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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第三章 空虚を埋めるもの

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24 ほんとうの望み


 意識が芽生えた時、アシュラはとてもか弱い存在だった。比喩ではなく、瞬きするほどの間で消えてしまうような揺らぎ。だが、アシュラには生まれたという意識があり死んでいくという自覚もあった。


 己のありように絶望する。なんのために生まれ、死んでいくのか。何もなさず、何も残さず、なんための生だったのか……。


 そんな嘆きを聞いたように、目の前に光が溢れた。柔らかな優しいなにかに触れられる。


「君はとても儚い存在だね。俺はそれを美しいと思うけれど、君がそれを嘆くならば力をあげよう。この世界の者たちは、みんなかよわい存在だ。すぐに死んでしまうことに涙する者たちには、俺の力を分け与えよう。そうすると、俺もこの世界に縛られてしまうけど、美しい君たちと共に生きていこう」


 その声は、麗しく響き、アシュラは恍惚の中で、温かな力を与えられ、今の強い力を持つ存在となった。


 その声の主は、カラといった。後世の多くの文献でカラは力を授けた神として登場した。けれど、カラは表には出てこず、自らはなにもなさず、常に見守っているようだった。


 カラは神と呼ばれた時代もあった。その時は、アシュラも神の御使いとみなされた。


 力を得て、弱き者たちは、魔族や獣人や人間へと変化していった。やがて、それぞれの種族間や、それぞれの種族の中でも争いが起き始める。


 それでもカラは、力を使い導こうとはしなかった。近年になって、カラを魔王とよぶ人間たちが現れた。いつの間にか、アシュラも魔族と呼ばれていた。


「カラ。君はなぜ、何もしないんだい?」

「うん? 俺はいつも忙しいんだ。昼寝をしたり、美味しいものを食べたり、今を楽しんでいるんだよ」


 愚かな者たちなど、支配し導いてやれば良いのだとアシュラは思う。けれど、カラはいつもふわりと微笑み、煙に巻くようなことを言うのだった。


 いつしか、長い生に飽きてきたことに気づき愕然がくぜんとする。瞬く間の生に絶望していたのに、とても長い時を生きられることになっても、なんのために生まれ、死んでいくのか、分からないのだった。


 アシュラはいつの頃からか、カラの元から離れ、人間たちと暮らすようになっていた。己の意識が芽生えた頃の弱さを、人間を見れば思い出す。わずらわしく、虫を潰すように潰してしまおうとした時、爆発的に強くなった者がいた。


 アシュラは胸が高鳴った。自ら、強くなれる人間という存在に、惹かれたのだった。そして、心を震わせる人間見つけると、戦わずにはいられなかった。


 暁もそんな人間の一人に過ぎなかった。手ずから子どものうちから育てたのは暁が初めてだったが。これほど、幼い頃から強さを得る者は珍しかった。


 暁は変わっていた。魔族の中でも変わっているとよく言われるアシュラから見ても変わっていた。


 寡黙で必要なこと以外は基本は話さない。だが、気が弱いわけではなく、望みは何がなんでも叶えようとする。城に連れて帰ってすぐの頃、一人で眠れなかったのだろう暁は、アシュラの寝台によく潜り込んだ。


 アシュラは人間の子どもが好きなわけでは無い。わずらわしく放り出す。だが、毎晩、暁は潜り込んでは放り投げられるを繰り返した。ある時、暁は真剣な顔をして話した。


「アシュラ。人間の成長には良質な睡眠が必要」

「うん。そうだねぇ。一人のほうが広々とよく眠れるよぉ」

「わたしは、眠ると両親の死んだ夢を見て眠れない。アシュラの近くで寝ると大丈夫。小さいうちの長く質のいい睡眠は今後のわたしの強さにつながると思う」


 暁は能面のような無表情な顔で、絶対に譲る気はないという意思を込めて話をする。アシュラは、なんだかおかしくなって、それからは寝台に潜り込んできても放置した。成長した暁が寝台に潜り込んでこなくなった、初めての夜に、せいせいとした気と少しの寂しさを感じた気がしたのは不思議だった。




「ハハハハハハー!!」


 とても愉しそうに、暁は哄笑し、魔力で作った斧を振り上げた。それは暁の3倍以上の大きさをしている。重さを全く感じないのか、とてつもない速さで迫ってきた。


 目の端でカラクが勇者に連れ去られるのが見える。イトラたちが追いかけていく姿も。だが、この戦いの方が愉しく後回しにする。


「暁。君はおもしろいね。いつもボクの考える限界を君は容易く超えてくる」

「グアーーーー」


 獣のように叫び声を上げ、暁は巨大な斧を振り下ろす。幾つもの触手で受け止めようとしたが、魔力自体に鋭い斬れ味があり、触れるだけで簡単に全てを切断されてしまう。尋常ではない魔力の密度だった。


 アシュラは驚いて、そのまま、後ろへと飛び退ったが、一瞬で距離を詰められた。魔力を込めた手のひらで、先ほどのように斧を掴むと、左手にいくつも亀裂が走り、思わず離す。


 そのまま、魔力の風圧により倒れ込んだところに、斧が首元にぴたりと当てられた。


「凄いよぉ。暁。まさか、君に殺されることになるとは……」


 暁の目は我を失った獣のような目をしている。いつも、限界を超えたときは、全てを壊し尽くすまで終わらない。


 大きな斧に力が入り、首が切り離されると感じたその時、ぽとぽとと水滴がアシュラの頬に落ちた。


「イヤ……イヤダ…………コロシ……タク……ナイ」

「……あきら?」


 上を向くと、目に光の戻った暁が大粒の涙をぼとぼとと落としていた。暁の涙を見たのは初めてだった。


「う……う……うわーーーーん!! うあーーーーん!! うーーーーっ」


 それから、タガが外れたように暁は幼子おさなごのように大きな声を上げて、泣き始めた。


「あ、暁?」


 暁は、斧を形成していた魔力の形を変えて、アシュラを包み込むと、闘技台の白い床から放り出した。ぼてっと地面に落下したアシュラは目を白黒させる。


「こ、これで、あなたはわたしに負けた!! 次の決勝でもわたしは勝つ! 南平原はわたしのもの。そして、そこに住むあなたもわたしのものとなる」

「ええっ!?」


 泣き止んだ暁の目は据わっていて、迫力がある。なぜか、アシュラは決して寝台に潜り込むことを諦めなかった幼子を思い出した。


「だから、わたしが老婆でよぼよぼになって戦えなくなっても、あなたはわたしのもので、傍にいるの」


 暁の声が震えていて、アシュラは強い力を持つ人間を見つけた時のような心地を覚えた。それは、よくわからない気分だったが悪くはなかったので、アシュラは頷いたのだった。





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