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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
最終章 なんのために生きる

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33/38

33 置いてきた約束


「カラク!」

「とっちゃん」


 もじゃもじゃの黒い獣姿の饕餮とひしっと抱きしめ合う。カラクは久しぶりに見た顔にホッとしてしまった。ポンっと饕餮は幼女の姿に変わる。くりくりの可愛らしい黒目勝ちの目でカラクをじっと見つめてくる。


「どうしてここにいるの? イトラとレフは?」

「ずっと皆でカラクを探しておったのだ。すると、遠くからカラクの気配を感じて、妾だけが引っ張られるように転移してきたのだ。どうやら、妾とゆかりのある土地のせいのようだ……カラク、この場所は、過去に石に封じ込められたときの嫌な感じのする場所だ」

「えっ!? ここは、砂礫国の王城なんだよ……」


(とっちゃんが封じ込められていた石は砂礫国の領主が持っていた。元は、ここで創られたの?)


「カラク、元気のない顔をしておるな? どうしたのだ?」

「えっ?」


 カラクは饕餮の言ったことについて真剣に考えていたのだった。そう言うと、饕餮はぷるぷると首を振った。


「そうではない。顔にいつもの覇気がないのだ。だれか、カラクを虐めた者がおるのか? あの勇者というやつか? 妾が復讐してやるから全て話せ」


 そう言われて、カラクは心の内を探って、とつとつと話し出す。


「ちがうんだ。虐められた訳ではなくて……俺の元になった人たち……魔王カラや、楽太について、考えるようになったの」

「うん?」

「みんな、彼らのことをそれぞれがとても大切に想ってたんだなって……けれど、俺は彼らじゃないから、申し訳なくなってきたの」

「……カラク。なにを言っておる! そなたはそなただと前も言うただろう!! 暗い石の中に封じ込められ、母の悲鳴を聞いていた妾を助けたのはカラクだと」


 饕餮は、がしっとカラクの手を握ってじっと見つめた。勝ち気な瞳が涙でうるんで、きらきらと光っている。


「とっちゃん……」

「妾が助けられたこと抜きでも、そなたの底抜けにお人好しで優しい阿呆なところも愛らしいと思っておる! とても強い力をもっているところも雄として魅力的だが、強くなくとも、妾が守ってやる!」

「うう……ありがとう……とっちゃん」

「それに……あまり、言いたくはないが、他の者どもも、カラや楽太に関係なく、今のカラクを好いている者も多いと思うぞ……あまり気づかずとも良いが……」

「うん、ありがとう……とっちゃん」


 カラクが晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、饕餮を見つめると、ぎゅっとしがみついてきた。


「妾は今のカラクが好きなのだ。過去など、ましてや前世など関係がない。いま何をするかが大切だと思うのだ。カラクのことを妾はずっと見てきた。今のカラクが、とてもとても妾にとっては愛おしいのだ」


 カラクも嬉しく思って、饕餮を抱きしめ返したその時、遠くから懐かしい声が聞こえてきた。


「おーい、カラク!」

「ああ、ようやく、饕餮の気配を追えて、見つけることができました。カラク!」

「ちっ……」


 聞こえてきたレフとイトラの声に、饕餮は舌打ちし、カラクは顔を輝かせた。上空から、龍姿のイトラが黄金獅子姿のレフを乗せて舞い降りてくる。カラクは部屋のベランダから、王城の中庭らしき場所へと、魔力を使って饕餮と共に飛び降りた。


「イトラ! レフ!」

「良かった!! 無事だな? カラク!」

「ああ……我が君! 傍を離れた私をお許しください。無事で良かった。……饕餮、よくやった」

「ふむ……ねぎらいは肉でよい」


 一気に騒がしくなり、カラクは懐かしくとても嬉しく思った。と、その場に、飄々とした声が響く。


「わー、もう見つかってしもうた。みんな、ヤバすぎひん? その執着心こわいわーー」

「山王!? お前、どこへ行っていたんだ!」

「あのね、山王は最後の一人の四天王だったの」

「なんだと!」


 カラクがこれまでの事情を明かすと、イトラとレフは警戒するようにカラクと山王の間へと進み出て、身構える。


「たしかに、わずかに不思議な気配のすることがありました。お前がほとんど現れることのなかった四天王だったとは! なにが目的ですか?」


 イトラが冷たい目をして、山王をにらみつけると、山王は首の後ろに手をやって苦笑した。


「最近は山王として、砂礫国の間諜をやってたんや。その頃に楽太と知り合った。ここの国が最近おかしいから、カラクに来てもらいたかったんや」

「なにを勝手なことを言ってんだ! カラクには関係がない」


 レフの批判に山王は苦笑して、ひざまずくと目線をカラクに合わせた。


「昔にな。約束してん。小さな男の子とや。その子は、助けてほしいって俺に言ってん。せやけど、俺には助けるまでの力がない。だから、カラクに頼みたかったんや。俺の知る中で、カラクが一番強いから……強くて優しいからや」


 その山王の表情は、これまで常に笑みを浮かべているかのようだった飄々としたものではなく、真剣なものだった。


「わかったの」

「カラク!?」

「そういう者なのだ。妾のカラクは」


 レフの驚きの声に対して、饕餮はしたり顔でうなずく。イトラはただ沈黙していた。


「事情を聞かせてほしいの」



 山王が話したことは、かつて非道の行いをしていた場所が呪われたような地になっていて、かつて張っていた結界はなくなってしまったということだった。


「俺が、今、応急処置的に張っとる結界は、ほとんど用をなしてない。多くの王城の人間や王都の人間が死にはじめとる」

「なぜ、カラクがなんとかしないといけないんだ!? 俺はカラクにそんな地に近づけさせるのも嫌だぜ」

「うん……けど、なんとかできるならしたいと思うの。その場所をとりあえず見てみようよ」


 反対するレフに、カラクがそう言ったその時、不穏な地鳴りと、禍々しい瘴気があふれ出した。


「あかん。結界が壊れてしもうた」


 山王が緊迫した様子で、ある方向を向いて走り出したので、カラクたちも後を追ったのだった。






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