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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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113

 静かに振り返ったローユンは、かすかに眉をよせた。


 必死の面もちで、貴奈津がローユンを見つめていた。


「……しまった」


 口の中でローユンは呟く。


 暗黒の穴を抑え込めなければ、貴奈津まで巻きこまれてしまう。


 必ず無事に帰すと約束したのに。


 いや、まだ間に合うかもしれない。


「イーライ、頼みがある」


「ああ」


「みんなをつれて、いますぐ逃げろ」


 えっ、と貴奈津が小さく叫ぶが、イーライは平然と肯く。


「抑えられるの?」


「なんとしてでも」


「そのあとはどうする?」


「ダイナーを使う。

 このさい多少の被害はいたしかたない。

 周囲の空間ごと異世界宮殿を吹き飛ばせ」


「わたしもそれを考えていたよ」


 ダイナーを使うということもだが、ローユンだけを残して脱出するということもだ。


 自分はともかく、貴奈津と月葉だけは助けてやりたい。


 後で恨まれるかもしれないが、年長者の責任というところだ。


「では行ってくれ」


「了解」


 肯いて貴奈津を振り向き、イーライはとびきりの微笑みを浮かべ、悪魔のように優し

い声を出した。


「ということで貴奈津、悪いけれど……」


 肩へ伸ばした手を、しかし、貴奈津に素早くかわされる。


「いやっ!

 わたしは行かないわよ」


「手伝ってくれ、月葉。

 貴奈津を捕まえる」


 即座に月葉は首を振った。


「ほくにはできない。

 そんなことをしたら一生、貴奈津に恨まれる」


 イーライには耐えられるが、月葉にはとても耐えられないことだった。


「よし、できた!」


 作業に没頭していて、レイは誰の話も聞いていない。


 両手に二つのレンズを持って飛び上がり、月葉とイーライの上着にレンズをくっつける。


 そしてみんなの注目を引いた。


「いいか、みんなよく聞け。

 一瞬でいい、一瞬でいいから、みんなで力を合わせてブラックホールを抑え込め。

 その間隙を利用して、ワープで逃げる」


「えっ、できるの?

 レイ、そんなこと」


「理論的には可能なんだ」


 ローユンが暗黒の穴を抑え込みにかかったとき、わずかな間だが、マイクロチップの機能が回復した。


 その時コンピュータも生き返ったはずだ。


 自分が身につけたコンピュータと、レンズのコンピュータが同時に起動すれば、一瞬で一度に全員をワープさせられる。


「わかった、やってみるわ」


 真剣な顔でレイに肯き、貴奈津はローユンを振り向いた。


「しかし……」


 上手くいかないときは、どうなるのだ。


 貴奈津のような完全攻撃型の異能力者に、ブラックホールの抑え込みなどと言う器用なまねができるのか。


「しかしじゃないわ、ローユン。

 わたしはやるわよ」


「いや、その方法は不確定要素が多すぎる。

 やはり戻れ、貴奈津。

 そのほうが確実だ。

 後は、わたしがなんとかする」


「できなかったら、どうするのよ!」


 貴奈津は頑として譲らない。


 二人のやり取りを黙って眺め、月葉がひじでイーライをつついた。


「なんだか、ぼくたちのことは眼中にないような気がする」


「同感だ」


 吹きこむ風にあおられて貴奈津がよろめく。


 張り出しの縁ぎりぎりに立ち、今にも足を踏み外しそうだが、貴奈津本人はなんの恐怖も感じていない。


 風が髪をはためかせる。


 貴奈津は必死に訴えた。


「わたし、いやだからね。

 ローユンが一緒でなくちゃ、帰らないわよ。

 わたし、きっと力になるわ。

 一人では難しいことでも、二人なら上手くいくかもしれないじゃない。

 ここまで一緒に来たんだもん、これからも一緒に生きていこうよ。

 ね、ローユン」


「貴奈津………」


 それきりローユンは言葉につまった。


 貴奈津の直向きな目差しに、心を激しく揺さぶられたのである。


 自分がこんなに感情的な人間だとは思わなかった。


 意識の片隅で呆れるが、それを圧倒する欲求がわきあがる。


 帰りたい、出来ることなら貴奈津と一緒に。


 ローユンは大きく手を差し伸べた。


 貴奈津が最高の笑みで応え、宙へ跳躍する。


 精一杯伸ばした手を、しっかりとローユンが捕まえる。


 その手を自分の肩にかけさせ、ローユンは貴奈津を抱き寄せた。


 ひときわ激しい放電が空間を震わせ、レイが頭を押さえて悲鳴を上げた。


「ウキャーッ、痛いっ!

 なにをやっている、早くみんなでブラックホールを抑え込むんだ」


「どうやって?

 ぼくたちにローユンみたいな複雑なテクニックは使えない」


「誰がそんなことをしろと言った。

 おまえたちのような不器用な異能力者に、最初からそんなことは期待していない。

 なんでもいいから、攻撃するんだ。

 叩いてつぶして吹き飛ばせ。

 そういうつもりでやるんだ」


「なるほど。

 言われかたは不本意だけど、その方向でやってみる」


「よし、やれ!」


 言ってレイは飛んでいき、ローユンと貴奈津の後ろに待機する。


 月葉の異能力は完全に制御可能なレベルでは衝撃波である。


 それがまったく効果を現さないことに、月葉は少なからぬ衝撃を受けた。


 ある程度予想していたこととはいえ、いくらかの手応えはあると思ったのに。


「ローユンが悲観的になるわけだ」


 何度ためしても同じ結果に、思わず唇をかむ。


「間欠的な異能力じゃだめか。

 せめて圧力を持続させないと。

 まてよ、そういえば継続性のある異能力が使えないから、空中に浮かぶこともできないのかな」


 焦燥感をつのらせるあまり、よけいなことまで考える。


 ついに月葉の論理的思考は、行き詰まりをみせた。


 つまり自棄になったのである。


「こうなったら、ありったけのパワーを動員してやる」


 月葉の最大級異能力は、破壊力だけに限れば、それほどローユンにひけは取らない。


 ただし、まるで制御ができないから、都市を焦土に変えてもいいとか、富士山が二つに割れてもいいとか、それくらいの覚悟と条件がなければ使えない。


「制御不可能だけど、もうどうなっても知るもんか」


 そう思い切ったとき、以心伝心とでもいうのか、はたまた、さすがに姉弟、精神土台に同じ部品が使われているせいか、貴奈津もまたヤケをおこしていたのである。


「もう、どうなっても知らない!」


 このむやみな決断は口に出されたから、イーライの耳にもとどいた。


 四種類の最大級異能力が、暗黒の穴を撃ち、抑え込む。


 手応えを感じないので、異能力者本人にも、はたして、なにがどうなっているのかつかめない。


「おっ!」


 見守っていただけのレイが、一番先に変化を察した。


 間断なく閃き、うねり続けていた プラズマが、わずかに収束の様相を見せたのである。


「おおっ!」


 不意にプラズマが消えた。


 そして、風も治まる一瞬の機会。


「今だっ!」


 後ろからローユンと貴奈津に飛び付いて、レイは叫んだ。


「ワープ!」


 叫びながら、イーライと月葉を横目で見る。


 レイのワープに連動するように、レンズは調整してある。


 自分たちより一瞬先に二人の姿がかき消えるのを、レイはしっかり確認した。

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