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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
最終章 なんのために生きる

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32 君は王子様


「着いたで。カラク」

「グーグー……はっ!?」


 カラクが呼びかけに目を覚ますと、雑踏のなかで、山王に抱きかかえられていた。


「カラクは図太いわ。昨夜はすぐに眠りについて、朝も起きひんかったんやで」

「……。ここはどこなの?」

「砂礫国の王都や。これから、王城へ向かうで。楽太の家や。あの方に会う」

「楽太のいえ?」

「覚えてへんのか?」


 カラクはぱちぱちと瞬きをする。ゆっくりと覗き込むように、カラクの顔を見つめてきた山王は問い掛ける。


「楽太の家や。楽太は砂礫国の第四王子やったんや。庶子で継承権はなかったんやけど、その強大な魔術の力で規格外な王子やったで」

「う……」

「う?」

「うそーーーー!」


 そびえ立つ王城を見上げながら、カラクは心の底から叫んだ。



 城門で、山王がなにかを見せると支障なく通された。そのまま、どんどんと城の奥へと進んで行く。おそらく城の中でも重要な場所へと近付いているような気がする。立っている兵士の数も増え、警備も厳重になっていく。


「ここや」


 大きな扉の前で下ろされて、警備の兵士が扉を開く。その部屋は広間のように広く、大きな玉座と、そこに座る一人の男がいた。二十代後半だろう黒髪黒目のカラクによく似た端正な顔立ちに、鍛え抜かれた兵士のような体躯をしている。


「楽太!」

「陛下!?」


 がたっと玉座から立ち上がった男に対して、周りに侍る近衛兵や臣下は慌てる。


「お前たちは下がれ」


 そう言って男は、カラクと山王だけを残した。万感こみ上げるというように、じっとカラクを見つめた。


「陛下」


 山王は砂礫国の王、砂礫朱雀すざく王に声を掛ける。この国では王のみ姓を持ち、国家名を姓として継いでいく。


「ああ。山王。よくやった。まさか……また楽太に会えるとは……」

「……楽太じゃないの……カラクだよ」

「ああ。お前は楽太の生まれ変わりという話だったな。また、お前は不思議なことになっているな。子どもの頃は、前世では異世界にいたなどという世迷言も言っておったかと思えば。ほんとうに、生まれ変わるなど……」


 カラクは、生まれ変わりとは違うと言おうとすると、朱雀王が感極まったように涙ぐんでいることに気づいて言葉を止めた。


「お前は、幼き頃より、周りを振り回し、大騒動を起こすやつだったな。以前、勇者候補たちの施設を爆破した、その後のことは今でも語り草になっている」

「その後?」

「ああ。覚えていないのか? 勇者を創り出すことを止めることに反対する一部の重臣や聖職者たちを、楽太は魔術で上空へ持ち上げて突き落とし、地面すれすれでピタリと止めた」

「ええ!?」

「勇者候補の者の実験で、高い所から突き落とし、魔力を強化させるという実験があったようでな。死んだ者もいたらしい。お前は静かに言った。己が耐えられないことを他人にするな、と」


 そこで、言葉を切って、じっとカラクを見つめた。


「私は、おかしいと思っても、自分の立場や保身、これまでやってきたということで、声を上げられなかった。楽太の姿を見て、私は王となるべき者として、あるべき姿を考えることができるようになったのだ」


 優しく、悲しい目をして、朱雀王は真剣にカラクに語り掛ける。


「楽太が勇者討伐で死んだと聞いて、どれほど送り出したことを後悔したか……」


 カラクは、とても真摯に語り掛けてくる、王の姿に胸がきゅっと痛み、けれど掛けるべき言葉がなかった。


「楽太がいたおかげで、私たちはいつも退屈しなかった。王城はお前がいなくなり、みんなも去ってしまい、随分と寂しくなったのだ」

「みんな?」

「ああ。私をのぞき、お前の兄や父母たちは病となり儚く逝ってしまった。お前の姉妹たちもみんな嫁いで、この国からはいなくなってしまったのだ」


 そう言った王の顔には、茫漠とした虚しさが浮かんでおり、カラクは胸が痛んだ。


「お前がいなくなってから、この国はおかしくなってしまった。災いが起きるような不穏の気配に覆われている」

「災い?」

「ああ。……立ちっぱなしですまないな。旅をしてきたのだろう? この話は長くなる。今日は身体を休めて、明日、家族水入らずで話をしよう。なあ、楽太」

「……うん」


 カラクは、これ以上悲しませたくないと思わずうなずいてしまったのだった。

 


「ええ子やな。カラク。孤独な王を突き放さんかった」


 王城の客室に案内されながら、山王が言う。


「……そんなに、悪い人に見えなかったよ。なんで、この国は危険だと言ったの?」

「王族や重臣が次から次に死んどるんや。それに、ここの土地はすごい嫌な気がせえへんか? 前に、饕餮の親を操っとった領地にあった森のような気配や」

「うん……」


 たしかに、カラクにもこの国に来た時から、胸の奥のざわめきのような不穏な気配を感じていた。


「……まあ、今晩はゆっくりしい。また、明日、話そうや」


 山王に言われて彼と別れて、客室に入ると、とても豪華な調度品や寝台が置かれていて、カラクはそわそわした。


 ──ガリガリ


「うん?」


 ──ガリガリ、ガリッ!


 なにかを引っ掻くような音が聞こえてきて、客室のベランダへ出られる窓を開けた。


「カラク!!」

「とっちゃん!?」


 そこにいたのは、懐かしいもじゃもじゃの黒い獣姿の饕餮だった。



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