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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第四章 それは偶然か必然か

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30 最後の四天王


 やがて志伯は口を開いた。


「村人たちを皆殺しにしなくていいのか?」


(なんだか勇者が魔王みたいなことを言っている……)


「これからこの村は、定期的にあった莫大な収入がなくなるの。だから、みんな困る。自分たちで生きていくことを始めて苦しむ。そこから、生きて考えてほしいの」


 志伯は何も言わずに、じっとカラクを見つめた。ごくりと唾を飲み込み、カラクは志伯を見上げる。緊張感が頂点に達しようとしたとき、足元の地面が波打った。


「うわーーーーっ!!」


 たまらずカラクは、志伯が破った扉から小屋の外に飛び出した。どうやらここは、鉱山の洞穴の中のようだ。魔獣のコガネを退治した影響か、振動はどんどん激しくなっていく。洞穴の天井部分が崩落し始めている。


「くっ……」


 志伯とカラクの間に大量の土砂が落ちてきて、二人を分断した。と、後ろから伸びてきた手にカラクは抱き上げられた。


「キャーーーーーッ」

「カラク!!」


 驚きで声を上げるカラクに手を伸ばした志伯の姿が土砂に遮られて消えた。


「離してー」

「カラク。俺やでー」


 状況に似合わないのほほんとした声にカラクは目を見開いた。


山王さんのう!?」

「うん。ようやく見つけたでー」


 ぎゅっとぬいぐるみのように強く抱えられる。山王はそのまま素早く駆け続け、すぐに鉱山を抜け出し、どこかへと向かっている。


「どこへ行くの? 涼風と烏野を逃さないと……」


 かくかくしかじかと、これまでの経緯をとつとつと説明したカラクに山王はにっこりと笑みを浮かべた。


「分かったで。仲間に言うて、その子たちは安全な場所へ逃がすように手配するわ」

「なかま?」


(イトラとレフのこと? 彼らはどこにいるのだろう?)


「うん。ねえ、山王」

「なんや?」


 とても速く山王はカラクを抱えて走っている。揺れる腕のなかで、カラクはかすかな違和感を覚え始めていた。


「あれから、みんなはどうなったの? イトラとレフととっちゃんは? アシュラと暁の戦いは?」

「……」


 カラクは、山王が一人だけでいることが不思議だった。


「ねえ、どうしてここが分かったの?」

「俺にはそこら中に情報網となる者たちがおんねん」

「そうなの? それが、さっき言ってた仲間?」

「そうやで」


 びゅんびゅんと、風景が後ろへと通り過ぎていく。獣人とはこれほど身体能力に優れていただろうかと、カラクは不思議に思う。


「どこへ向かっているの? イトラたちのところ?」

「いーや、カラク。これから行くのは砂礫国や」

「え!?」


 どきりとして、カラクは身体を震わせた。志伯が向かっていた先だった。


「どうして?」

「どうしてって……そりゃ……俺が砂礫国の間諜やからや」

「山王?」


 いつも優しく微笑んでいた山王が、今は何を考えているか分からない。


「大丈夫や。君は魔王カラと楽太の生まれ変わりなんやろ? あの方は君を傷つけはせえへん。それにもしもの時は、俺が連れて逃げたるから」

「何を言ってるの? イトラとレフととっちゃんのところへ行こうよ。みんなでまた、一緒に旅をしよう?」

「あの旅は楽しかったなぁ。また、行きたいわ。せやけど、カラクも色々と決着をつけなあかんのんちゃう? 過去が追いかけてきてると思わへんか? 君のせいやないんやけど」


 山王はいつものように、飄々と柔らかい表情でカラクの顔を覗き込んだ。カラクは逃れようと身じろぎをする。


「なあ、カラク。俺は今のカラクのありようがずっと不思議やったんよ。昔の魔王カラとは違うようで片鱗がある。とても多くの魔族に慕われながらも、魔王らしくない」

「そんなのわからないの」

「うん。そうやんな。ごめんやで」


 謝りながら、よしよしと山王はカラクの頭を軽く撫でた。


「だから、砂礫国へ行こうや。あの国は、今の君の全ての発端や」

「うわーーーーん、イトラー、レフー、とっちゃんーー!!」


 ジタバタと暴れるカラクを、山王もまた縄でぐるぐると縛ったのだった。蓑虫ふたたびである。


(山王はたしかに飄々としてうさん臭いところもあったけれど、いつの間にかちゃんと仲間になったと思っていたのに……)



 辺りがすっかり暗くなったので、野営のために、山王は焚き火をつけた。


「カラク。俺は楽太も、魔王カラも両方知ってるんや」

「それはおかしいの。どうして両方を知っているの?」


 砂礫国の間諜というならば、楽太とはどこかで会っているのかもしれない。けれど、魔王カラとはいつ会うというのだろう? 魔王城は人間が忍び込むのには適さない。


「ふふふ……俺って考えたらめっちゃ怪しいわぁ。ごめんやで。カラク。俺自身もずいぶんと形のないありようで生きてきたから何を望んどるんか、そもそも自分とはどんな存在なのか忘れがちなんや……」


(うー……なにを言っているかわからないの!)


 哲学的なことを言い出した山王を睨み、縛られたカラクはジタバタとしながら叫ぶ。


「ねえ、砂礫国に行くのは良いよ。一緒に行こうよ。けど、イトラやレフやとっちゃんと合流して、一緒に行こーよ。みんな、心配してるの」

「ああ……彼らか……。カラク、彼らは君を好きなんやろうか? それとも魔王カラを? もしかしたら楽太を?」

「今の俺はカラクなの。元の材料は気にしないことにしたの」


(もう、逝ってしまった人には、なれないし、なる気もないの。たとえ、少し記憶があったとしても……)


 暗闇の中、焚き火に照らされ浮かび上がった山王の顔がこちらをじっと見つめてくる。真っ白に浮かぶ無表情な顔にカラクは背筋がぞくりとする。


「カラク。俺はさまざまな存在やったんや。ある時は、忠実な魔王の配下で、ある時は大国の間諜、またある時は遊び人の街人。姿もその時々で変えられるんや」

「山王? どういうこと?」

「カラク。俺は名もなき魔族。さすらう姿なき魔人。そして、四天王の最後の一人や」


 衝撃の山王の告白に、カラクは目を見開いた。最後の四天王は気になってはいたが、記憶はとてもぼんやりしていたのだ。


「姿なき魔人?」

「ああ」


 そう頷くと、ポンっと山王はカラクの姿に変わった。


「あれれ」

「あれれ」


 次の瞬間に、またポンっと銀髪銀目の美女の姿に変わる。


「ああ、いとけない我が君。可哀想にこのような扱いをされて。おいたわしい!」

「イトラ!!」

「ふふふ……」


 ポンっとまた元の姿に戻った山王は笑った。


「ただの変身魔法やないねん。俺は全ての構造を模倣して、考え方すらも本人になんねん。全く存在しないはずの者に変身したときも、その者になりきるんや。この姿の山王もそうや。本来ならどこにもおらへん。……今では、俺が本来、どういった姿で、なにを望んでたんか、どんなことを考えてたんかも、いつの間にか忘れてしまったんや」


 そう言って微笑む山王は、いつものように飄々とした様子なのに、カラクにはとても哀しく見えた。


「山王!」

「うん?」

「俺にとっては山王なの!! ずっと、飄々として、後ろで見守ってくれて、冷静なツッコミを入れてくれる仲間なの!!」

「……カラク。みんなが君を好きな理由が俺にもわかる気がするわ」

「じゃあ、一緒に帰ろう!!」

「それはあかん。砂礫国へ行って決着つけるで。俺は過去にあの国で、楽太にも会ったことがあるんや。あの国のことはよく知っとる。あの国は、とても危険や。放置しとるとカラクも危険になる……気がする。……それに俺には個人的な約束もあんねん……」


 そう言って山王は微笑んで、カラクがその後なにを言っても聞き入れてくれることはなかったのだった。




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