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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
最終章 なんのために生きる

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37 旅立ち


「カラク、その伴の者たちよ。よくやってくれた」


 朱雀王が意識を失った魔術師たちを運ぶように指示を出し、カラクたちにもすぐに礼を言い、滞在することを乞い願う。志伯の姿は、やはりどこにも見えなくなっていた。


 その夜は、与えられた客室の大きな寝台で皆で眠りについた。誰とカラクが眠るかで争う前に、視線で協定を結んだ仲間たちは皆、獣姿になっていた。カラクはもふもふに囲まれて眠りにつく。イトラのみ人型でカラクを抱きしめていた。龍が眠るにはさすがに狭過ぎる。





「カラク。俺の国を助けてくれてありがとう」

「ありがとう。君には色々と任せてしまってごめんね」


 白い世界の中、二人から、声が掛けられる。まぶしくてカラクは目を開けることができない。


「あのね。これは俺がしたいことだったの。けれど、二人の気持ちもちゃんと受け取ったの。俺も……きっとみんなも、二人のことを忘れない」


 カラクのその言葉に二人は優しく微笑んだようだった。


「うん。そうだね。俺もみんなのことを忘れないよ。俺なりに一生懸命、みんなと生きることができて良かった。この国が続いていくことは救いだ。ありがとう。カラク」

「俺がやったことが、この世界の生き物にとって良かったのかどうか……そう考えることが傲慢だとカラクを見ていて思ったよ。みんなが、それぞれで選択していくことだったんだね。ありがとう。カラク」


 カラクは切なくて、けれど嬉しくて、思いっきり叫ぶ。


「こちらこそ、ありがとうなの。この世界に生み出してくれて、仲間と会うことができて、ありがとうなの!」


 

 パチリとカラクは目を見開いた。なにか夢を見ていた気がしたがよく覚えていなかった。既に目覚めていたイトラが甲斐甲斐しく身支度を手伝ってくれる。


 王さまに呼ばれて行くと、朝から豪華な食事が用意されていた。仲間たちと共にむしゃむしゃと堪能する。


「カラク兄ちゃん、ほんとうにありがとう」

「お兄ちゃん、ありがとう」

「良かった!!」


 涼風と烏野がその場に現れた。カラクは喜びの声を上げた。山王の仲間によって、砂礫国に連れてきてもらい保護されていたのだった。これから、この国で暮らしていくことができるようだ。心配していたカラクはほっとした。彼らも共に食事に加わる。


「カラクはその果物が好きか? それはラスティといって楽太も好きだった」


 にこにこと朱雀王は嬉しそうに言う。カラクはその果物をくれた志伯を思い出した。


「ねえ、王さま……志伯はどうなるの?」

「ああ。勇者志伯は、またいなくなってしまった……彼を、罪に問うことはない。この国がしてきた事が楽太を死に追いやったのだと思う……」

「そう……」


 カラクは、楽太の気持ちを考えると、志伯が罰せられる事がなくて、とても良かったと思った。カラクとしては、志伯に対しては、未だに少し怖いような複雑な気持ちを抱いてはいたのだったが……。


「カラクはこれからどうするんだ? カラクさえ良ければ、いつまでもこの国にいてくれて良い。いや、むしろ国を救ってくれた恩人だ。いつまでもいて欲しい」


 朱雀王がその願いを言った時の瞳は切実な色をしていたので、カラクは食べるのを止めて、彼に向き合った。


「あのね、王さま。俺は旅をしてきて、多くの人と出会ったの。みんなと出会えて良かったの。美味しいものも食べられたの。これからも、色んな所へ行きたい」

「……そうか。それが今のカラクの望みなのだな」

「まあ、それで、色んな事に巻き込まれて、またカラクが助けるんやろうなぁ」


 朱雀王が寂しそうに呟いて、山王は茶化すように話に加わった。


「なら、その旅の事をいつか話しに来てくれないか? カラクの訪れをずっと待っているよ。それに、旅の途中で困った事があれば、私の名前を出すといい。カラクは……楽太とは違う存在だとはわかっているが……家族のような者だと思っていても良いだろうか?」

「うん。王さま。俺も王さまと話がしたいし、仲間はいるけど、家族はいなかったの。だから、王さまが家族になってくれるなら嬉しいの」


 にこっと笑ったカラクに対して、仲間たちは焦っている。


「カラク! 私もいつでも家族になる心の準備はできておりますよ!」

「うむ……妾もカラクが小さいゆえに待っていてやっているのだ! いつでも番となる!」

「友だちも家族も……まあ、俺等の間じゃ似たようなもんだ!」

「アハハハハ! カラクはほんまにモテモテやなぁ」

「うーん、番とかは、まだわからないの」


 こてんとカラクは首を傾げて、上目遣いでみんなを見つめる。


「今はみんな、仲間で家族みたいなものなの。それでもいい?」


 こくこくと皆は高速でうなずいたのだった。


「良い仲間たちを持ったな。カラク」


 朱雀王は眩しげに目を細めて、カラクを見つめると、ある物を差し出した。高価な貴石に掘られた紋章のようである。


「これは、砂礫国の王家の紋章だ。家族の証としてカラクに贈ろう。我が国の権威の届くところなら、いろいろな便宜が得られるだろう。カラク。ほんとうにこの国を助けてくれてありがとう。……それから、カラクの中に残っている楽太の想いにも、心からの感謝を。楽太。ありがとう」


 そう言った朱雀王の瞳がうるんでいたので、カラクはその気持ちを受け取った。


 そうして、砂礫国を出発すると、城門の前に多くの兵士たちが集まっている。新兵のような若い者から、経験豊富そうな中堅の者まで、様々な年代の男女の兵士たちだ。皆、敬礼をしているようだ。朱雀王は頭痛がするといったように、こめかみに手をやった。


「あの者たちは勇者候補だった者たちだ……楽太を崇拝し、傾倒していた。兵士たちの間で真実が高速で伝わっているようで、かつて勇者候補だった者たちは兵士を辞めて、カラクについていきたいと願い出てきた。すぐに許可することは出来ないと押し留めている」

「ええ!? 勇者候補って……」

「まあ、志伯のような者たちだと思ってくれていい」

「ひっ!?」


 思わずカラクは短い叫び声を上げてしまった。兵士たちから伝わってくる視線の圧が凄い。


「カラク! 今すぐにこの地からできる限り遠くへと離れましょう」

「ああ。勇者みたいなのがいっぱい追い掛けてくるなんて、煩わしすぎるぜ」

「妾が後腐れなく丸呑みにしてやろうか?」

「アハハハハ!! カラクは面白いわぁ!」


 カラクは早足で城門から出ると、朱雀王に向き直った。


「王さま。良い国にして欲しいの。また、戻ってくるよ」

「ああ、カラク。すまなかった。我が国がした事が優しい神を殺し、私の最愛の弟を殺してしまった……二度と同じ過ちを繰り返さないと誓う。なにが本当のことなのか、常に考え続けなければ。楽太が言っていたように」

「うん。王さま。あなたに会えて良かった。俺は楽太ではないけれど、あなたを兄のようだと思うよ。さよなら。兄さん」


 カラクたち一行は歩き出し、朱雀王や兵士たちは、その姿が見えなくなっても、いつまでも見送っていたのだった。



 王都を出てしばらく歩いていくと、カラクは一人の男が街道の端に立っている事に気づく。


 ──勇者志伯だった。




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