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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第三章 空虚を埋めるもの

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23 瞬きの存在


 暁は悲鳴を上げなかった。ただ、その白い肌が更に白くなったかのようだった。暁がその場から後ろへと飛び退った。だが、アシュラは追いかけず、興味がないかのようにふいっと横を向いた。


「どこを見ているの?」

「うん? もう君に興味がなくなっちゃった。育ててあげたよしみで殺しはしないから、さっさっと闘技台から降りてよ。早く次の戦いがしたいから」


 暁は折れた右腕を押さえながら何も言わない。ただ、その唇はぷるぷると微かに震えていた。しばらくの空白の間があって、暁は前へと進んだ。アシュラの方へと。そして、絞り出すように呼び掛けた声は掠れていた。


「アシュラ。わたしは殺す価値もないと? これまでの時間は少しの価値もないほどのものだと?」

「価値? 価値がある者を殺しはしないよ。けれど、もう君との戦いを待とうとは思わない。ボクの暗闇を照らしはしないから」

「わたしは強い。これまでも、これからも。もっと強くなる」


 静かに抑えられた声ながらも、切実に響くその暁の声音は、カラクの胸を痛くした。


「ボクにはそうは思えない。君を見限った。気にしなくていい。人間とは大抵はそういう生き物だから。瞬く間ほどの移ろう存在だ。ボクの期待に届かなかったことは、仕方がない」

「うわあああぁぁぁっ」


 暁は、抑制を重ねた淡々とした様子から一転、爆発したように悲鳴じみた叫び声を上げた。更に強い魔力を纏わせた暁は突進していく。


「ああ……面倒くさいな……もういいよ」


 そう言って、アシュラが右手を前に突き出すと、足元から複数の触手が伸びていった。強い魔力を纏ったそれは暁を貫くはずだった。


 ──そこにまばゆい閃光が満ちた。


「天が見過ごすならばこの俺が拾おう。残酷な世界にも救いはあるのだと。儚き者を殺させはしない」

「カラ?」


 触手を掴み、断ち切ったのは、黒魔石を割ったカラクだった。金髪の髪はさらりと風に揺れ、光そのもののような瞳は物憂げに見える。美しい青年の姿に転じていた。


「カラ!」


 一度目は呆然と言葉を発したようだったアシュラは、歓喜の声を上げた。


「ああ!! 魔王カラじゃないか! 君がいなくなってボクはずっと悲しんでいたんだよ」

「俺は魔王カラではない。カラクだ。カラは死んだ。共鳴する魔力によって一時的にカラだった残滓が強く見えているだけだ。散逸した構造は二度と元に戻ることはない」

「なに言ってるの? 君のその魔力も姿もカラじゃないか!! 君が今のボクにしたのに、君だけ先にいなくなるなんてひどいよ!」

「今の俺はその者ではない。ただ、暁を殺させはしないという俺の……カラクの意思でここにある。お前に大切な心を捧げる存在を簡単に消そうとするな」


 喜びを浮かべていたアシュラの顔は、驚いたようにすっと真顔になった。


「カラ。君がそれを言うの? 真実を知れば、全ての者が君を崇拝し心を捧げただろう。全てから逃げ続けてきた君が……。やっぱり君はカラじゃない?」

「カラク?」


 暁とアシュラの間に立つ、成長して変化した姿のカラクを見て、暁は戸惑いの声を上げる。カラクは傷付いた暁へと目をやった。


「そう、俺はカラクだ。暁。君は傷付かなくていい。アシュラは長い時を存在して君とは精神のありようが違う。価値の置きどころが違う。しかし、俺はそれを君に押し付けていい理由にはならないと考える。儚きものよ。君は存在するだけで、価値がある。唯一で瞬きの存在よ。アシュラと戦うのは止めて、ほんとうの望みを探せ」

「もう、ボクと話してよ。そんなのはもう、どうでもいいだろ?」

「……アシュラ」

「ボクがこれほどの長い時を生きてきたのは、君のせいだ。そうした君がボクの考えを行動を否定するのか? ボクはとても強い。金も土地も力もある。そして、生きてきた時は長く、知識も人間には並ぶ者もいないほどに持っている。虫のような人という存在にも価値を感じるのは、瞬きほどの煌めきにだけだ。その煌めきが見えなくなれば、それはもうただの虫さ」


 カラクがこれ以上のアシュラの言葉を止めようと、手で制した。だが、アシュラのその残酷な言葉を聞いた暁が大きく身体を震わせ始めた。


「クハッ!! アハハハハハッ! アハハハハハッアハハハハハッ」


 暁は驚くほどの大きな音で哄笑を上げる。その身体からは濃い魔力が漏れ出し、魔力が渦となって身体に纏わりつく。目は爛々と光を宿し、獣のようだった。その圧倒的な力の発露に、アシュラは一転して、目を輝かせた。


「ああ!! すごいよっ! 暁!! 君はまた一段階、限界を超えるんだね!?」

「暁?」


 ゆらりと実体を感じさせるほどの魔力を纏わせた暁のその姿は巨人のように見える。


「さあ、戦おう!! まだまだ、楽しい時は続くんだね? 君を育ててほんとうに良かったよ!! 君と出会えてほんとうに良かったよ!! 暁!!」


 アシュラが嬉々として暁に向かい合う。これまでの関心のなさがなかったかのように。


「アシュラ」


 カラクが言葉を更に重ねようとしたところ、目の前で大きな爆発が起こった。轟音が鳴り響き、粉じんが舞った。


「カラク!!」


 イトラの叫びが響く。粉じんが晴れると、そこに一人の男の姿がこつ然と現れていた。長身で鍛え上げられた筋肉質でありながらも靭やかな身体。白い短髪に宝石のような緑の瞳。若く端正な顔立ちながらも、とても冷たい印象を与える。


 銀色の防具に、背中に銀色の鍔に収まった大きな剣を背負っている。剣を抜くと男は言った。


「お前は俺が殺したはずだ。魔王カラ。なぜ、ここにいる?」


 イトラとレフが叫び、唸り声を上げた。


「勇者、志伯!!」



 志伯は驚くほど冷たい眼差しで、カラクを見つめると、背中の鞘から剣を引き抜いた。イトラとレフが慌てて近づこうとした。だが、志伯が張った結界に遮られて、それ以上進めずに立ち止まった。


 暁は我を忘れたようにアシュラに殴りかかっており、アシュラもちらりとカラクを気にしながらも、愉しそうに戦いを続けている。


 志伯は高い空中から飛び降りてきたようだ。闘技台は隕石が落ちたように、大きく抉れてしまっていた。


「俺はお前を必ず滅ぼすと誓った。そして、お前をちりも残さず殺したはずだった。答えろ。なぜ、まだ生きてここにいるのだ?」


 志伯は激昂しているわけではない。問い掛ける声音は落ち着いている。表情も何も読み取れないほどだ。たが、カラクはその存在の力の圧を感じていた。


「俺はカラでない。カラクだ」


 カラクはそう言うも、志伯はその剣を頭上へ高く掲げると斬りかかってきた。カラクは後退して、剣を避ける。飛び上がって距離を取ろうとするも、尋常でない速度で斬撃を重ねてくる。


 カラクは力を加減できずに殺してしまいたくなかったので、言葉を重ねる。


「待て。俺はカラではない。カラは残滓に過ぎない」

「あの悪夢のかけらが一片でも残っているのならば、消し炭にするまでだ」

「なぜ、それほどに憎んでいる?」

「覚えていないのか? お前があいつを殺したんだ!!」


 志伯の瞳が憎悪に燃え上がり、魔力の圧も強まっていく。カラクはなぜか抵抗する気が起きずに力を抜いた。シュルるるる~っと空気の抜ける音が響く。


 そして、カラクはポンっと元の姿に戻った。黒髪黒目の小さな子どもの姿に。志伯は目線を下にやって、初めて表情を浮かべる。それは驚愕といっていいほどの強い驚きだった。


「楽太?」

「カラクなの。俺はカラク。魔王カラは材料で煮干しに過ぎないの」

「楽太!!」

「貴様! カラクから手を離せ!!」


 がしっとカラクを抱きしめた志伯に激怒したイトラとレフが、結界を殴りつけヒビを入れた。志伯はちらりとその様子を眺めると、カラクを抱き上げ、空へと飛翔し高速で移動を始める。


「うわぁ~〜」


「カラク!」

「待て!」

「妾のカラクをさらうなど許さぬ!」


 イトラやレフ、饕餮の叫び声が瞬く間に遠ざかった。とんでもない風圧でカラクはくらりとして意識を失った。






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