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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第三章 空虚を埋めるもの

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21 虚無を拭うもの


「ふっざけんなぁ!! 何を考えてやがる!! お前は決勝戦しか出ねぇはずだろ!?」


 レフが吠えかかるように怒鳴る。カラクが初戦を始めようと、いくつもある闘技台の内の指定された真ん中の一つに上がろうとしたところ、なぜかアシュラが立っていてぴらぴらと指を振ったのだった。


「だって、カラクを一目見たら、昨日よりとても強くなってるんだもん。誰よりも早く味わいたいと思っちゃうよね。それに、ボクと当たる可能性のある対戦者には不戦敗でも賞金を用意したから、皆、快く許してくれたよ」


 この武闘大会では、一勝するごとにかなりの額の賞金がでると聞く。一勝しなくても貰えるならば、喜ぶ対戦者も多いのだろう。それに、そもそもこの地でアシュラに逆らう者などいないに違いない。


「大丈夫。カラクもボクに勝てなくても、約束の魔石に魔力は込めてあげるよ。だから、頑張って死なないでね」


 そう言って笑うアシュラの顔は、とても晴れやかで逆にカラクは恐ろしさを感じた。


「うう……心の準備が」

「もう、可愛いなぁ。じゃあ、邪魔が入らない内にいくよ!」


 アシュラはそう言って、素早く駆け寄り飛び上がって足を振り下ろした。ととっと避けたカラクは、粉々に割れる足元の石に目を白黒させる。


「さあ、強くなったなら力を見せて。すぐに死んでしまうよ」

「なんで、アシュラはそんなに強い人と闘いたいの?」

「うん?」


 くいくいと指を立てて己の方へ招くように振るアシュラに、動揺を抑える時間稼ぎのために、カラクは問い掛ける。


「うーん。たしかに、なんでだろうね」


 アシュラは腕を組んで、こてんと首を傾げた。


「カラク。いや、魔王カラとは、四天王の誰よりも昔からの知り合いなんだ。ボクは魔族では最古にして最強。カラを除いてね」

「そうだったっけ?」

「ふふ……。やっぱり君はカラであってカラでないよね。このボクの心の内をカラならば分かっていたと思うよ」


 そう言って、手のひらから飛ばしたのは、長い縄のようなものである。カラクは絡みつこうと迫ってくるそれから、飛び上がって避ける。


(これは触手!? ねばねばして気持ち悪い!!)


 カラクは、昨夜思い出した魔術書を思い出し、心に絵を描く。


(強い魔術を! いや、強い仲間を思い浮かべよう!!)


 とっさにカラクは力を込めて手を突き出す。ポンっと目の前に黄金色の獅子が二匹現れて、カラクに絡みつこうとした触手を食いちぎっていく。


「カラク!! さすがだぜ!!」


 嬉しそうなレフの歓声が聞こえてくる。アシュラは嫌そうに顔を顰めた。


「うーん、その造形はちょっと……。そこの脳筋はしぶとくてしつこいから苦手なんだよね」

「なんだと!? こらぁっ!!」


 レフの怒声を聞きながらカラクは魔力で出来た二匹の頭の上に手をやり撫でる。二匹は撫でられて嬉しそうに尻尾を振ってから、アシュラへ向かって駆け出した。アシュラが魔力を込めた手刀で、獅子たちを刺し貫こうとすると、ふわりと空を駆けながら躱す。


 そして、目にも止まらぬ速さで、アシュラの喉元に食らいつこうとした。その時、彼の身体がまばゆい光をまとい、ばちばちとあたり一帯が雷光で瞬いた。その雷光に貫かれ、獅子たちが消え失せる。


「うわぁ~っ」


 雷が足元におちて、カラクはその衝撃に闘技台から飛ばされた。外の地面に落ちようとした時、にゅるりと足首に何かが巻き付いた。


「ひゃっ!!」


 そして、闘技台の中心へと放り投げられた。闘技台の外に落ちてカラクが失格となることを、対戦相手のアシュラ自身が防いだようだった。


「ダメだよ。こんなところで、失格なんてつまらないじゃないか。まだまだ、遊んでくれなくちゃ」

「うう……」

「もう、止めろ!!」

「そうです!! 対戦相手が失格を妨害するなど、規則違反です!!」


 にこにこと笑ってカラクに近付いていくアシュラに、レフとイトラが反発し、台へと上がろうとする。武闘台の周りには、観客に被害が及ばないように結界が張っている。だが、人の出入りを阻害する効果はないようだ。


「待って!! まだ、止めないで!!」


 カラクは二人に声を上げていた。まだ、何かできそうな気がしていたのだった。そこにイトラの隣にいた饕餮が声を上げた。


「うむ、まだやれる。カラクは並大抵の者ではない。妾の命を助けたほどの者なのだからな」

「うーん、それは大きくなった時の話やん? まだ、白魔石はあるんやから、使ってしまえばええやん」


 見やすいように腕の中に抱え上げた饕餮の言葉に、山王は応じた。


「ふん! 浅はかな考えだ! そもそも、カラクはカラクだと言うておろう。表層しか見ることのない俗物が!」

「えー、そこまで言う?」


 アシュラは、片手を大きく上げて力を集めだした。カラクは先ほどと同じように、強くて頼もしい存在を思い浮かべる。ポンっと魔力でできた銀色に輝く龍が現れた。


「ああっ! カラク!!」


 歓声がイトラから上がった。アシュラが人の頭部ほどの大きさの銀色の魔力弾を、カラクに向かって飛ばした。魔力で出来た龍が、その魔力弾に巻き付いていくと、激しい閃光が起き、光が収まった後には双方とも消え失せていた。


「ふふふ……変わった魔法だねぇ。想像の力だ。いや、創造か。ねぇ、カラク。いや、カラ。君はなぜ、全てを捨てて逝ってしまったの? 君が全てを始めたのに。ボクの虚無を拭ってくれるのは君だけだと思っていたんだけどね……」


 そういうアシュラの瞳は紅く仄暗く輝いた。





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