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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第三章 空虚を埋めるもの

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20 武闘大会の前夜


 武闘大会は花火が打ち上げられ、爆竹が鳴らされ、派手で騒々しい始まりだった。


 カラクはワクワクと少しの緊張をしつつ、手をぎゅっと握りしめた。ふと、昨夜のことを思い出す。


 カラクたちには、一部屋ずつ城の客室をあてがわれていたのだが、昨晩、部屋にイトラが訪ねてきた。話をしたいということだったので、中に入ってもらう。


「良い月夜ですので、外で散歩でもしませんか?」

「うん。良いよー」


 その返事に、にっこりとイトラは笑って窓の外の庭に出て、小さめの龍に変わると、背に乗るように促した。カラクが跨ると、ぐんぐんと空へと昇っていく。


「うわぁ~、満月だぁー」


 暗く沈む海のような平原が眼下にある。目の前には月明かりでイトラの鱗がきらきらと光っている。宝石のようでカラクはそっと指で撫でた。


 しばらくすると暗い平原の一角に、月が落ちているように見える。しかし、イトラがそちらへ降りていくと違うことが分かった。


(湖面に映っているんだ。とても綺麗)


「カラク。武闘大会には出てほしくないのですが、私は貴方の意思を尊重します。だから、今のカラクに、最も効果的な魔力の使い方をお教えしたいと思ったのです」


 幻想的な湖に見とれるカラクに、人型に戻ったイトラは真剣な顔をして言う。


「今日はアシュラとの訓練で魔法を頭の中に思い描いて、出すことが出来たんだよ」


 カラクは同じように思い浮かべて、イトラの目の前に、ポンっと金色の小鳥を出すことが出来た。


「素晴らしい、カラク。さすが、我が主。……カラクに話がしたかったのは、その魔力のことです。……砂礫国という国で魔術が盛んだといいます。カラクの魔力はその魔術を使うのに適しているのではと……。お教えしたいのは、その使い方です。その魔術を使う者がある言葉をよく言っていました」


 ──魔術を使うときは、心に絵を描くんだ。時には、大胆に。時には美しく。時には荒々しく。


 その言葉を聞いた時、何かの扉を開いたように、何冊もの魔術書の知識が蘇った。カラクは試しに魔術を使う時に、心に絵を描くことを意識する。


 すると、湖面に映る満月がゆらゆらと揺らめく。そこから数多の黄金色の蝶が飛びたった。暗闇の中に魔力で創った蝶は月に戻っていくように夜空へ昇っていく。カラクは驚いて、イトラをじっと見つめた。


「どうして? どうして、そう思ったの?」

「……カラク。私は……、あなたを……」


 そう言って言葉に詰まったイトラの銀色の瞳が潤んで輝く。月が浮かぶ湖の前に、幻想的に浮かび上がる銀色の髪と瞳をしたイトラの姿に、カラクは強い既視感を覚えた。


「ねえ、前に会ったかな? イトラとこんな場所で」

「……。以前、貴方に、復活の術をかけた時、人間の死体を材料に使ったと話しました。私は魔王カラの残滓と人間の死体を混ぜ込んだのです。その人間とはよくこのような湖で会っていました」


(そういえば、味噌汁の具の話をしていたことがあった)


「その人とイトラは仲が良かったの?」

「その者はとても変わった者で、面白く可愛らしく気に入っておりました。ただ、愛玩動物を可愛がるようなもので、カラクを想うこの崇高な想いとは違います」


(それなら、なぜ、そんなに切ない眼をして話すのだろう)


「カラク!!」


 遠くから近付いてくるレフの声が聞こえる。どどどどっと地を蹴る力強い振動の音が響いてきた。


「イトラが俺を復活させたのは、その人にもう一度会いたかったから?」

「いえ……カラク。本来死者を生き返らせる復活の術は存在しない。私は……貴方を……ただ……」


 イトラが泣き出しそうに思えて、カラクはそっと手を繋いた。


「カラク!! 部屋にいなかったから、不穏な胸騒ぎがして追ってきたんだ! 大丈夫か?」


 そこへ、黄金獅子に変化したレフが走ってやってきて、カラクの前に立ち止まった。


「うん、大丈夫。イトラの助言でもっと強くなれたよ」

「うん? カラクはまた、この数日で少し大きくなれたんじゃないか? 言葉遣いもたどたどしくなくなってきたな」


 ふんふんと、鼻を近づけ、カラクの匂いを嗅ぐようにするレフの頭を、カラクはわしゃわしゃと撫でた。


「うん! ひょっとすると、明日は優勝するかも?」

「おお!! その意気だぜ! だが、俺が危険だと思ったら、乱入して止めさせてもらうぜ」

「大丈夫だよ?」

「カラクはアシュラのヤバさをわかっていない。あいつは、ただの戦闘狂じゃねぇ。イカれてるんだ」


 カラクもたしかにアシュラの底知れぬ恐さは感じていた。


「でも、アシュラはいつも決勝戦まで出てこないというし、それまで何勝かすれば、魔石に魔力を込めてもらえるよ」

「……ああ、そうだな。けど、俺は絶対にお前を傷つけさせないからな!」


 そういうと、身をかがめたレフはすくい上げるように、己の背にカラクを乗せると、そのまま走り出した。


「むっ! この脳筋獅子め! 私の背に乗せてお帰りになって頂くものを!!」

「アハハ!!」


 イトラが怒って、龍に変化すると追い掛けてくる。レフは楽しそうに笑い声をあげる。


「ふふふ、楽しいなぁ! 大丈夫!! 明日もきっと上手くいくよ!」


 夜の海のような暗い草原を黄金獅子が駆け抜ける。空には星々が瞬き、銀の龍が月光を浴びてきらきらと煌めきながら、ついてくる。


(大丈夫。俺には皆もいて、新しい力も使えるようになった。明日も楽しみだぁ)



 そう思っていたカラクは、目の前の光景に愕然がくぜんとする。


「決勝戦まで待てないから、今年は初戦から参加することにしたよ。カラク。よろしくねー」


 銀髪に紅い瞳の美しい男、アシュラがピラピラと対戦者として指を振った。


 



 

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