第二十三話 六代系統
その部屋は賢也がゴブリン討伐に参加出来たことへの祝福で溢れていた。皆、賢也に期待しているようだった。賢也はそれがたまらなく嬉しかったのだ。
すると、その部屋のドアが開けられレイチェルが入って来た。その開け方は乱暴と表現するのが相応しい開け方である。
「クソ〜 あのジジイ、めちゃくちゃ逃げ足早い!! 私が追いかけた時には影も形も無かった」
と文句を言いながら蕎麦を︎︎"︎︎口で︎︎"︎︎食べていた。箸は使えないからなのか、フォークを使って器用に食べている。ただ、そんなレイチェルを誰も気にすることなく、冒険者達は賢也の胴上げを続けていた。
その事にレイチェルは一瞬ムカッとしたが、ここは素直に何故ここまで皆が喜んでいるのか、アリスに尋ねてみた。そうすると、アリスはレイチェルが出ていった後のことを簡単に説明をした。
「じゃあ、賢也くんは一緒にゴブリン討伐に行けるってこと? 」
一部始終を聞いたレイチェルはアリスに首を傾げて聞く。そうすると、
「うん、そうだよ」
とアリスは少し喜びながら肯定した。心から嬉しそうである。その姿にレイチェルは心を奪われながらも、賢也が参加出来たことを喜んだ。そして、嬉しそうに
「ふふん、賢也くんは私が見こんだ男なんだから、当たり前ね」
と笑っていた。その後、レイチェルが賢也の胴上げにすぐさま参加したのは言うまでもない。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
しばらくして、賢也の胴上げもお開きになった頃、ニコラスがアリスに伝えたいことがあると言って、部屋の外に出て行った。レイチェルもさも着いていくのが当たり前のように、着いて行こうとしていたが、余程大事な話なのかニコラスに止められていた。少しレイチェルも嫌そうな顔をしていたが、ニコラスの真剣な顔に圧倒され、今も部屋の隅でしょげている。
賢也はニコラスがアリスと二人っきりになるのを見て、謎の胸のドキマギを感じていた。何とも言葉で表すのは難しい初めての感情である。
そんなことを考えていると、一人の女冒険者が賢也に話しかけてきた。
「ケンヤは幻影魔法を使えるんだよね 」
賢也は魔法の話の匂いを感じ、間髪入れず肯定する。
「はい、そうです!! 」
余りの反応良さに女冒険者は驚きながらも、
「てっ、てっことは賢也の魔法適性は特質系統が高いのかな? 」
と首を傾げながら言っていた。その女冒険者はさっきアリスに向かって、泣きながら謝っていた冒険者である。ただ、そんなことより賢也の気になるワードが飛び込んできたのだ。
「特質系統? 」
賢也は首を傾げた。首を傾げながらも嬉しさに身を委ねた。
なぜなら、賢也の大好きな魔法について聞けるチャンスが遂に来たからである。異世界に来てからというもの、魔法についての知識を得ようとしても、ドラゴンモドキに追われたり、ジジイが吹っ飛ばされたりして、聞いている余裕は全く無かった。そのため、このようなチャンスを心待ちにしていたのだ。そして、"︎︎︎︎ ︎︎特質 ︎"︎という言葉に胸を踊らせていた。
「あぁ、そっか。ケンヤはこっちに来たばかりだから、知らないよね。特質系統って言うのはね… 」
女冒険者が優しく教えようとした所、他の冒険者達も集まって来た。そうして、
「アメリアにもついに後輩ができるのかぁ」
「あのビビりなアメリアがなぁ」
と父親面をしながら感心していた。そんな冒険者達に
「うるさいなぁ!! 私はただ説明したいだけだから!! 」
と顔を少し赤くしながら言った。それを見て冒険者達は反抗期を経験する親のような顔をしている。賢也はそんな関係を少し羨ましく見ていた。
「ごほん、気を取り直して、説明するね。特質系統って言うのはね…… 」
そんなアメリアが気持ちよく説明しようとした瞬間、レイチェルが突然横から現れ、
「ふふん。私が教えてあげるわ。特質系統って言うのは六代系統の中の一つなの。簡単に言うと他5つに当てはまらないその他の系統ってこと」
とアメリアが話している所に被せて言ってきた。レイチェルはしてやったりとニヤニヤ笑っている。アメリアは自分が先輩風を吹かせようとした所を邪魔されたため、少し涙目であった。彼女はどうやらメンタルが弱い冒険者のようだった。
その行動に流石の冒険者達もレイチェルのことを少し怒った顔で見ていた。そして、アメリアのことを慰めている。ただ、レイチェルにはそんな感情が届いている様子は全く無い。
流石の賢也でもそれを見てアメリアが可哀想と思いながらも、アメリアが続きを話せる状態にはとても見えなかったため、賢也は仕方なく、本当に仕方なくレイチェルに六代系統について聞いた。決して、魔法への知識欲を優先した訳では無いと、自分に言い聞かせていた。
「六代系統って一体なんなんだ? 」
レイチェルはその質問を待ってましたとばかりに、かけてもないメガネをクイッとあげる。
「六代系統って言うのはね。魔法を支援、強化、精霊、自然、生活、特質、計6個の大雑把な括りで分けたもののことだよ。皆が使う、全ての魔法はこの6個のどれかに必ず入るわ」
次々に語られる魔法の情報に賢也は胸を踊らせながらも、聞き逃さないように続きを耳をすまして聞いていた。もうアメリアのことなど眼中に無い。賢也は最近人のために動くことが多く忘れられがちだが、レイチェルと同様に根っからの屑であった。そのため、アメリアより魔法を優先するのも殆ど抵抗がないのである。
そんな賢也の魔法への関心を汲み取ったのか、レイチェルは詳しく説明を始めた。
「で、一つずつ説明していくとね。まず、わかりやすい自然系統! これは字面でも分かる通り、火や水、土などの自然に関する魔法なの。火を吹いたり、水を操ったり、土で要塞を作ったり出来るよ。悔しいけど雑に強いわ。この部屋ではあそこの方で泣いてるアホ冒険者が使う土魔法が当てはまったと思う」
とさっきレイチェルに泣かされたアメリアの方を指さしながら笑顔で言った。まるで泣いている所を晒すように指を指している。晒し上げられたアメリアは、恥ずかしさのあまり思わず部屋の外に出てしまった。それを見たレイチェルが少しニヤッとしたのを賢也は見逃さなかった。
そして、アメリアを再び気の毒に思いながらも、なにかする訳でもなくそのままレイチェルの話を聞き続ける。
「二つ目はね。そうだね…… 精霊系統だね! これは精霊さんにお願いして火や水を出す魔法だね。言っちゃえば自然系統の劣化版みたいな感じかな? 正直、精霊さんにお願いするというめんどくさい工程があるのに、自然魔法より弱いって可哀想な系統なんだよねぇ〜。まぁ、でも魔物とか使役できればそれなりに強いんだけどね」
と少しバカにしながらレイチェルは言っていた。その言葉に何人かがレイチェルに向かって物凄い形相で睨んでいる。特にいつもお調子者である冒険者はいつもの態度とは全く違う怒りの表情を浮かべていた。睨みすぎて目玉が飛び出そうなぐらいだ。その事を察した賢也は慌ててフォローをする。
「使役すれば強いんだろ…… 劣化版とは言えないんじゃないかなぁ……? 」
そんなフォローを気にすることなく、レイチェルは
「使役出来る人がめっちゃ少ないんだよ。この部屋で使役出来てる人なんて一人もいないよ。そんくらい貴重なの。まぁ、この部屋の冒険者達が弱いだけかもしれないけどね」
と煽るように言っていた。より一層強い眼差しを感じ、賢也はこいつのフォローは一生したくないと思う。特に、お調子者の眼差しが痛かった。それでも、賢也は魔法のことが知りたいので、異世界に来る前に覚えた必殺技、”話題逸らし”を使った。この技は賢也を何度も救った偉大な技だ。
「お、おう。支援系統についても知りたいなぁ……」
それを聞いたレイチェルは先程までの煽りを辞め、突然饒舌になった。
「おーーー、賢也くん、支援系統に目をつけるとは中々お目が高いねぇ〜!! 支援系統は何を隠そう、この私、レイチェル・マリオン・ハート様の治癒魔法、この魔法も支援系統なの。びっくりした?びっくりしたでしょ? 支援系統はね。他者にプラスの効果を与える系統のことなの。まるで私みたいでしょ? 私も初めて治癒魔法を使った時、この魔法は私そっくりだなぁと思ったの・・・・・ 」
と長々と語っていた。これを言った後も数分の間、いかに支援系統が凄いのか自分一人で語り続けていたのだ。流石の賢也も無駄話が多すぎて怒りそうになったが、抑えてレイチェルの話をまとめる。
「つまり、支援系統は使い手が少ない希少な魔法が集まる系統だから、使い手になるだけで大金持ち確定ってことなんだね。理解した」
「そうそう、いい理解力だね」
と親指を立てながら言っていた。こいつ、ウザイなぁと思いながらも
「強化系統や生活系統とかはどうなんだ?」
と聞く。その質問にレイチェルは露骨に嫌そうに
「えっー、まだまだ、支援系統について語りたいこと沢山あるんだけどなぁ」
と口をすぼめて言っていた。その口に梅干しでも投げてやろうかと賢也は怒りそうになったが、深呼吸してレイチェルを適当におだててみる。
「確かにそれも聞きたいんだけど、聡明なレイチェルの頭に入っている別の知識も教えてホシイカナ」
「えー、賢也くん急に褒めちゃって。何何? 口説いてるの? 」
とレイチェルはだる絡みしてきた。それをうざいと思いつつ、適当に受け流したら、レイチェルはようやく話を再開してくれた。
「四つ目はね。強化系統だね。この魔法はね、自分にプラスの効果を与える魔法が集まる系統だね。強化系統は冒険者になるなら必須級の系統だよ。魔物の攻撃を避けたり、鍛えた身体をさらに強くして戦ったりできるの。だから、これができないと冒険者は少し難しいかも? 多分、ここにいる冒険者は全員使えるんじゃない?」
強化系統…… 色々な異世界小説でも必須級であるように、この世界でもかなりメジャーな魔法であることに少し驚いた。
他の冒険者もレイチェルの話にうんうんと頷いている。
そして、レイチェルはそのままの勢いで話続けた。
「五つめは生活系統ね。これは…… 説明が難しいなぁ。なんて言うのが正解なのかな? 生活が便利になる魔法と言うのが正解なのかな? 特質系統の劣化とは言わないけど…… うーん、特質系統とか他の五代系統と比べると覚えるコストがないけど、その分威力や効果はとても低い系統かな。うーん、適性さえあれば、大抵使える例外的な魔法が集まる系統? うーん、表すのが難しいけど、兎に角、大抵の人に適正があるから、誰でも使える魔法がここに分類されると思えばいいよ」
とレイチェルに珍しく、自信が無さそうに言っていた。その説明に若干の不安を覚えつつ続きを聞き続ける。
「例を上げるとね。村を出る際にニコラスさんが使ってた結界魔法もここに分類されると思う。
まぁ、ここで難しいのが特質魔法にも結界魔法に近い存在があるって事だね」
賢也は新しい情報が次々に出て来て少し混乱していた。それを見かねた大柄な冒険者が大きく笑いながら話し出す。
「生活系統は生活が便利になる魔法って覚えておけば十分だぞ。第一なぁ、生活系統と特質系統の区別はその魔法を見比べれば一発で分かるからな!! なんせ威力が全く違うからなぁ!! だから、そんな気を張らなくていいぞ」
とガハハと笑いながら賢也の背中を叩きながら言った。かなり強めに叩かれて少し賢也はイラッとする。よく言えばフレンドリーではあるものの、悪く言えば馴れ馴れしい親父。それでいて、近くにいるだけで臭う、酒の臭いが彼を覆っていた。
そんな親父は賢也の嫌う人種No.1であったが、そのウザさとは裏腹に説明は分かりやすかったため、嫌いになりきることは出来なかった。
そんな様子を見たレイチェルは少し顔を膨らませ見るからに期限を悪くしていたが、賢也は全くそれに気がつかない。そのため、レイチェルは賢也の気を引くように大きな声で話す。
「賢也くんのお待ちかねの特質系統の説明をしまーす!!! 」
その言葉を聞いた瞬間、賢也はマタタビを出された猫のように、クリスマス前の子供のように、レイチェルの話を聞きに行った。その様子を見たレイチェルはよしよしと満足そうに話し出す。
「賢也くんの適正が高い系統である特質系統だね。えーっと、この系統はね…… 一言で言うとこれまで説明してきた五種類の系統に当てはまらない、その他の魔法のことを言うよ。だから、種類がめちゃくちゃ多いよ。例えば、時を止める魔法や魔物に変身する魔法、アリスのマナの奪取、賢也くんの幻影魔法も全部同じ分類に当てはまっちゃうんだ。すーごくいい加減だよね」
と説明した。その説明を聞いた賢也は目を丸くする。そして、密かに疑問に思っていたことをレイチェルに尋ねる。
「というーことは・・・・
俺に特質魔法の適性があるってことはアリスみたいなマナの奪取や時を止める魔法を使うことができるのか? 」
賢也はワクワクしていた。自分が英雄の上位互換の魔法だけでなく、それ以上に強い魔法を複数個使えるかもしれないことに胸を高鳴らせた。周りに聞こえるのではと思うほどの高鳴り。賢也はその事を少し恥ずかしく思うが、レイチェルの回答を今か今かと待ち続けた。
しかし、レイチェルは
「やっぱり、普通はそう考えるよねぇ・・・
でも、残念ながら違うんだよ。いくら特質系統の適性が高いからといって、特質系統の全てを覚えて使うことは出来ないよ。それどころか、特質系統の魔法を2つ以上覚えるのも難しいんじゃないかな? 」
その答えに賢也は落胆した。期待が大きかった分、裏切られた時の落胆具合は凄まじい物となる。ただ、レイチェルはフォローするように
「そう、でも、それは特質系統だけじゃなくてね、全ての六代系統に言えることだよ。例えば、自然系統。
いくら自然系統の適性が高いからって、大抵の場合、火、水、草の三つ全てを操ることはできない。理由は色々あるらしいけど、今回の例みたいな六代系統の種類が同じでも、性質が全然異なる物を覚えるのはかなり難しいみたい」
と言った。そして、少し心配そうな顔をしながらレイチェルは賢也は見る。
肝心の賢也はレイチェルの言葉を聞き、先程の落胆が嘘のように元気になった。
まぁ、あれだな。ポ〇モンで例えるとノーマルタイプだからって、ノーマルタイプの技を全て使えるとは限らないってことだな。まぁ、だけど、裏を返せば、六代魔法が同じ種類且つ系統が近ければ覚えられるってことだよな。俺かしこー!
賢也は自分自身を納得させるようにそう心の中で思った。そこには先程までの落ち込んでいた賢也の姿は無かった。あるのはいつものナルシストの賢也だけであった。
流石の彼も異世界で多少揉まれたことで、ガラスのハートだった心も、少しは強くなっていたようである。
なにより、賢也の魔法が英雄の上位互換の魔法である事実が彼の誇りをこれまで以上に強固にしたのであった。
それ程までに賢也にとって︎︎"︎︎︎︎選ばれし者"︎︎という概念は大きかったのだ。
そんなことを考えていると、大柄な冒険者が
「ガハハ、なんだか学校の授業みたいだなぁ!! まぁ、俺は中退したんだがな。ガハハ」
とひとりで笑っていた。酔っているように見えるほどの大笑いだ。そんな酔っ払いを気にする素振りを一切見せずに、レイチェルはごほんと咳払いをして続ける。
「で、話を戻すと、特質系統は他の五代系統よりも圧倒的に種類が多いの!他の五代魔法の種類が何千個としたら、特質魔法の種類は何万、何十万、ひょっとしたら何百万になるかも!!それだけ種類が多いんだよ。だから、同性質の特質魔法を使う人と出会うことはほとんどないと考えた方がいいよ」
レイチェルはかなり強調をして話していた。その事を聞いた賢也は正直、心の中でタップダンスを踊る。何故なら、幻影魔法は自分だけの魔法、自分しか使えない魔法と言っても、差し支えない物であったからだ。
これは一言で言えば、賢也の大好きな︎︎"︎︎︎︎選ばれし者"︎︎であることを暗に示す物だった。そういうことならば、自分大好き賢也君が浮かれない訳がない。
彼は目立たない程度にニヤニヤしていた。バレないようにひっそりと笑顔を浮かべていた。彼の心のカーニバルを表に出さないようにひっそりと。
気持ち悪い男である。
そんな浮かれている賢也を見て、大柄な冒険者も
「特質系統って最高じゃないか。自分だけの魔法って感じがしてなぁ。羨ましいぜ!」
と凄く羨ましそうに言った。その言葉に賢也は思わず口角が上がる。久方忘れていた賛美。気分が良くなる。
ただ、レイチェルはそんな賢也に一つ教えてあげた。
「確かに特質系統は他の人と被らないと言う最高のメリットがあるのだけど、それは同時にデメリットでもあるの」
賢也はそれを聞いて首を傾げる。独自性がなぜデメリットになるのか、分からなかったからだ。
相手に知られない。これが戦闘や商売をする上でどう考えても、最高の武器になることは間違いなかった。それなのに、それはデメリットでもあると言う彼女の言葉が賢也には理解できなかった。そんな賢也を見越してか、レイチェルは分かりやすく説明を続ける。
「特質系統は使い手によって魔法の種類が異なる魔法──── それは確かに独自性という面では優れているわ。でも、それと同時にその魔法のことを誰も知らないの!! つまり、その魔法を伸ばすための訓練やその魔法の覚え方を誰かに教わるということが出来ないのよ。それって、魔法を育てるって観点からしたら最悪でしょ?」
賢也はその説明を聞いて確かにと納得した。教わる…… この行為が勉強、運動、芸術なんだろうが、大切なことはいくら天才的な才能を持って生まれた賢也でも理解することは容易だ。そして、納得している賢也に更に教えるようにレイチェルが口を開く。
「他の五代系統なら同性質の魔法を使う人と出会うことが多々あるけど、特質系統だとそうもいかないから・・・・・
指導者がいないために、その才能を伸ばせずに死んでいった者を何人も見たわ」
とレイチェルには珍しく真面目なトーンで話していた。それを見て、大柄な冒険者は何も言えない。触れたら不味い話題なのはその空気感から誰でも伝わった。賢也はレイチェルのトラウマのような物を感じ取ったが、追求する訳でも無く、
「まぁ、俺は大丈夫だぜ!! プランがあるからな! 」
と親指を立てながら言う。実際、彼にはプランがあった。それはあの大英雄ナナシであった。ナナシと賢也は同性質の魔法。つまり、ナナシの情報さえ集めれば、鍛える方法を手に入れられる。つまり、情報さえあれば賢也は何とかなると確信していたのだ。
それに加え、賢也は自分がどんな事でも才能があると確信していたのだ。それはつまり、魔法だって才能があると思っていた。
この前の魔力測定であんだけ才能がないことを見せつけられたのにだ。やはり、彼は異世界に対しては、かなりのポジティブシンキングを持っていた。
そんな賢也を見て、一瞬レイチェルはどこか切なそうな顔をしていた。何かを思い出すような顔。普段の彼女からは考えられないような表情だった。
そんな表情を時間にして1秒程度したが、気持ちを悟られないためか、すぐさまいつものレイチェルに戻り、
「ふふーん、賢也くんにはプランがあるんだ。流石、私が見込んだ男だよ。結婚しちゃう?」
といつもの軽口を叩いていた。そんないつもの調子に戻りながらも、彼女は賢也が︎︎"︎︎あの人︎︎"︎︎と同じにならないように願う。あの暗い過去のようなことが起きないように願った。
そんなレイチェルの気持ちもつゆ知らず、賢也はそれを軽く受け流しながらも、元のレイチェルに戻って良かったと少しだけ喜んだ。
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そんな会話をした後、ある冒険者は自分がどのような魔法は使うのか水晶玉を使いながら説明してくれた。
その冒険者も最初こそ後輩を可愛がる気持ちで教えたようだったが、賢也が余りにも目を輝かせながら聞いてくれるもんだから、魔法についてかなりの知識を教えてくれた。
勿論、その冒険者の魔法がどれだけ凄いのか、端的に言えば自慢話もされたが、賢也は嫌がらず、寧ろ嬉しそうにその話を聞く。
どうでもいい話もかなりあったが、賢也にとってはそれすらも最高に面白い。ラノベを直で体験するような日本では味わったことがない、ある種の高揚感を味わっていた。
そんなやり取りを横で見ていた他の冒険者達も聞いてもないのに、次々と自分達の魔法の凄さを説明していた。どうやら、彼らも自分達の魔法の凄さを自慢したいようだ。そんな自慢話でも賢也は一切聞き漏らさないように聞いていた。それだけ魔法という概念が彼の知識欲をくすぐったのだ。
そんな自慢大会のような物をしていると、ニコラスとアリスが部屋に戻って来た。アリスが部屋に戻るとすぐに、レイチェルはアリスに抱きつく。部屋に入って突然抱きつかれたため、アリスは避ける動作すら出来なかった。その後、レイチェルは何か、うだうだと言っていたが、賢也を含む冒険者達は一切聞く耳を持たない。ましてアリスに至っては少し眠り始める始末だった。
そんなレイチェルは置いておいて、賢也は一度自慢大会のような物をお開きにして、ニコラスに気になっていることを聞く。
「一体、アリスと二人っきりで何を話していたんですか? 」
賢也は別にアリスのことが気になって聞いてみたのではなく、純粋にその事が気になったから聞いただけであった。断じて、アリスのことが好きだからとか、気になっていたからでは無い。断じてそれは違ったのであった。
それを聞いたニコラスは何かを察したのか、アリスにウィンクした後、
「ちょっと、プライベートな話だよ」
と意地悪をするように言う。それを見た賢也は何故か胸がドギマギとする。理由は思いつかなかったが、胸が痛く、少しニコラスが妬ましく思った。感じたことがない変な感覚が襲う。そして、原因は分からないがイライラしていた賢也はニコラスに文句を言おうとする。難癖つけてやるとしたのだ。
しかし、その瞬間、ニコラスはそれを予見したのか、躱すように部屋中に響き渡る声で言った。
「冒険者のみんな、聞こえるか。これからゴブリン討伐の作戦会議を始める!! 」
それを聞いた冒険者達は
「やるぞおぉぉー」
と雄叫びを上げる。賢也の声など全てかき消されていた。賢也は少し納得がいっていない。自分の存在を無視されたような感覚に陥った。
それでも、ようやくゴブリン退治が出来ることへの喜びがその感覚をかき消した。
評価していただけると、作品作りの力になるのでよろしくお願いします!!




