プログレム
私とクロはコアを探すため、ショッピングモールの中を話しながら歩いていた。
「場所の目当ては無いのかい?」
「そうだね…前にスーパーの夢を見たけど、その時は卵パックの中に入ってた。」
「意外と雑なんだね…。」
案の定、コアは早く見つかった。
4階カフェのショーケースの中、美味しそうなパンの隣に平然と置かれてあった。
「へぇ…!これがコアなんだね。実物は初めて見たよ。よく見ると透けているんだねこの石!それにどこか光っているような…?す、少し触ってみてもいいかい?」
クロは興奮した様子で私からコアを受け取った。
「かなり軽いね。石というよりプラスチックに近いような…ブツブツ。」
眼球がコアに触れそうなほど近づけて独り言を言っている。
「そんな好きならあげるよ。」
「おや?僕はこの石より君のほうに興味があるんだけどねぇ…。」
首だけこっちを向いてニヤニヤしながらそう言った。
かなりヤバい人に会ってしまったみたいだ。
「用は済んだしもう帰るけど、貴方は?」
「僕はもちろん残るよ。こんな機会を無駄には出来ないからね。」
「あぁ、そう。」
私はいつものように目を閉じた。
ふと考えた。
今日みたいに、もっと色んな人がここへ来ていたら?
たくさんお話ができたら?
現実世界には無い居場所が、ここにあったら?
夢の中で、夢が叶うなら。
なんてね。
私は目を開いた。
「?」
不思議そうな顔をしたクロが、目の前に立っている。
あれ。
おかしい。
「戻らないのかい?」
「いや…いつもこうしたら戻れたんだけど。」
とてつもない悪寒と予感に襲われる。
醒めれない。
「えーっと…ほっぺをつねってみるとか。」
「私子供じゃないんだけど。」
「いや子供でしょ。」
お互いの間にまたもや沈黙が流れた後、ショッピングモールの気持ち悪い音楽が私たちを追いつめるように大きくなっていくのを感じた。
「いつまでもこんな音楽を聴いていたら頭がおかしくなる。まずは夢から覚める方法を一緒に考えようじゃないか。」
私は強く頷く。
私たちの目線はカフェのキッチンに流れた。
「夢の中でコーヒーを飲んだら、頭が冴えて起きるんじゃないかい?」
「名案かも。」
クロはドキドキしながらカップにコーヒーを淹れる。
「砂糖入れて。」
泥のような暗さの液体にこれでもかと角砂糖が詰め込まれた。
仕上げにマシュマロも。
そして渡された激甘コーヒーを一気に飲む。
「どうだい?」
「なんか逆に眠くなってきたかも(?)」
私たちは1階にある噴水広場へやってきた。
「準備はいいかい?」
「もちろん。」
やることはつまり、飛び込む。
2人分の水しぶきが宙へ跳ねた。
お互いを確認し合う。
二人とも目覚めてないようだ。
「ただ濡れただけじゃないか。」
それから私たちは、自分を叩き、殴り合い、ゲームセンターで遊び…。
「だめだ。何やってもだめだ!」
結局4階のカフェに戻ってきてしまった。
「ノアちゃん、これは最終手段のつもりだったんだけど…ここは夢の中なんだよね?」
「そのはずだけど。」
「じゃあ、飛び降りても死なないんじゃないかい?」
「クロ、まさか…。」
「ここはまだ高さが足りない。ノアちゃん、行くよ。」
私はクロに導かれるままにエスカレーターを昇っていった。
「このショッピングモールが上へ無限に続いているのは、そういうことなんじゃないか。」
「ネガティブに捉えないでよ!!」
「今だけはポジティブだよノアちゃん。試してやろうじゃないか。」
何階まで昇ったか分からない。
クロがやっと止まってくれたのは、1階の床が見えないほど高い場所だった。
音楽も心なしか、最初より歪んでいる。
「さあ、一緒に飛ぼう。」
クロは手すりに掴まったまま、私に手を差し伸べた。
鼓動の速さがどんどん加速していく。
音楽が、私を責める。
鼓動が、私を急かす。
もう、考える余裕は無かった。
助走をつけて、クロの手を取りながら手すりを飛び越える。
「え、ちょっ…!」
迫る。
迫る。
床が迫る。
クロは私の手を離さずに、逆さまのまま私を抱きしめる。
迫る。
迫る。
床が迫る。
迫る。
叩き、つけられる。
気がつけば、ふかふかの狭いソファの上。
2人で気を失っていた。
私が強引に起き上がろうとすると、クロがソファから落ちてしまった。
「いでっ。」
「あ…ごめん。」
「いいんだ…それより、ここは何処だい?」
私はこの場所に見覚えがあった。
かつて夢の中で来た場所だ。
つまり、私たちは現実で目覚めていない。
「最悪だね。別の夢を見始めたみたいだ。」
クロは床に座り込んだまま大きく目を見開いた。
「あぁ…複雑な感情さ。一回で二つの実体夢を見られるなんてまさに夢のような体験だけど、帰れないのはまた話が変わってくる。」
私は無視してソファの周りに散らばっている色とりどりの風船に目をやる。
この部屋は狭い。
窓も換気口もないから、閉塞感で息苦しい。
でも扉は付いていないし、別の部屋へ道が繋がっているみたいだ。
壁は全て淡いピンク色。
なんだか、幼稚園児の部屋みたい。
「探索しないことには何も進まないね。せっかくだから、この風船は貰っていこう。」
そう言ってクロは赤色の風船を手に取った。
私も。
と思って足元を見れば、「僕をとって」と言わんばかりに白色の風船がふわふわ近づいてくる。
仕方なくそれを拾ってクロの後をついていった。
人一人分。
ピンクの廊下を曲がれば、先ほどの部屋より一回り広い部屋に入った。
そこにはプレゼントらしい華やかなリボンで飾られた箱が大量に積まれている。
さらにその上にとても精巧な女の子の人形が何体か、部屋を囲むようにして座っていた。
今にも、動き出しそうな。
「このプレゼントたちは、開けても構わないかい?」
「私は知らない。前にここへ来た時は、開けなかった。」
「ここへ来たことがあるんだね。じゃあコアの場所も覚えて?」
「る。」
自信はないけど。
「少なくともこの部屋じゃ無かったはずだよ。」
「そうか。」
クロは箱を開けながら適当に返事をした。
中から取り出したのは、クマのぬいぐるみだ。
「可愛いじゃないか。これも研究材料に持って帰って…。」
ああああ!!ああ!あああああ!!
脳髄に突き刺すような悲鳴が轟いた。
まともに立てないほどに身体が危険を訴えている。
鳴り止まない。
鳴り止まない。
唯一動かせる目で辺りを見渡す。
声の主を見た。
ぺたぺたと四つん這いになってこちらへ歩いてくる。
赤子だった。
私は躊躇うことなく赤ん坊を掴んでプレゼントの箱の中に押し込んだ。
そして蓋を閉じる。
すぐにこの場所から離れなければならない。
クロへ目を移した。
「クロ!クロ!」
気絶していた。
仕方ない。
私はクロの上半身を背負って奥に続く部屋へ進む。
本当に身体の大きい人だ。
こちらの身にもなってほしい。
なんて耳障りな声だろう。
赤ん坊を閉じ込めた部屋からずいぶん離れた部屋まで来た。
それでも五月蝿いと思うほどに、精神に干渉するような泣き声だ。
「クロ、起きて。」
「…。」
そりゃ、私だって気を失う寸前だったんだ。
クロの顔を見た。
「…。」
整った顔立ちだ。
なんだか…ずっと見てると変な気を起こしそうで怖い。
私は視線を下にやる。
銃が目に入った。
そこから私が思いついたのは、あまりにも残酷なことだった。
でも、この五月蝿い泣き声を止めるにはこれしか無いのかもしれない。
私は銃を手に取り、赤子のいる部屋へ向かった。




