最初で最後
「ありがとう。言ってくれて。」
クロ。
その眼はまっすぐ私を捉えた。
「僕の夢が、見つかったよ。」
そう言うと彼は、私を抱きしめて一緒に立ち上がった。
涙はなぜか、止まっていた。
「君のやりたいこと、一緒に全部叶えにいこう。」
星々は新たな世界の幕開けを歓迎するかのように、てらてらと光っている。
そして一番綺麗なのは、まっすぐな瞳に映った、その光だ。
「僕が君の夢を、叶えよう。」
風が吹いた。
希望と熱で満ちた風が。
もう細かいことはどうでもいいと思えるような、熱風だった。
「じ、自分もいますからね!」
後ろから、シェードが言ってくれた。
「あ、あのさ…。」
ルカが、気恥ずかしそうにしている。
「なんも悪くないのに責めちゃってごめん…俺も、お前の夢、応援してもいいかな?」
夢のような感覚だ。
なんて、この世界じゃ紛らわしいか。
「大丈夫だよ。私もう、だいじょーぶ!」
久々に、笑ったかもね。
ずっと胸の奥にあった濁りが、やっと取り除かれたような気がした。
「それじゃあノアちゃん!まずはこの夢の世界から目覚めなきゃだね。」
「それもそうだけど、『みんなの夢を叶えること』も私の夢だからね?」
クロは少し驚いた顔をしてから、すぐに笑ってくれた。
「変わったね。」
「そうかもね。」
私とクロはお互いの瞳の中で高らかに笑った。
こんなに心から笑顔ができたのは、生まれて初めてだ。
「す、すごく良い雰囲気の中申し訳ないのですが、エネミーさんにコアピッケルを取られてしまったので、早く今後の動きを決めたほうが良いのでは…?」
確かに。
シェードがここにいてくれて良かった。
「そうだね。私、ひとつ考えがあるんだ。」
それから、私の作戦を3人に聞いてもらった。
作戦はこうだ。
まず、出来る限り多くのコアを回収する。
夢を叶えてからの移動じゃ、あのエネミーに間に合わない可能性が高いからだ。
だからなるべく早くコアを保護できるひとつの場所に留めておく。
それから、私があのエネミーと決着をつける。
彼女を、納得させる。
夢を叶えにいく旅はそれからだ。
「コアを保護する場所についての目当てはあるのかい?」
「あるよ。ぴったりの場所がね。」
私はシェードに、『モートン』の夢へ向かうようお願いした。
列車が動き出す。
ふと、ルカのほうへ目をやった。
「あれ、ルカって夢の中に閉じ込められてるはずじゃ…。」
「俺の夢は叶わなくなっちまったからな。新しい夢を見つけられるまで行き来できるようになったんだ。」
「あ…そっか。」
前のようなルカの無邪気さは、もう見えなくなっていた。
ノエルさんの存在が、かなりルカとって大きかったみたいだ。
「モートンの夢に着く間、ルカとノエルさんのお話聞かせてもらってもいいかな?」
「…。」
俯いたまま黙っている。
なにかまずいことを聞いてしまっただろうか。
「ルカ、無理して言わなくても…。」
「いじめられてたんだよ、ノエル。」
少し怒ったような口調で、話し出した。
「ノエルはただ”可愛さ”を求めているだけなんだ。その努力をクラスのやつらは嘲笑ってた。『見苦しいから』って理由でノエルを貶して、汚して、殴って、嬲って…!」
ルカの拳は固く握られている。
「俺は動けなかった。怖くて動けなかった。ただ『良いと思う』って言うだけだったのに。ノエルの苦しそうな顔見てると、俺もああなるんじゃないかって。」
きっとその怒りは、自分に対するものだったんだね。
「俺とノエルが仲良くなったのはほんとうに偶然で、流れによるものだったけど。たぶん神様が、俺の贖罪のために、ノエルの笑顔を取り戻すために、巡り合わせてくれたんだ。俺は、一生あいつの側にいてやりたかった。」
彼の胸が苦しくて、頭がうるさいのは、私と同じかもしれない。
「ある日、俺とノエルが付き合ってることがクラスの奴らにバレたんだ。『気持ち悪い』『消えろ』『死ね』。そんな弾丸を、さも正義のように俺たちに浴びせてきた。段々とイジメはエスカレートしてきて、俺が生きてるうちに見た最後の光景は、笑いながら俺の首を絞めるクラスメイトの顔だ。」
どうにも、言葉が出てこない。
少し時間をおいて、一番伝えたいと思ったことを口に出した。
「ノエルさんはルカのこと思い出した時、嬉しそうに泣いてたよ。」
「…。」
人生なんて理不尽なことばっかりだ。
なんだか気に食わないからって、間違いだと思ったからって、追い詰めていいと思ったからって?
そんなことで命は失われちゃいけない。
夢を夢で終わらせちゃいけない。
けど、それでも前を向こうとするのが、人間なのかもしれない。
「俺は楽しかったよ。ちょっと短かったけどな!」
なんて笑った、ルカは照れていた。
私もつられて微笑んだ。
困り眉だったかもしれないけど。
「う、うぅ…。」
ふと、情けない泣き声が聞こえた。
シェードのほうを振り返ると、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
「ちょっと大丈夫!?」
「だ、だぁってぇ…こんなお話聞かされて泣かない人はいませんよぉお……。」
「いつ聞こうか迷ってたけど、お前誰?」
「それは僕も気になっていたところだよ。ノアちゃんの知人かい?」
あ、そういえばシェードのことをルカとクロに紹介するの忘れてたな…。
「じ、自分シェードっていいましてぇ…。」
「ねえ、ここにティッシュとかないの!?床に鼻水とか垂れてて嫌なんだけど!」
「おっと、列車の運転室にゴミ箱もないのに、ティッシュがあると思うかい?」
「だったらお前の服使えばいいだろ!」
ルカはクロのシャツの裾をシェードの鼻に押し当てようとする。
「ま、待ってくれ!お気に入りの服なんだ!!僕の包帯を渡すから!!ルカ、待ってくれ!!」
「うるせえ!こっちのほうが早く済むだろ!」
「ず、ずみまぜん…。」
なんだかんだ、いつも通りの光景に戻ってこれて良かったと思う。心から。
列車はゆっくりと、私たちの新たな局面を迎え入れてくれた。




