 先程とうってかわって態度が大きい。


 ダイナーは地上に被害を出さなかった。


「ほんと?

 じゃあ、東京は無傷ね」


「そうでもないと思うよ」


 月葉が指差す。


 異世界宮殿直下にあった、およそ半径四キロメートルの円内で、東京の街はほぼ壊滅していた。


「あーあ……」


 深い溜め息をもらしたら力も抜けた。


 ぐらりと傾く貴奈津の肩を、慌てて月葉が隣で支える。


 月葉の手は傷だらけになっていた。


 肩に目をやって、貴奈津が気付く。


「かわいそうに。

 こんなに傷付いちゃって」


 おそるおそる月葉の手を取り、両手で優しく包みこむ。


 途端に涙が溢れ出てきた。


 一度溢れるともう、とめどなく流れ出す。


 月葉の手を取ったまま、貴奈津はひざに顔を伏せた。


 その肩を、残った片手で月葉が抱いてやる。


 飛竜が宇宙空母に到着するまで、二人はそうやって寄り添っていた。


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