29 コガネと黄金
地震は短い間隔で頻発しているようであった。また、強い揺れが起き収まった後に、とんとんと扉が叩かれた。涼風が外へと出ていく。しばらくして、家に入ってきた涼風は蒼白な顔をして言った。
「村の代表から今晩に儀式を行うと言われた」
カラクは震える烏野の前に立つと、ポンっと姿を変えた。
「えっ!?」
驚く烏野の前に、全く同じ姿をした女の子が現れていた。烏野に変身したカラクはにこりと笑った。
「これで替え玉になるの!」
涼風と烏野には家の中の奥に隠れてもらった。村人の代表がやってきて、烏野に変身したカラクは村長の館へと連れて行かれ、支度をされた。湯浴みを手伝われ、真っ白な衣装に着替えさせられる。
そして、豪華な食事を振る舞われた。とても美味しそうだったので、むしゃむしゃと食べると、やがて眠くなってきた。
これは夢の中だと分かることがある。カラクはその認識の中でパチリと目を見開いた。闇の中に浮かぶ一人の男がいた。
『やあ、カラク』
「アシュラ!! 暁はどうしたの!?」
『あれから戦い続けて、暁に負けちゃったんだぁ。暁は決勝でも勝って、南平原となぜかボクも暁のものにされちゃった……暁は面白いね。ボクの想像をいつも超えてくる。最期まで見切らずに、そのありようを見届けることにしたよ。カラクもそれで安心するんでしょ?』
「暁はアシュラを大切に思ってるんだよ」
『よく分かったよ。けどね……ボクにはその心がわからないんだ。ねえ、カラクにはわかるのかな? 魔王カラはわかったのだろうか? ねえ、カラク。……カラはなぜ死んだんだろう?』
『俺は覚えていないの』
『……カラはボクたちに力を与えたんだよ。言ってみれば、ボクの母であり、父であり、創造主だ。それなのに、全てを置いて死を選んで何がしたんかったんだろう? カラが負けるなんてありえない。ねえ、カラク。そこに……君の中に答えてくれるカラはいるのかい?』
ゆらゆらと揺れるのを感じてカラクは目を開いた。薄暗く狭いところにいる。周りから聞こえてくる声で、カラクは輿に乗ってどこかへと運ばれていることに気づく。
どさっと下ろされて、人々の気配が去っていく。四つん這いで輿から這い出ると、小さな小屋のような場所だとわかった。小屋の外は薄暗い。
カラクは扉を開けようとしたが、何かがひっかかっているようで、開かない。
(志伯はどこにいるんだろう?)
志伯は傍観すると言いつつも、近くで見ていると言っていた。カラクには志伯のいる場所がわからなかった。
ふと、小屋の奥の方に襖のようなものがあることに気づいた。カラクは、それを横に滑らせる。すると、とても大きな穴が襖の向こう側の床に空いていたのだった。
そして、……ずるずる……ずるずる……という微かな音が近づいてくる。何かが這うような音である。
「なんだか嫌な予感がするの?」
カラクは心の中に小さな炎を思い描いてみた。ぷかぷかと鬼火のような炎が現れる。
「えいっ」
そうして穴の中に放り込む。ピカピカきらめくなにかが見え、カラクは目をこらす。すると、はるかに下の方から、黄金色に輝く巨大な大蛇が上がってこようとしていたのだ。
「やーーーー」
ムンクのような顔をしてカラクは叫ぶ。しかし、無常にもずるずるという音は近づいてくる。
「……もしかして、あれがコガネ?」
そして、生贄ということは、あれの餌になれということなのでは? とカラクは思い至った。
「えいっ」
頭の中に思い描いて、大きな鎌を取り出した。
「これで魔獣退治なの。……一人でできるもん!」
ドッドッと鼓動が高鳴りつつも、穴から距離を取りじっと見つめる。と、鬼火が穴から飛び出してきたと同時に、巨大な黄金色の大蛇が顔を出した。
「いやーーーー! 思ったより大きいのーーーー!」
ゆらりと空中で、巨大な鎌首をもたげた蛇は、カラクに向かって突撃してきた。
「うわっ、ほっ! よっと」
カラクは身軽さを活かして、曲芸のように躱していく。そして、空中でくるりと回転すると、蛇の尻尾に飛び乗って頭の方へと駆けた。
すると、カラクの走っているところから皮がめくれていく。カラクは鎌を下向きに持ち、皮に引っかけていたのだった。
しゅるりと、全身の皮を脱いだ大蛇は、一回り小さく真っ白になっていた。
「さあ、穴に戻って! ここに君の餌はない! もう二度と来ないで!」
「お前は甘いな。カラク」
そう言った声が聞こえたかと思うと、目の前の大蛇が一刀両断され、穴の中に崩れ落ちていく。
「いやーーーー」
カラクは愕然として、振り向くとそこには、大きな剣を抜いて立つ志伯がいた。
「生かしておけば、また時をおいてやってくる。お前は、殺したくないのか?」
(たしかに、二度と生贄を出さないためには、退治してしまうのが一番いい)
「殺したくないと思ってしまったの」
「お前は楽太よりも甘いな。魔王と混ざって、より甘くなるということは不思議だな? 頭も悪くなるし……」
「うるさいのーー!」
失礼な志伯にカラクは怒ると、志伯は少し笑ってから、蛇の残した皮を指差した。
「それが、村人が生贄を捧げ続けた理由だな」
「……これはなに?」
「……黄金だ」
カラクが鎌で引っかいて、めくった蛇の皮は、黄金色に煌めいていた。
「この鉱山のどこかに金脈があるのだろう。あの大蛇は金を食べて、脱皮していたのかもしれない」
「……なんのために?」
「金に目のない人間を利用することを、いつしか知ったのかもしれないな」
カラクはこのままここに置いておけば、村人たちが回収にくるのだろうと思った。それは面白くない。
「えいっ」
カラクはイメージをすると、黄金の皮は何千匹もの黄金色の蝶になって、羽ばたいていく。
「綺麗なのー」
「……」
志伯は何も言わず、ただ黄金色の蝶の行き先を見つめていた。




