アディショナルタイム
列車は駅のホームの形をした図書館に停まった。
真ん中に細い道が続いている。
列車から降りた私たちは一列になって、暗くて細い通路を進み始めた。
「なぜここにコアを集めようと思ったんだい?」」
「ここの夢の持ち主、モートンは『みんなの夢を叶えたい』っていう夢を持ってるからね。保護するっていう目的も適しているんじゃないかな。」
細い道を抜け、視界が開いた。
小さな部屋の真ん中にモートンが座って、本を読んでいる。
「お、また会ったのう。えーっと…。」
「ノアだよ。急いでるから単刀直入に聞くね…。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。後ろの男3人はおヌシのボディガードか…?」
「そうだよ(適当)それでさ…。」
「おや、ノアちゃんの護衛になったつもりはないのだけれどね?」
「適当なこと言うなノア!!」
「じ、自分そんな戦えそうに見えますかね…?」
「うるさいな!事を早く進ませるにはこういう嘘も必要なんだよ!!」
先が思いやられるわ。
3人を黙らせ、エネミーからコアを保護するためにこの場所を使わせてほしい旨を詳しく伝えた。
「なるほどのう、いいじゃろう。しかしおヌシ、エネミーを必ず止められる保証はあるのか?」
「あるよ。あいつは、私にしか止められないから。」
お互いの目を見つめた。
「ふぉっふぉっふぉ!この世界は、おヌシが来たことによってだいぶ動いてきたようじゃな。ワシ、こういうのやりたかったんじゃ。」
モートンは椅子から立ち上がって本を閉じた。
「コアの管理人なんて、かっこいいじゃろう?」
「はいはい。じゃあそういうことで。」
私は軽く右手をあげて列車のほうへ歩き出す。
「おヌシ!」
振り返る。
「ひとりで背負うんじゃないぞい。」
「ここに私の”仲間”がいるの、見えない?」
私は両腕を大きく広げて3人を抱き寄せる。
「ふぉっ!そうじゃったの。気をつけてちょ。」
私たちはまた細い通路を通って列車へ戻っていった。
モートンとはゆっくり会話できてなかったな。
一段落したら、話を聞かせてもらおう。
列車の運転室に戻って、深く深呼吸をする。
「それじゃあ『コア集めの旅』、始めようか。」
ふとクロが私の肩を叩いた。
「こう言い換えてみるのはどうだい?」
『ドリームコア・コレクター、再始動』
「ってね。」
「なにそのウインク。似合ってないよ。」
「そうだぞ兄貴。」
「ふたりとも相変わらずだねぇ…。」
シェードはこちらの様子をにこにこと観察していた。
「みなさん、列車を発車させますよ〜。」
『はーい。』
そしてゆっくりと汽笛が鳴る。
『ドリームコア・コレクター、再始動』か…。
こんな職業、バカバカしいとまで思っていたのに、今になって頑張りたいと思えるなんてね。
浮かれてらんないな。
あいつのことも、私のことも、すべて受け止めないと。
最初の夢に向かっている間、私とクロは客室で到着を待っていた。
「そういえば、ルカのコアはクロが持ってたよね。」
「あぁ。列車に乗る前にモートンさんに渡したよ。実はあそこ、4つの部屋以外に隠し部屋があること知っているかい?」
「中心の部屋と、右、左、あと真ん中の部屋…え、私知らないかも。」
クロはマネキンの持っていた紅茶を一口飲んで言った。
「あの暗くて細い通路、入ってから3歩進んで1歩戻ってからまた3歩進んだ右の壁を調べると隠し部屋の扉が現れるようだよ。」
「そんなゲームの隠し要素みたいなことある?」
その時、アナウンスの音楽が流れた。
スピーカーからルカの声が流れてくる。
『え〜次は〜”ヒール”の夢〜”ヒール”の夢でございます。到着の際、揺れにご注意下さい〜。』
『ちょっと!それ自分のセリフですよ!』
『え〜いいだろ少しくらい!』
『だ、だめです!』
クロはフフッと笑って、席から立ち上がった。
「どうやらルカはシェードくんと仲良くなったみたいだね。」
「もしかして嫉妬してんの?」
「…どうだろうね?」
列車がゆっくりと夢の端に停まる。
窓の外から見えるのは、不気味な雰囲気を醸し出す遊園地だ。
空は曇り、誰も乗っていないジェットコースターがありえない速さで動いている。
私たちが列車を降りてから後ろを振り向いても、やはりそこに列車の姿は無かった。
「なんとも不気味な場所だねぇ。」
クロはにこにこしながら言っている。
「すごく広いからコアを見つけるのは大変そうですね…。」
「それなら先に夢の持ち主を探せばいいよ。ちゃんと話が通じる人なら、教えてくれるはずだから。」
「しれっとフラグ立てんなよノア…。」
とりあえずこの場所で一番目立っている観覧車へ向かうことにした。
道中、面白そうな射的や乗り物が私を誘惑する。
「ね、ねぇ、ちょっとだけやってもいい?」
3人は無表情で私を見つめる。
「わ、わかったよ!」
射的の屋台から去ろうとした瞬間、大きな景品の後ろで何かが動いた気がした。
「なにしてんだノア、早く行くぞ。」
「気のせい…かな。」
辿り着いた観覧車は遠くから見ていたよりもずっと大きいものだった。
まるで私たちの身体が縮んだのかと思えるほどに巨大で、圧倒されるような面持ちだ。
「あ、あれ見てください!」
シェードがひとつのゴンドラを指差した。
ゆっくりと回転するゴンドラの上に人が座っている。
そしてそれが一番下の乗降場に辿り着いた時、上に乗っていた人が勢いよく飛び降りて私たちに近づいた。
私は勇気を出してその人に問いかける。
「貴方がこの夢の持ち主?」
「当ったり〜!『ヒール』だよ!もしかして、キミがアタシの夢叶えにきてくれた感じ?」
ストレートの長い髪に深い赤色を纏って、キャストの服を着た高校生くらいの女だった。
第一声から見るに、典型的なギャルだ。
「そ、そうだけど、一旦貴方のコアを回収しにきたんだよ。」
「えマジ?まぁ夢叶えてくれるんならちょっとくらいいいけどさ…。」
ヒールはニヤニヤしながら私の目の前まで顔を近づけた。
「キミの腕前、見せてくれたらね。」
「腕前…?」
ニコッと微笑んだと思えば、私の後ろに立っていた3人に向けて面倒くさそうに聞いた。
「そこの男3人は何?この子のボディガード?」
「は!?ちげーし!!」
「心外だねぇ。」
「な、なんかこのやりとり前にもやったような…。」
私はこんなことをしている暇がないことを思い出して、ヒールの肩を掴んだ。
「あいつらはいいから、何か条件があるなら早く済ませたいんだけど。」
「おっけー、じゃあ舞台はこの観覧車ってことで!」
舞台…?
ヒールが指をばちんと鳴らした瞬間、私は観覧車の一番上まで登っているゴンドラの中、ヒールと向かい合って座っていた。
「なにこれ。」
「急いでるみたいだから、3分の制限時間付きね。観覧車にいるアタシの足を地面に着けたら勝ち。」
そう言うと、ヒールは2本持っていた小型ナイフのうちの片方を私に渡した。
「へぇ、シンプルでいいね。」
私は素早くヒールの頭を片手で掴んで後ろの窓に押し当てながら、ナイフと勢いでその窓を割った。
ヒールは割れた窓から後ろ向きに倒れるようにゴンドラから身を投げる。
私は掴んでいた頭から手を離して下にあったゴンドラの上に飛び乗る。
ヒールが素直にそのまま落ちていくわけもなく、私が乗っているゴンドラを支える鉄骨に乗ってこちらを挑発した。
下から3人の声が聞こえてくる。
「ノアちゃん、落ちないように気を付けるんだよー。」
「あいつあんな動きできたのかよ!?」
「ひぇ…見てるだけでハラハラしてきます…。」
「ははっ!なんか仲良さそうだね〜?」
ヒールは3人に気を取られている。
私はその隙を狙ってゴンドラから飛び降りた。
鉄骨に乗ると同時に、ヒールの背中に蹴りを入れるつもりだった。
「っ…。」
ヒールは3人のほうを向いた状態で、後ろにいる私の脚を止めた。
「めっちゃ細くて綺麗な脚なんだから大切にしな〜?」
「余計なお世話だわ…!」
どうやら一筋縄じゃいかないみたいだ。
私はクロに目線を送った。
「…。」
観覧車の真ん中の鉄骨に飛び移るヒールを追いかける。
「ねぇ、なんで素直にコア渡してくれないの?」
「え〜だってアタシの夢、結構ハードル高いからさ〜。こーんなちっちゃな女の子にできるのかな?って。」
「私はどんな夢でも叶えるよ。」
「え?」
「やっぱりハッピーエンドがいいじゃんね?」
その時、観覧車の下にあったスポットライトがヒールの顔を照らして眩しくライトアップされた。
「うっ…。」
両腕で顔を覆うその隙を逃さず、ナイフを捨ててヒールの手を引っ張った。
その身体は抵抗することなく落ちていき、地面に倒れ込んだ。
私は観覧車の鉄骨を伝って地面に降りる。
「別に観覧車止めてくれるだけで良かったんだけど。」
クロはずっとにこにこしている。
「勝利の瞬間は華やかなほうがいいだろう?」
「はいはい。」
立ち上がったヒールの表情はとても晴れやかだった。
「あー楽しかった!約束通りコアの場所まで案内するからさ、アタシといっぱい話そ!」
ヒールは私の右腕と自分の腕をからませて歩き始めた。
「言っとくけど時間ないんだからね…。」
コアの場所まで向かっている最中、ヒールの夢の話を聞くことにした。
「アタシ、小さい頃から近くの遊園地でやってるサーカスショーが大好きでさ。特に、高いところにある手すりもない橋の上で、二人のキャストさんが本物のナイフで戦うやつが好きだったんだ!」
危なすぎるでしょ。
「でもその遊園地ね、あんまり人が来ないから、閉鎖しちゃったんだ。あのサーカスも、見れなくなっちゃった。」
「あ…。」
ヒールは花壇の前で立ち止まって、その中に手を伸ばした。
花壇の中から取ったのは、キラキラと光るコアだった。
そしてコアを、私の手のひらに置いて言う。
「もう一度、あのショーを見たいんだ。」
ヒールの瞳も同じくらい、キラキラと輝いていた。
「だめ…かな?」
幼い子供の眼差しだった。
「見せてあげるよ。ヒールが覚えているショーの何倍も、何千倍もスリリングで、楽しいショーをね。」
私たちはお互いに約束の笑顔を見せた。
「あ、列車が迎えにきてくれましたよ!」
後ろを振り返ると、遊園地の一部を削り取ったような場所に列車が停まっていた。
「行かなきゃ。」
「いってら〜。」
私たちは列車に乗り込んだ。
扉が閉まって、ゆっくりと動き出す。
窓の外の景色の中、ヒールが両手を振っている。
私は負けじと右腕を大きく振り続けた。
ずっと振り続けた。
見えなくなるまでずっと。




