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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第三章 空虚を埋めるもの

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22 求めるものは


「何を言っているのか分からないの」

「そっか……わからないか……それなら、わかるようになってよ」


 アシュラはまたたく間にカラクの眼前に寄ると、目にも止まらぬ速さで打撃を加えていく。カラクは無意識に魔力で防御しつつも、濁流に呑まれる木の葉のように翻弄された。


 大きな男が小さな子供をタコ殴りにする様子は凄惨で、見守る観客たちからも悲鳴が溢れる。イトラとレフもギリギリと歯軋りをしながら、今にも飛び出していきそうだった。耐えられないとばかりに、悲痛な呼び声を上げた。


「カラク!!」


 そんな、周囲の者たちを一顧だにもせず、アシュラは力を溜めた一打を放つ。カラクは体の中心を殴られて、空高く舞い上がり、落ちていった。


 本来であれば、闘技台の外へと落ちる所を、また、触手がカラクへと迫った。

と、その触手をいなして、カラクを受け止めた者がいた。そっと、カラクを闘技台の外の地面へと下ろす。


「……何で邪魔するかなぁ。悪い子だね。暁」


 暁は、表情を変えずその冴え冴えとした眼差しでアシュラを見つめる。


「彼はもう負けていました。このままでは、殺してしまう。あなたは、珍しく彼を気に入っているでしょう? 強さに関係なく。それに、次の対戦者はわたしです」

「あれ? 暁との対戦はまだまだ先のはずじゃあなかったかな?」

「あなたとの対戦を避け、不戦敗者が続出しました。既に、わたしが何勝かしましたので、もう準決勝なのです」

「へー……」


 アシュラはカラクを見て、何かを思いついたようににこりと笑った。


「じゃあ、カラクは今はもういいや! お疲れー!! また、後で遊ぼうね!!」


 アシュラはそう言うと、ポイッと何かを放り投げた。慌ててカラクはそれを掴むと、幾つかの黒魔石だった。黒魔石には、アシュラの魔力が込められているようだ。


「暁。君と真剣に戦うのは初めてだね。ずっと大きくなって強くなるのを楽しみにしていたよ」

「うん。アシュラ。わたしもずっとこの時を待っていた」


 アシュラは、カラクから暁に関心をすっかり移して、愉しそうに目をキラキラと輝かせる。暁は、その端正な顔立ちに微かに笑みを浮かべると、さらりと髪をかき上げた。


「いくよ。アシュラ。あなたに会えて本当に良かった」


 暁は、魔力を纏わせた大きな斧のような武器を背中の大きな鞘から引き出した。幼い頃に盗賊を皆殺しにした時から、この形状の武器が最も使いやすいのだった。


「それは、こっちの言葉だよ。君と会えて良かった。人間は脆いけれど、君は壊れずにどんどん強くなっていくんだから」


 暁はとても綺麗な顔で優しい笑みを浮かべた。暁は、風のように駆け抜けて、アシュラの頭上に斧を振り下ろす。アシュラは踊るように後ろへと回転すると、斧を避け、代わりに魔力を纏った足蹴りを暁に放った。風圧が武闘台の周りに張っている結界をみしみしと揺らす。


 暁は魔力を纏わせた腕で防御し、反対に足を掴むと武闘台の外へと放り投げた。アシュラは空中で飛ぶようにくるくる回転して勢いを殺すと、危なげなく武闘台へと着地した。


「アシュラはなぜ強い相手と戦うことを求めるの?」

「うん? 暁までそんなことを聞くの? それは、ボクにとっては戦いこそが対話だからさ。それ以外の言葉はボクには響かない。胸の内が震えるのは戦いの中でだけ。長い時を生きる中で生まれた虚無を唯一拭ってくれる」

「わたしと生きた日々はあなたには無意味だということだね。一緒に暮らした日々、笑い合った日々は空虚で、あなたの心の隙間を欠片も埋めることは無い」


 アシュラは暁の言葉に初めて戸惑ったような表情を浮かべた。


「どうしたの? 暁。君がそんなことを言うなんて……まるで、小さな子どものようだ」

「わたしはずっと子どもだった。あなたに必要とされたくて強くなっていった。けれど、成長して、今は子どもではない。あなたを愛している」

「ええ!?」


 暁はとても美しく笑う。全ての苦悩を払い落としたように清々した表情で。


「だから、わたしがあなたの虚無を拭ってあげる。たとえ、殺すことになっても。わたしは強くなったから」


 そう言って目にも止まらぬ速さでアシュラに近付くと、斧を振るう。アシュラは斬撃を巧みに避けながらも、僅かに服や頬が切り裂かれていく。


「ハハハ……本当に強い魔力だ。君たちはこれだから面白い。わずかな時を生きる泡のような存在なのに、強烈な煌めきをボクに魅せてくれる」

「アシュラ」


 どんどん速くなる暁の動きに、アシュラは追い詰められていっているように見えた。魔力のこもった斧の風圧で石をもきり裂いた。一般人には舞うように見える暁の動きは、目に留まらないほどの数多の斬撃を加えていた。


「けれど、ボクには届かない」


 ふと、冷たく温度が下がったような静かな声が響く。アシュラは左の指先で斧の刃を摘んでいた。


「ああ……残念だよ、暁。君には期待して手ずから育てたというのに……」


 斧の刃先にパキパキと小さな亀裂が入っていく。込められた膨大な魔力により、悲鳴を上げているような高音を立てる。

 

──バキンッ


 と、硬質な音が響き、斧が完全に砕け落ちた。暁は、斧の柄を離すと、素手で殴りかかった。


「ああ……所詮こんなものか……暁、君も届かなかったね」


 アシュラは悲しそうな声を出しているものの、その瞳はもう暁を見ておらず何も関心がないようにみえた。


──パキンッ


 軽い薪が爆ぜるような音が聞こえた。アシュラに掴まれた暁の腕が折れた。


 


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