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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
最終章 なんのために生きる

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34 偽りの記憶


 その場所は、王城の敷地の奥まった場所にあった。近づくにつれ、瘴気が濃くなっていくようであった。たどりつくと、大勢の魔術師と兵士を引き連れた朱雀王がいた。


「王さま」

「ああ、楽太! ここは危ないから離れていろ」


 山王とカラク、それに新たに加わったイトラたちに一瞬目を見開いたが、朱雀王は真剣な顔をして、その地を眺める。


 その地は、かつての実験場の跡地で更地になっている。月明かりがあるにも限らず、その地だけが、より黒黒と光を吸い込むような闇がこごっていた。そして、その地の奥から伸びている大きな大地の亀裂があり、覗き込んでもどこまでも底が見えなかった。


 湧き上がる禍々しい瘴気はその地の裂け目から出てきているようだった。


「亀裂ができている。山王から、この地の危険性は聞いている。魔術師たちで封印ができないかやってみるところだ。楽太。ここは危険だ。離れていなさい」

「王さまは、俺にこの場所をなんとかして欲しかったんじゃないの?」

「馬鹿な! もし、記憶が残っていれば、結界のことなどを魔術師に話してほしかっただけだ。もう、二度とお前を危険な目には合わせない」


 真摯な目をしてカラクを見つめると、朱雀王はそう言った。魔術師たちに指示をして、結界を張るために、準備を始める。兵士の中には、ちらちらとカラクを凝視しているものがいる。


「楽太様と聞こえたが?」

「たしかに、あの方の幼き頃に酷似している……」

「……まさか」


 ざわめきがさざなみのように起きつつあった。


「楽太。……いや、すまない、カラク。兵の中には、お前が助けた勇者候補だった者たちもいる。彼等は、お前を崇拝していたから、姿を見せると騒ぎになる。この場は私に任せて王城へ戻れ」


 朱雀王がそう話した次の瞬間、唐突に地面が揺らめいた。結界を張ろうとした魔術師たちが、不穏な力で後方へとふっ飛ばされる。


「ぐわ!!」


 衝撃で意識を失った者も多く出て、朱雀王は険しい表情を浮かべた。


 そして、轟音が鳴り響いた。辺りに粉塵が舞う。またしても地の裂け目からの不穏ななにかかと、カラクたちは身構えた。


「ああ、楽太。ようやく見つけた。悪いヤツだ。お前が俺の前から姿を消そうとすると、頭に血がのぼって何をするかわからないと言っただろう?」


 空から落ちてきて志伯は淡々とそう言った。白髪が月の光にきらめき、緑の瞳が不穏な色を宿した。


「ひっ!?」

「勇者志伯!?」


 思わずカラクは悲鳴のような声を上げてしまった。イトラやレフたちも警戒する。朱雀王や兵士たちも、魔王討伐後に戻らなかった勇者の姿を見て驚き、ざわめいた。


 志伯はあたりを見渡すと、その美しい顔にとても嬉しげな笑顔を浮かべる。


「ちょうどいい。魔術師がいる。お前に混ざった魔王カラの部分を取り除いてもらおう」


(そんな、虫歯を抜くみたいに言わないで欲しいの)


「なにを馬鹿な!? カラクはもうカラクでしかないのです! 楽太は死んだ。死んだ者は決して生き返ることはない」

「イトラ」


 イトラが非難の声を上げ、志伯をにらみつけた。カラクはその悲鳴のような声に思わず呼び掛けた。志伯はぞっとするほど冷たい目をイトラに向ける。


「お前……魔王城にいたな……お前がイトラか。楽太を冒涜した愚か者が!」

「なにが愚か者だっ!! お前のせいではないかっ!! あの時・・・お前が・・・楽太を・・・殺したのだ・・・・・!!」


 イトラが激情といっていいほどの感情を乗せて、叫んだ。


「俺が殺しただと……」


 そう呟いた志伯は、頭が痛むのか蟀谷こめかみに手をやって呻いた。それから、イトラを睨みつけるとゾッとするような声音で呟く。


「許さない……、殺したのは魔王カラだ。そうだ……許さん……その上、死者を冒涜するような真似まで。今すぐにお前を滅してやる」


 志伯の目が据わっていて、仄暗く輝き、歪な笑みを浮かべた。


「やめて!!」


 カラクは叫ぶも、志伯は背中の鞘から剣を引き抜き構えた。闇の中で自ら発光するように剣の刃はきらめいた。パチパチと大気が帯電するほどの魔力をまとい、イトラへと斬り掛かる。


 ──カラクは黒魔石を砕いた。


 閃光に閉じた目を開いた人々が目にしたのは、美しい光の精霊のような金髪金目の青年だった。イトラを斬り裂こうとした志伯の剣を、カラクが、伸ばした手のひらのわずか先でピタリと止めていた。


「魔王カラ!!」


 血走った常軌を逸した目をした志伯が叫ぶ。


「俺はカラク、ただのカラクだ。天が見過ごすならばこの俺が拾おう。残酷な世界にも救いはあるのだと。真実から目をそらし救われるならばそれも良い。だが、その選択で、より残酷で理不尽な事が行われるならば、忘れることを決して許しはしない」

「お前は……楽太を殺した……だから、俺がお前を滅したんだ」


 志伯が追い詰められるような表情を浮かべ、うわごとのように呟く。


「その記憶に掛かっている鍵を俺が開けよう。他の者を踏みつけにするのならば、真実を知り、苦しみと向き合え」


 カラクは淡々と言葉を紡ぐが、発せられる存在の圧は強くなく、眼差しには悲しみも感じられる。そっと、志伯の額に手を伸ばし触れた。志伯は、身じろぎ離れようとするが、カラクの手が額にかすかに触れた途端、なにかの枷が外れ、封じられた記憶が頭の中にあふれ出た。


 不思議なことに、その場にいる人々も夢の中にいるように脳裏に光景が浮かび上がってくる。


 ──楽太を殺したのはだれ・・だったのだ?



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