第十八話 測定の意味
無理難題を出された賢也は、じっと机の方を見た。そこに置いてあるのは、水晶玉やしっぽなど測定に関係のありそうな物もあったが、それとは対照的に、鍋や包丁など全く関係のなさそうな物もそこには広がっていた。
賢也はよく考えてみる。今までの経験をフル活用して考えた。やはり、ラノベを読んでる賢也としては水晶玉が一番答えに近い物だと思った。数多くのラノベがステータスを測る際は水晶玉を使っていたのだ。
そのため、賢也は水晶玉のほうに向かった。賢也としては余りにも簡単すぎて口笛を軽快に吹いていた。しかし、よーく考えてみると、それだと簡単すぎてレイチェル達があんなにもニヤニヤしている理由にならないと思い始めていた。
あのレイチェルがこんな簡単な答えの問題を出すのか? 賢也の頭にその疑問が繰り返される。もう先程のような軽快な足取りはない。あるのはその疑問だけだった。そして、数秒その場に立ち尽くしていた賢也は急いで水晶玉を戻した。
賢也は結局これは答えでは無いという考えに行き着いた。
そんな姿を見て冒険者達は大笑いしている。下品に笑っている者もいた。それが無性に腹立たしい。それでも、必死に抑えて頭を働かせる。
次に考えたのはこのギターである。理由は冒険者達が笑っていることから考えた。冒険者達が笑うと言うことは、普通は関係ないと考え、最初に捨てるようなものが正解であり、それを知っているからこそ冒険者達は笑っているのだと思いつく。
今度こそ完璧だと確信し、これにしようとギターに手を伸ばした時、賢也はレイチェルの言っていることを思い出した。ひとつの物だけで測るとは限らない──
賢也は伸ばした手を急いで戻す。危ないところであった。なぜなら、そもそも答えが2つ以上の物を使う可能性があった上に、ギターが違う決定的な理由があったのである。その一番の理由はギターの大きさである。賢也達が魔力測定の受付をした際、受付の女性は魔力測定器を︎︎"︎︎机から︎︎"︎︎出そうとしていた。そう、つまり、測定器はあの受付の机に入る大きさなのである。なので、ギターの大きさ的にあの受付の机に絶対入らないから、絶対にギターは答えではなかったのだ。
さっきの受け付けのやり取りに救われたと賢也は思った。ただ、一連の賢也の行動を見て冒険者達がニヤニヤしているが賢也にとってウザかった。
そのウザさを見ないようにして再び思考した。それでは、包丁と紙はどうだろう。あまり関係無さそうに思えたが、これだったら冒険者たちがニヤニヤしているのも納得出来る。その上、受付の机にも入りそうだ。賢也の想像では腕を包丁で切って血を出す。そして、その血を机の上にある紙につける。そうすると、文字が浮かんでくるのではないかと考えた。これなら道具も二つ以上使っているし、想像出来る範囲だと思った。
それっぽいなと思う。我ながら天才とまで思っていた。そして、上機嫌なままその二つを賢也は手に取る。そうすると、レイチェルが
「それにするの?ほんとにー?」
と神経を逆撫でするような言い方で言う。賢也は頷こうとしたが、一歩とどまった。レイチェルたちがまだニヤニヤしていたからだ。その笑い方は正に不正解を選んだ人に向けてする笑い方であった。賢也は咄嗟に
「ちがう。やっぱり辞める」
と言った。
冒険者たちは
「おー、本当にやめちゃうのー? もしかしたらあってるかもよー 」
と煽るように言う。
「そうだぞー。それが正解かもよー」
と何度目かも分からないがうざく言うのだ。それはまるで賢也の邪魔をするようであった。
賢也は再び振り出しに戻った。それでも、賢也は頭を回転させる。見てわかるぐらい熟考していた。その姿を見て冒険者達がニヤニヤしている。
賢也はそれを無視して考える。しかし、どんなに答えを考えても、全く分からない。机に置いてある物達は考えれば考えるほど、どれも関係がありそうに見えるものだったし、関係してないと思うと関係していないように思えた。
賢也は混乱していた。もう運で決めようかなとも思っている。それぐらい難しかったのだ。
その姿をみて、
「まだですかー」
「頭悪いんですかー」
などの煽りが聞こえた。その声に怒りを感じながらも混乱した頭を働かせる。だが、全くといいほど分からなかったのだ。
そして、この問題本当に答えあるのかと、ふと思ってしまった。ふと思ったのだ。
すると、賢也の頭の電球に光が着く。一種の閃きである。そして、賢也は笑った。大笑いである。その姿に冒険者たちは
「とうとう頭がおかしくなちゃったのか? 」
と煽っていた。だが、賢也はそんな煽りを気にせず、
「いいや、違うね! 答えがわかったぜ!! 」
と賢也は自信満々に言ったのだ。そう、賢也は答えが簡単すぎて笑っていたのであった。
「えっ!? ほんと? なになに?言ってみて」
とレイチェルは興味津々に言った。冒険者達もざわざわしている。そんなレイチェル達の期待に答えるように
「答えはあって、答えはないんだ」
と賢也は訳の分からないことを言った。
「何言ってんの? 賢也くん? やっぱり、見た目通りばかだったんだ!! それでも、こんなにアホだったとは残念・・・・」
とレイチェルは煽るように言った。それを聞いた賢也は
「フハハックックックッヒヒヒヒヒケケケケケ、ノォホホノォホ、ヘラヘラヘラヘラ、アヘアヘアヘ」
と賢也は大笑いをし出した。気持ち悪い笑い声が部屋中に響き渡る。とても気味が悪い。
「何急に笑い出してるのよ? 怖いよ」
とレイチェルは賢也の急な大笑いに気味悪がっていた。他の冒険者たちも気味悪いと思ったが、それをレイチェルが言うのか・・・ とレイチェルに対して少し引いていた。
「あぁ、悪い。お前達の煽りもこの測定に必要なものだと考えるとその演技も可愛く思えてな」
賢也は不敵な笑みを浮かべて続ける。
「いや、測定と言うより教訓、試練と言う方がいいかな? 」
沈黙が広がる。賢也の言葉を聞いて、その部屋に居る全員が固まってしまった。先程まで煽っていた冒険者達が嘘のような静けさだ。その静けさは賢也の言ったことを肯定するようでもある。
そんな静けさを打ち破るようにレイチェルは
「ふーん、どうしてそう思ったの?」
と冷静さを保ちながら言う。賢也はその言葉を待ってましたとばかりに話し始める。
「そもそも、机の上に置いてある物全部考えようによっちゃあ、全部魔力が測れる物として考えることが出来るんだ」
賢也は机の物を指差して続ける。
「例えば、ギター。かなり強引だがギターを魔力を流して演奏することで音から魔力を判断することができると考えられる。水の入った桶だって魔力を流せば、魔力を測れると考えられる。水見式ってやつだ」
とギターや水の入った桶を持ったりして説明をした。そして、続けて
「そう、つまりここにある物は考えようによっては全部魔力測定器に使えるんだ」
その言葉に全員に激震が走る。その反応は答え合わせをしている様なものであった。それでも、賢也は止まらず話を続ける。
「そう考えるとレイチェルが測定前に言った、そうでもあるしそうでもないという発言が理解できるんだ。ギターを使って測ることも出来るけど、水の入った桶でも代用可能って意味だったんだ」
レイチェルがビクッとする。自分がヒントを与えていたとは思わず驚いた。そんなレイチェルに構わず、賢也は続けた。
「つまり、この問題はどんな答えでも答えになる問題だったんだ。問題として不成立って奴なんだ」
内心ドヤ顔であった。それでも、表にはそれを出さずカッコつけて言う。
「じゃあ、なぜこんな解答が無限に存在する不成立な問いを答えさせるか。その理由は・ ・ ・ 」
賢也がキメ顔をしながらその答えを言おうとした瞬間、ニコラスが
「冒険者には答えがないからだよ」
と言った。そして、続けて
「冒険者になりたての子は皆、この世には絶対的な解が ”一つだけある” と考えてしまうんだよ。だけど、この世はそんなことはなくて、どんな問題にも複数答えがあるんだ」
それを言った後、悲しそうな顔をして言う。
「その事を知らずに冒険者を続ける子が、待つ運命は・・・・ 必ず死なんだよ」
その言葉に賢也は一瞬固まる。死という言葉に強く反応したのだ。その様子を一瞥したニコラスは続けた。
「冒険者は一瞬一瞬が選択の嵐なんだ。そんな職業なのに答えが一つしかないという考えの子がいたら、どうなると思う?」
ニコラスは賢也に答えを求めるように聞いた。賢也はすぐさま答えようとしたが、ニコラスはその答えに被せるように言った。答えさせてくれないのか・・ と賢也は少しイラッときたが、そのまま聞いていた。
「答えに迷って選択するのに遅れるんだ。選択に遅れることが意味するのは、パーティの全滅、つまり自分だけでなく他人の命すら奪ってしまうんだ」
ニコラスは諭すように話す。
「だから、この測定で大事なのは答えを出すことなんだよ。どんなに間違ってようとも、答えを出す意思こそ大事なんだ」
と教訓を言ったあと、バツの悪そうに
「って言う教訓を駆け出しの冒険者に教えるために用意しているのに・・・ ケンヤくんは分かってたようだね」
と言った。
「まぁ、でも選択をするのにかなりの時間が掛かりましたけどね」
と賢也は謙遜して言った。本心は大喜びであったのだが・・・・ そんな心無い謙遜に対してニコラスは
「そんなことないよ。そもそもこの問題が測定ではなくて教訓って気がつく時点で凄いし、その上、その教訓の内容まで分かるなんて今まで聞いたことないよ」
と賢也を手放しに褒めた。それに続けてレイチェルが
「普通の子は、冒険者達の煽りに負けて選択することが出来ないことだってあるのに凄いよ!! 」
と褒めに褒めている。
「こんだけ頭が良いってことは魔力も相当高いはずだわ!! 」
と勝った…ッ!! と確信した顔もしていた。頭が良いと魔力が高いという相関関係はあまり理解できなかったが、賢也は少しにやけていた。
アリスも無表情ながら、少し目を見開いている。彼女も驚いているようだった。その姿に賢也は密かにガッツポーズをした。
アリス達だけでなく、他の冒険者たちも
「もしかして、本当はすごい人なの? 」
「確かによく見たら強そう! 」
「俺は最初から凄い奴って気づいてたぜ」
とざわざわしていた。
そんな褒められまくっている賢也は、異世界に来る前のまたオレ何かやっちゃいました?という顔をしていた。賢也はようやく自分が望んでいた異世界転移が出来たことに心の底から喜んだ。その喜びと言うのは誰にも推し測ることができなかっただろう。
そんな大喜びの賢也を他所に、レイチェルが
「あれ? ジジイやばいんじゃない?賢也絶対魔力高いよ?だれかー 蕎麦の準備した?」
と先程の煽りよりも遥かに煽っていた。流石のガンテツも一瞬不安そうな顔をしていた。その顔を見逃さなかった賢也は密かにその姿を嘲笑っていた。
そんな性悪達をものともしないようにガンテツは
「ふん、そんなの今すぐ測れば分かることだろ。少しカンが当たっただけで、いちいちうるさいガキどもだな」
と言う。ここまで否定し続けるガンテツに賢也は少し脱帽していた。
「減らず口を叩けるのも今だけよ。後で泣いて謝っても知らないんだから」
とあっかんべーしながらレイチェルは言った。そんな今にでも手が出そうな二人をニコラスは宥めながら話す。
「まぁまぁ二人とも抑えて、抑えて。賢也くんがもうすぐ測るんだから」
そんな優しく宥めるニコラスに、犬猿の仲の二人も流石に静かになる。そして、ニコラスは続けて
「賢也くん、そろそろ測ってもらって大丈夫かな?」
と優しく聞いてきた。ここでの賢也の返答は決まっていた。むしろそれしか無かったのだ。賢也は大きな声で
「勿論です!! 」
と言った。自信に満ちた賢也の声は部屋中に響いた。




