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弱くてキツイニューゲーム  作者: 竜崎 龍郎
第二章 異世界人との遭遇編
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第二十四話 遠くない未来


「どうして… こうなった? どうしてこうなった……?」


彼はおもむろにそう呟く。呟くことしか出来なかった。それもそのはず、彼の周りには︎︎大量のゴブリンの死体と共に"︎︎仲間だった︎︎"︎物がそこら中に散らばっているからだ。メンタルの弱いあの子、体のでかい酒臭いおっさん…… 見知った仲の物がその場所には居た。中には原形を留めていない物も少なからずある。その姿を見て彼は地面強く叩く。何度も、何度も、何度もだ。そして、呟く。


「ゴブリンが俺たちの作戦の裏をかくなんて…… 強化種はそ、そんなに強かった… のか… なんで俺は、、もっとはやく行動しなかったんだよ… 」


そう言いながら彼は涙を堪える。強化種によって、引き起こされた惨劇に彼は絶望した。そして、死体を見て彼は胃の中の物をぶちまけそうになる。認めたくなかったのだ。こんな現実を。自分のせいで起きた惨劇を。


そのため、彼はその散らばった物を見ないように上を向く。しかし、鼻に入ってくる鉄の匂いが否が応でも、彼を現実に引き戻す。その匂いは彼が幻影に入るのを邪魔するように深く強く彼を襲う。そんな状況で彼は再びそっと呟く。


「アリス…… レイチェル…… お前らは無事なのか…… 」


彼は彼女らのことを考えた。異世界に来て、自分のことを助けてくれた二人のことだ。その二人のことを考えると、彼は自然と歩き出していた。矢が刺さった右足をかばいながら精一杯歩き始めた。気づけば、自らの首筋に当てていた短剣は、手から零れ落ちていた。




彼が居た後ろの部隊ですらこの有様だ。アリス達がいる前線は更に酷い有様なのでは無いか?


彼はふとそんなことを考えた。涙が溢れそうになる。泣きたくてたまらなくなる。彼女達がもうこの世に居ない可能性を考えるだけで吐きそうになった。とてつもない吐き気が彼を襲ったのである。


もう彼をこの世に繋ぎ止めている物は彼女達だけだった。そんな2人が死んでいると考えるだけで絶望が身体中を這い回る。


だからこそ、彼はその考えをできるだけ考えないようにして歩き続けた。歩くことだけが彼にできる唯一の事だったからだ。


しばらく歩いた頃、簡素な建物のような所を横切った。その瞬間、建物の中がチラッと目に入る。彼は見たことを後悔した。心の底から後悔した。何故なら、ゴブリンの死体と共にそこには見るも無残な女性の死体があったからだ。


彼は一瞬最悪の想像をする。アリス……?


しかし、その死体には短く黒い髪が生えていた。それを見て彼は安心した。なぜなら、アリスは一度見れば忘れられないほど、綺麗な赤色の髪が生えていたからだ。


その死体の髪を見て、彼は心から安心してしまった。本当に無意識の内に安心していたのだ。


その瞬間、彼は嘔吐してしまった。気づけば無我夢中に吐いていた。止めたくても止められないほどの吐き気が彼を襲ったのだ。


彼は吐かずにはいられなかった。何故なら、死体を見て安心する自分が物凄く気持ち悪かったからだ。仲間の死体を見て安心するような自分が嫌だったのだ。自分を嫌悪するかのように吐き続けた。


それは彼の胃の中の物を全て吐き出すまで続いた。


数十秒後、彼は胃の物を全て吐き出し終える。しかし、胸の中にある気持ち悪さは全く払拭することが出来なかった。嫌悪感で視界がぼやける。立っているのもやっとだった。その上、目眩も止まらない。彼にはもう歩く力など残っていなかった。それでも、彼は亡霊のように歩みを進めた。彼女達の無事を祈って・・・・・


それからどれぐらい時間が経っただろう。数十分ぐらいだろうか。いや、数時間か。彼には時間が分からなかった。頭が思うように働かないのだ。それぐらい、ここで起きた惨劇は彼を狂わせていた。


ただ、それでも彼は普通に歩けば数分もかからないような道のりを、長い長い時間をかけて歩いていたことは理解出来た。その長い道中でも何十もの死体を見たが、彼はアリス達かどうかを一瞥した後は見て見ぬふりをした。


出来ることならその死体たちに墓を作ってあげたかった。埋葬をしてやりたかった。それでも、彼には出来なかった。出来なかったのだ。何故なら、彼はそれらを弔うほどの精神力はもう残ってなかったからだ。彼はそうやって死体達を見捨てて歩き続けた。


そうすると、目の前に大きな洞窟の入口が見えてきた。このゴブリンの街は洞窟に面した場所に位置している。ニコラス曰く、この洞窟内にゴブリン達の親玉がいるらしい。


「アリス達なら…… きっと、ゴブリンの親玉を倒しているに決まってる…… 大丈夫、大丈夫のはずだ」


彼はアリス達の︎︎"︎︎もしものこと︎︎"︎︎を考えると足がすくんで動けなかった。震えで動かないのだ。身体中が動くのを拒んでいた。身体中がアリス達の生死を決めることを躊躇っていた。それでも、勇気を出して洞窟の中に入る。


入ってみると、とんでもない悪臭が鼻を襲う。血の他に様々な物が混ざったような匂いだった。吐きそうになる。先程吐いたばかりなのにまた吐きそうになるぐらいの悪臭だ。気持ち悪くて仕方なかった。それでも、彼が勇気を出して前に進もうとした瞬間、その洞窟の壁が目に入る。


その瞬間、彼は言葉にならない何かを叫びながら、気づけば走っていた。走っている最中に何度もわかれ道があったが、そんな事を気にすることなく走って、走って、走りまくった。自分の足に矢が刺さっていることなど気にならない。それくらい、いち早くあの場から離れたかったのだ。


どれぐらい走っただろうか。流石の彼も息が上がり、足を止める。後ろを見てみると、もう彼の目からでは洞窟の入口など見えない。途中、何体ものゴブリンの死体と共に多くの人間の死体が目に入ったが、幸いと言うべきかアリス達と思える死体は無かった。そのことに再び安心したが、今度は吐くことは無かった。


すると、彼の前方から何か音が聞こえた。バァン、バァンと何か金属のような物がぶつかる音である。彼は急いで足を進め、前方の岩陰のような場所に隠れて見てみる。


彼が目を凝らして見てみると、そこにいたのは激しく燃える炎のような髪をした女の子であった。


そう、アリスであった。


アリスの腕には矢が刺さっているが幸いなことに彼女は元気に立っていた。決して無事とは言えなかったが、彼女は生きていたのだ。


その少女を見ると、彼は胸の奥にある気持ちが溢れそうになった。安心、喜び、歓喜、悲しみ、吐き気など沢山の気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合う。彼はその気持ちを吐き出そうといち早く彼女の下に走り出そうとした。


しかし、彼には出来なかった。今すぐにも彼女のもとへ走って行きたかったが、彼にはそれが出来なかったのだ。なぜなら、アリスは戦っていたからだ。あの大きな緑色の魔物と。


その魔物はゴブリンともオークとも言えない不可思議な存在であった。生物かどうかも分からない奇妙な見た目。だが、これだけは分かった。あの魔物はやばいと。


「なんだ?なんだ? あの魔物!? 絶対やばいやばい・・・ 」


彼の動物的本能がそれを知らせていた。感じたことがない恐怖に自然と身震いする。ドラゴンモドキなどとは比較にならない恐怖が彼を襲う。そのせいで彼は震えることしか出来ない。動きたくても動けないぐらい震えていたのだ。蛇に睨まれた蛙などと言う表現が優しすぎる程に、彼は震え続けていた。


ただ、彼が震えている間もアリスは戦っていた。彼女より何倍も何倍も大きな魔物と戦っていたのだ。彼女だって彼と同じ人間なのに恐れず立ち向かっている。近くには何体もの︎︎"︎︎︎︎仲間だった物"︎︎があるのに、彼女は絶望した様子を見せず戦っていたのだ。


その事実に彼は自分が情けなくて仕方なかった。岩陰で隠れていることしか出来ない自分を恨んだ。それでも、彼は見ていることしか出来ない。動くという選択肢が取れなかったのだ。そして、その魔物から目が離せなかった。


その魔物の顔はゴブリンと何かが混ざったような顔。とても知能が低そうであり、口からはヨダレが垂れている。そして、何より匂いがキツかった。洞窟に入った時に感じた匂いの正体はこいつだと一発でわかった。恐らく常人が嗅いだら失神するほどの悪臭である。その上、その魔物は人間の言葉とも取れる声で


「メシォぃジゾう。ア氏ネらェば、ラアくラアク

苦ェル 田ベル」


と唸っている。しかも、それを何度も、何度も、何度も繰り返しているのだ。それは壊れたラジオのように不安を煽る物だった。その姿は賢也が戦ったゴブリン達よりも知能が感じられなかった。


そんな知能の欠片のない存在なのだが、その魔物は斧のような歪な武器を器用に振り回していた。勿論、アリスを狙ってだ。しかも、動物的な適当な狙い方ではなく、明らかに知能があるような戦略的且つ巧妙な狙い方で攻撃を降っていた。それはまるで狩人が狐を追い詰めるような感じだ。


狙われているアリスもその攻撃の巧みさに避けるのが精一杯の様子であった。反撃できる隙など全く与えてくれない。その上、その斧に当たった洞窟の壁や天井には大きなヒビが出来ている。そのヒビの付き方はあの攻撃に当たる=死と言うことを肌で感じさせるには十分の物だった。


ただ、アリスもみすみす死んでやる気はないようで、斧を避けながらも、攻撃出来るタイミングを必死に探しているようであった。それはさながらイタチに立ち向かう鼠のように果敢に狙っている。


その一部始終を見て、彼は更に恐怖で震えていた。岩陰でぶるぶると震えていたのだ。彼の精神は崩壊寸前であった。命が散る瞬間、ゴブリンを殺した感触、生で感じる死、もう戻らない日常、これらのような今まで感じたことがない感覚が彼を蝕んだ。何より目の前にいる怪物に彼は恐怖していた。ここから動くという選択肢が取れないぐらい恐怖していたのだ。


それでも、彼がギリギリ精神を保つ理由があった。それはアリスの存在である。彼は彼女だけでも助かって欲しかった。あの時、自分を助けてくれた彼女だけでも助けたかったのだ。


そう考えている間もアリスは必死に攻撃を避けている。何分も避けているせいなのかわからないが、彼女は少しふらつき始めていた。限界が近いことが見てとるように分かる。


その様子を見て、彼はこの腐った絶望の中で思い出した。それは走馬灯のような一瞬の煌めきだったのかもしれない。それでも、彼は思い出したのだ。彼女の優しさ、認められる喜び、クッキー、失う悲しみのような絶望に対抗する物が彼の頭を駆け巡ったのだ。そのことに気がついた彼は、自然と岩陰から出ていた。彼は覚悟を決めたのだ。もう彼を止める物はない。


しかし、岩陰を出た瞬間、金色の髪をした女の子の死体がチラッと目に入ったような気がした。その死体からは普段のやかましさなどは一切感じられず、静かにそこに倒れている。その事で一瞬涙が溢れそうになる。それでも、彼は目の前のアリスのことだけを考え、見て見ぬふりをする。きっと彼女なら同じ行動を取っただろうし、これが彼女にしてあげられる唯一の弔いだと考えたからだ。


そして、 彼は手をその魔物の方に向けた。最大限の憎しみを込めている。どんな感情よりも強い物であった。その上で彼は魔法を出すイメージをする。あの時使ったアリスの幻影を出す感じでだ。


彼は一瞬でもあの魔物の気をそらせれば、彼女が倒してくれると信じていた。正直言えば、彼は今すぐにもあの魔物目掛けて飛び出して、魔物を切り刻んでやりたかった。レイチェルが味わった苦しみを与えてやりたかった。ただ、彼の弱い力ではそんなことは出来ない。そのため、彼は幻影を出して、一瞬あの魔物の動きを止め、アリスが倒してくれるのを信じる他、出来ることは無かったのだ。そのことが彼は何よりも情けなかった。自分の力の無さを恨んだ。神を呪った。それでも、彼は手をかざして幻影魔法を出す。例え情けなくとも、彼女が生き残ってくれれば十分であったからだ。






その数秒後、彼は体の穴という穴から血を出して死んだ。




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