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背負っていこう

夢の銀河を巡る旅は、果てしなく続いた。


「納得できる絵を描きたい」


「自分を可愛いと思いたい」


「歌でたくさんの人を沸かせたい」


「心から笑いたい」


「自分の音楽を必要とされたい」


「知らない食べ物を食べたい」


「空を飛びたい」


「幼なじみともう一度話したい」


「飽きるまで鬼ごっこをしたい」


「歩いてみたい」……


たくさんの夢に、希望に触れた。

列車のひとつの車両を埋めつくすほどのコア(約束)を受け取った。


「また来てね」


「またね」


「また来いよ」


「待ってるから」


「気を付けてね」


「絶対来てよ!」


「約束だからね」


「遅くてもいいよ」



「来てくれてありがとう!」



そんな言葉をいくつ貰っただろうか。

いくつ背負っただろうか。


途中、私のエネミーと鉢合わせたこともあった。

その時はクロやルカ、シェードが必死にコアを守ってくれて、改めて仲間という存在の偉大さを思い知った。


「なぁ、俺さ…。」


銀河に存在する全ての夢を巡り終え、モートンの夢に向かっている最中、ルカがふと呟いた。


「夢、見つかったかもしんねぇ。」


「おや…。」


クロの表情が真剣になった。


「俺、消えたくないな。」


しばらく沈黙が流れた。


「…そ、それが夢?」


「おん。」


一瞬頭の中がこんがらがってしまった。

深く考えた後、シェードが口に出してくれた。


「あの…それってどういうことになるのでしょうか?」

「え?なんだよ。」


私はすかさず思っていることを言う。


「この世界にいる人の夢が叶えば、その人は消えていなくなるけど…『消えたくない』って夢が叶っている状態ってそれ…え??」

自分で言っていて、またこんがらがってきた。


「深く考えるような問題じゃないよ。」


ふと、クロが口にした。


「ルカの夢は今、叶っているし消えていない。ならこのままでいいのではないかい?」


「ま、まぁ…それはそうかも。」


クロはたぶん、安堵しているんだろう。

ルカとお別れしなくて済むから。


「それよりも僕は、ルカがなんでそう願うのか知りたいな。」


3人の視線がルカに集まる。


「あ…やっぱ、ここまで色んな夢を持った人たちと出会ってさ、みんな夢叶ったら消えちゃうわけじゃん?なんかそれで終わるのが嫌っつうか…その人たちを、『覚えておきたい』んだよな。」


「覚えて…?」


「うん。その人はちゃんと、悔いなく旅立ちましたってことを、誰かが覚えていたほうが良い気がして…。そしたらさ、俺の記憶の中でずっとその人は生きられるって思うんだ。」


「…。」


私もクロも、シェードもなかなか言葉が出てこなかった。

けど、なんて素敵な夢だろうと、心から思った。


「ルカ…僕はこんな弟を持って本当に良かったよ…。」


クロはルカに抱きつこうとする。


「や、やめろバカ!」


ルカは必死に抵抗した。

いつも通りの二人を見ると、初心に戻れるというか、少し懐かしさも感じてとても良い。


「自分も、そう思います。」


ふと、シェードが口にした。


「自分、実はまだ完全に死んでいないんですけど、ルカさんの話を聞いて思いました。やっぱり生きてるうちに夢を叶えることができるって、幸福なことなのかもしれないなって。」


シェードはずっと俯いたまま、自分の手の甲を眺めている。


「だから、死にたくないです。」


落ち着いた声で言っていた。

でも、すごく熱を感じた。


私が、感じることはなんだろう。

私が、言えることはなんだろう。


みんな自分と向き合っている。


私も、向き合うべきだ。


「”生きてる”ってすごいよね。なんでもできるもんね。」


3人の視線が、私に向いた。


「生きてるなら、幸せにならなきゃだよね。」


***

「それ私に、もう一回言ってみなよ。」

***


「っ…。」


まだ、私の考えが変わったわけじゃない。


私の罪を、忘れたわけじゃない。


「あっ、モートンさんの夢、着きました!」


シェードの声で顔を上げた。


窓の外に見えるのは、すごく久々に見る光景だ。

モートンはにこやかに私たちを出迎えてくれた。

私たちは列車を降りる。


「大変じゃったのう。」

「大したことないよ。むしろ今から大量のコアを部屋まで運ぶほうが大変かもね。」

「おヌシが連れてる男3人はなんのためにおるんじゃ?」


私は後ろにいる3人へ振り返った。


「コアを集めたのは誰だっけ?」


「ノアちゃんだね。」

「ノアだな。」

「ノアさんです!」


「コアを運ぶのは誰かな?」


『…。』


ということで力仕事は3人に任せて、私はモートンと会話することにした。

本棚に背中を預けながら。


「おヌシの旅もいよいよ終点じゃろう。どうじゃ?」


「何?」


「ほら、おヌシはいつも何かに追い詰められている表情かおをしとるからのう…。」


「え、そうかな。」


「きっとあのエネミーが関係しとるんじゃろ。」


「…。」


「図星じゃな。まぁ何も聞かん。おヌシが行きたい道を進むといい。」


私は少し黙って、問いかけた。


「…モートンは、『どうしようもない現実』に打ちのめされる時はあった?」


「あぁ、学生時代、ワシは原稿用紙に物語を綴るのが大好きじゃった。ただの趣味だったんじゃがな。どうしても自分の物語が傑作だと思わずにはいられなかった。したらある日、クラスのいじめっ子にそのことがバレての。何日もかけて考えた”僕”の世界が、ばらばらに破けて、学校の池に沈められていたんじゃ。」


「…。」


「その時代はでじたる機器なんてものはなかった。最初から書き直そうとしても、完全にあの傑作は蘇らない。どうしようも、壊された宝物は直らないんじゃ。」


『壊された宝物』。

壊された側なのに、みんなの夢が叶うことを願っているのは、きっとモートンの、人一倍の優しさなんだろうと感じた。


「しかし、ノア!」


急に大きな声を出されて、反射的にモートンのほうを向いた。



「開き直れ!!開き直って前を向け!!」



「え…。」



「大丈夫じゃ。世界はおヌシを受け入れる。」


透明な水が心臓を伝うように、落ちた水が波紋を広げるように、私はその言葉を深く飲み込んだ。


私はずっと一人だった。

夢から覚められなくなってから、全て変わった。

人と出会った。

話した。

みんなが生きている世界を透かして見てきた。

そこで生きたいと思った。


あとは動くだけだ。


「ノアちゃん、いくよ。」


3人が列車に乗り込んでいく。

どうやら全てのコアを運び終わったみたいだ。

私は寄りかかっていた本棚から離れてモートンに挨拶をする。


「また来るよ。」


「また来てちょ。」


モートンの変な顔でふっと笑ってしまった。


列車に乗り込んだ。

「ヒールの夢に向かおう。」

「承知しました!」

シェードは快く列車を出発させる。


私はもう一度窓の外を見る。

そして、深くお辞儀をした。


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