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変身

―――前回のあらすじ―――


 レリウス教官との決闘も終わり、

 リゼル・ティターニアは軍学校の授業へ戻った。

 しかし、決闘前に剣術の授業で負った酷い怪我の痛みは治まらない。


 彼は再び、魔法でその痛みを和らげてもらうため、

 寮の同室であるデイニー・バッケンハイムに道案内を頼み、

 領主ミルファ・ダリオンの屋敷へ向かったのだった。


 授業終わりの夕刻、オレとデイニーは、

 ミルファ邸へと続く薄暗い雑木林へと足を踏み入れた。


 歩きながら、

 急遽開催されることになった機兵トーナメントの話を、

 デイニーと話していると、

 突如、後方の木陰から物音が…。

 

 振り返ると、

 大きな白布をかぶった人影が、

 剣を振り上げ、

 いきなり斬りつけてきた。


「うわ―――っ!!!!?」

<タツヤ!!!>


 オレは驚いて大声を出しながら、

 その場にしりもちをついてしまった。


 オレが腰を抜かしていると、


「おいティターニア、何ビビってんだ。」


 デイニーは斬りつけてきた相手を、

 軽くいなし、あっさり捕まえてしまった。


 デイニーは捕まえた人物から、

 大きな白布をはぎ取ると、

 中から現れたのは、

 7、8歳ぐらいの少年だった。 


「はぁ~奇襲失敗、

 大きいお兄ちゃん、さすが”リンド・ブルム”だね。」


 子供は無邪気に笑った。


 そして、少年はオレを見て、


「そっちの小っちゃいお兄ちゃん、

 ホントに”リンド・ブルム”なの?」


 きっつい一言を投げかけてきた。


「くっそー…!」


 オレはむきになって立ち上がるが、


「痛てててて…。」


 とたんに怪我の痛みが襲ってきて、

 体はくの字に曲がってしまう。


「あはははっ。」


 少年はそんなオレを見て、

 もう一回笑う。


「すみませぬ!うちの孫が!!」


 そうこうしていると、

 子供の祖父と思われる老人が、

 慌ててオレたちの元へ駆け寄ってきた。


「路地でお二人の姿を見かけて、

 こんな形で追いかけてきてしまいまして…。」


 おじいさんは息を切らしながら、

 ひたすら謝っている。

 

 そんな老人を見かねたのか、

 デイニーは、


「いいえ、全然大したことじゃありません、

 そんなに謝らないでください。」


 落ち着いた大人の対応。


<なんか…タツヤと大違いだね…。>


(うっ………。)


 図星だ、 

 オレはリゼルの嫌みに、

 何も言い返せない。


 その場は、デイニーのおかげで、

 すっかり和やかな雰囲気に変わった。

 

「僕、大きくなったら、

 リンド・ブルムの制服着て、

 それから絶対パイロットになるんだ!」


 デイニーを見る少年のキラキラした目は、

 オレにはとてもまぶしく見えた。


(オ、オレも一応いるんですけど…。)


<はぁ…あんなカッコ悪いところ見せちゃったんだから、

 この結果はしょうがないと思うけど…。>


 確かに、ここはリゼルの言う通りだ。


 隣のデイニーは、


「じゃあ、これから、

 日々の勉強と鍛錬をしっかりがんばらなきゃな。」


 少年とがっしり握手を交わす。


「じゃあ、小っちゃいお兄ちゃんもがんばって!!」


 そう言って、少年はオレにも手を差し出してくれた。


 オレは出された手を握り返し、


「う、うん、がんばるよ。」


 と、言った瞬間だった。


 握手をするオレと少年の手の上から、

 おじいさんが、さらに両手をかぶせてきた。


「えっ…!?」


 オレはおじいさんの()()()()()に驚く。


 おじいさんは、がっしりとおれと少年の手を掴み、

 離そうとしない。


「ちょっ…ちょっと、どうしたんですか…。」


<タツヤ…()()()()って…。>

(嫌な予感しかしない…)


 おじいさんの様子は明らかにおかしい。


 その時だった――


「ティターニア危ない!!」


 デイニーが、オレたち三人をまとめて突き飛ばした。



「痛てててて…。」


 オレは勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ティターニア、気をつけろ!!」


 オレが顔を上げると、

 デイニーの左腕から血が流れている。


「デ、デイニー……血が!!」


 デイニーは左腕の傷に構うことなく、

 右腕で腰につけた護身用の片手剣(ショートソード)を抜く。


「ティターニア!オレの背後へ回れ!!」


 オレは言われるがまま、

 痛む体を引きずって、

 デイニーの後ろへ移動した。


<タツヤ!前見て!!>


 オレはリゼルの指示にしたがって

 デイニーの視線の先を追った。

 

 そこには、体長2メートルぐらいの青蛇が、

 身体をくねらせながら、地面を這っている。


「…………。」


 デイニーは片手剣(ショートソード)を水平に構え、

 じりじりと間合いをつめる。


 徐々に蛇との間隔が狭まってゆく。


 すると突然、青蛇は、

 人間の姿へ変化した。


「「!!!?」」


 オレとデイニーは反射的に、

 その人物から距離を取る。


 オレはその顔を見て、


「お、お前は…!!」


 思わず声を上げた。


 そいつは、雨の墓地で戦った、

 顔に傷のある壮年の鷲鼻の男だった。


挿絵(By みてみん)


 オレの脳裏に、あの雨の日、

 軍学校から逃げ出し、

 辿り着いた墓地で襲われた事が、

 鮮明に浮かぶ。


 オレはできる限り、

 墓地の中で起こったことを思い出し、

 リゼルと記憶を共有する。


<あの、雨の日の墓地の……!?>


(ああ、間違いない!!)


<タツヤ!!

 じゃあ、あの()()()()()も…!?>


 オレは倒れている

 おじいさんと少年に目をやった。


 二人はまだ、

 その場に倒れている。


「お、おじいさんの異常な行動、

 あれもお前の仕業だろ!!」


 オレは鷲鼻の男に向かって叫んだ。


 鷲鼻の男は何も言わず、

 ただ不敵な笑みを見せている。 


「くっそー!!」


 オレは鷲鼻の男をにらんだ。


 オレと鷲鼻の男のやりとりを、

 見ていたデイニーは、


「ティターニア…、

 ”あの男”のこと、知ってるんだな?」

 

 鷲鼻の男のほうを向いたままオレに尋ねた。


「うん。」


「そうか…、だったら、

 詳しく説明してもらいたいところだけど…、

 そんな状況じゃ…なさそうだな…。」


 それを聞いていた鷲鼻の男が、

 ようやく口を開いた。


「青年よ、まことに残念だ、

 貴様が何か知ったところで、意味をなさぬ、

 なぜなら、お前に残された時間は、

 ほとんどないのだから。」


「どういうことだ!?」


 デイニーが叫んだ。


「なに、至極簡単な話だ、

 その腕の傷口から入った毒で、

 貴様は、間もなく確実に息絶える。」


「「えっ…!?」」


 オレたちはそろって声を上げた。


「くっくっくっく、

 さっそく毒の影響が、

 出始めたようじゃないか。」


「はぁ…はぁ…はぁ…。」


 デイニーの息が、

 明らかに乱れ始めた。


 デイニーの肩が、

 上下に大きく揺れている。


「では小僧、次こそはお前の番だ。」


 鷲鼻はゆっくりと、

 こちらへ向かって歩きはじめた。


 それに合わせ、オレとデイニーは、

 少しずつ後ずさる。


「ティ、ティターニア…、

 今すぐここから逃げろ…。」


 デイニーの必死さが、

 絞り出した声から、

 痛いほど伝わってくる。


<タツヤどうするの!?>


(ど、どうする…って言われても、

 逃げるしかないじゃん!

 ミルファいないし、

 オレあんなのと、

 まともに戦えないよ!!)


<でもそうしたらデイニーは…?>


(だ、だけど、このままじゃ、

 オレたちもやられちゃうって!)


 オレたちが頭の中で、

 ごちゃごちゃ会話をしていると、


「グズグズするな!

 早く行けっ!!」


 デイニーは叫びながら、

 オレたちの進むべき方角を、

 短剣で指し示してくれる。


「とにかく、ここから離れろ…、

 離れるんだ……オレから……。」


<行こう!タツヤ!!

 僕たちが助けを呼んでこよう!!>


「デイニー…、待っててよ!!

 絶対助けを連れて戻ってくるから!!」


 オレたちは、

 ミルファの屋敷を目指し走り出した。





―――ミルファ邸、途中の雑木林―――



 リゼル・ティターニアがこの場から走り去ると、

 鷲鼻の男はその後を追って駆け出した。


「この先は……行かせない!!」


 デイニーは片手剣(ショートソード)を振り、

 鷲鼻の男の進路に立ち塞がる。


「ふん、そんなフラフラな身体で、

 何が出来る。」


 鷲鼻の男は一瞬、足を止めた。


 朦朧とする意識の中、デイニーはもう一度、

 鷲鼻の男めがけて片手剣(ショートソード)を振る。


 しかし、その一撃は

 いとも容易く躱された。


「邪魔だ、どけぃ!!」


 次の瞬間、

 鷲鼻の男の蹴りが若者の腹を打ち抜く。


「ぐはっ…!」


 デイニーは力尽き、

 そのまま地面へ倒れ込んだ。


「はっはははは……バカなやつだ、

 あんなガキのために。」


 鷲鼻の男は吐き捨てるように言った。


 倒れ込んだデイニーの全身から力が抜ける。


「はぁ…はぁ…はぁ…

 うっ…うぅ…う……。」


 意識が薄れていく。


 鷲鼻の男は倒れた若者を一瞥し、

 ほくそ笑むと、

 再び逃げた少年を追うために、

 走り出した。


「――!?」


 右足首に、強い感触。


 倒れたはずの若者が、

 その足を掴んでいた。


「えぇい!!離さんか!!」


 鷲鼻は、左足でその腕を、

 何度も踏みつける。


 しかし、若者は何度踏みつけられても、

 その手を離さない。


「くそ、死にぞこないが!!」


 鷲鼻は何度も何度も、

 若者の腕を踏みつける。


 ところが、足首を掴む力は、

 弱まるどころか強くなっていく。


 鷲鼻は同時に、

 この場に漂い始めた異様な妖気を感じとった。


「…ええい!放せ!!」


 掴まれた足を渾身の力で振り回し、

 ようやくその手を振りほどいた。


「何故…そのような力が…

 …残っているのだ。」


 鷲鼻が若者を見下ろすと、

 倒れた若者から、

 低い唸り声が聞こえる。


 ゆっくりと、若者が立ち上がる。


 血走った目。

 逆立つ毛が、顔から全身へと広がっていく。

 骨が軋み、肉が膨れ上がる。


 異形な姿へ変貌する若者は、

 人間のものとは思えぬ凄まじい咆哮を上げた。


 咆哮が止んだ時――


 そこに立っていたのは、

  完全な人狼(ライカンスロープ)だった。



()()()人狼(ライカンスロープ)なのか…!?」


 この状況に戸惑う鷲鼻の男。


 人狼(ライカンスロープ)は、戸惑う鷲鼻めがけ、

 いきなり襲いかかってきた。


 鷲鼻へ鋭い爪が迫る。


 鷲鼻は身を捻り、

 その一閃を紙一重でかわす。


 直後、

 鷲鼻の背後にある木がへし折られた。


 しかし猛撃は止まらない。

 人狼の破壊力は凄まじく、

 周囲の木々は次々となぎ倒されていく。


「貴っ様………!!」


 鷲鼻は人狼の攻撃を、

 直撃こそまぬがれるものの、

 躱すだけで精一杯だった。


 人狼は鷲鼻に姿を変える隙を、

 与えなかった。


 形勢は完全に逆転した。


 人狼はさらに暴れ回り、

 次々と木々がなぎ倒されていく。


 鷲鼻の男の衣服は裂け、

 無数の傷口から、血が流れ落ちる。


「くそっ!くそっ!!

 このバケモノがっ!!」


 鷲鼻の男は苛立ちを隠せなかった。


 そのとき、林の周囲がにわかにざわめき始めた。


 鷲鼻の視界の端に、複数の明かりが揺れる。

 

「さすがに…このままではマズい……、

 人も集まりだしたか……」


 鷲鼻は荒い呼吸を押さえ込みながら、

 必死で逃げる隙をうかがう。



 ――その時だった。



 人狼から悲鳴にも似た咆哮が上がる。

 

 次の瞬間。

 その巨体の動きが、明らかに鈍った。


「今かっ……覚えておれ!!!」


 鷲鼻の男は、

 大きな(カラス)へ姿を変えると、

 大空へ飛び立った。



 人狼(ライカンスロープ)はその場へ倒れこみ、

 元の若者――デイニー・バッケンハイムの姿へと戻った。





―――ミルファ邸―――



「はぁ…はぁ…はぁ。」


 オレは、怪我の痛みを必死に我慢しながら、

 なんとかミルファの屋敷にたどり着いた。


 中に入れてもらうため、

 門の前に立っている門番二人組のところへ、

 急いで向かう。


 その時、ちょうど門の内側から、

 馬が出てきた。


 馬上には、見慣れた顔。


「あーっ、サンダースのおっさん!」


<ナイスタイミング!!>


 オレの発言を聞いた門番の一人は、


「お前!ベルディア公に対し、

 なんだその失礼な呼び方は!!」


 もの凄い形相でオレに向かってくる。


<タツヤの…バカ!>


(………………。)


 そして、門番はオレたちの前で仁王立ち。


「きちんと謝罪したまえ!!」


 オレはすぐにひざをついて、

 頭を下げた。

 

「すみませんでした。」


 デイニーの命がかかっている、

 こんなことをしている場合ではなかった。


 オレが謝っていると、

 サンダースのおっさんが、


「もうよい、このぐらいで勘弁してやれ。」


 仲裁に入ってくれた。


「よろしいんですか?」


「後できつく叱っておく。」


「はいっ、承知いたしました。」


 そう言うと、

 門番は持ち場へ戻った。


(はぁ…おっさん遅いよ、止めるの。)


<タツヤ、今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!>


(そうだった!)


「サンダース校長!

 あ、あの、デイニーが大変なんです!!

 急いでオレたちと一緒に来てください!!

 それから、ミルファさんも呼んでください!!」


「リゼル、何があったにせよ、

 落ち着いて話せ、

 そして、出来うる限り手短にな。」


 おっさんの目が鋭くなった。


「え、えーと、

 同じクラスのデイニー・バッケンハイムが、

 少し離れた林の中で、

 蛇の毒にやられて…、

 そのデイニーを襲った蛇というのが魔法使いで、

 何日か前にミルファさんとオレの命も狙った奴で…。」


 オレはなんとか冷静に説明しようとするが、

 うまく言えない。


 それでも、サンダースのおっさんは、


「全容は不明瞭だが、

 緊急事態だということは十分わかった、

 急ぎ現場へ向かう!」


 すぐに、理解を示してくれた。


 そして、門番にに対し、


「急ぎで馬車の手配をせよ、

 準備出来次第、林へ、

 それから早馬に長けたものを、至急軍へ、

 蛇の血清、あるだけの種類用意させておけ!」


「あ、あの、ミルファさんは?」


 オレはおっさんに尋ねた。


「ミルファ殿なら、

 つい先ほど”王都”へ発たれたところだ。」


「そんなぁ……!!」


(おっさんだけで……大丈夫かな?)


<あの変身する男と、

 戦うかもしれないんだよね…。>


 オレたちはミルファの不在に、

 強い不安を覚える。


 するといきなり、

 シャツの襟首を、

 グイと力強く引っ張られた。


「痛たたたたっ。」


 オレは叫んだ。


 そしてそのまま、

 馬上のおっさんの後ろに座らされる。


「これぐらい我慢せい!!

 しっかり捕まっておれよ!!」


 おっさんが馬の腹を蹴ると、

 馬は勢いよく駆け出した。



◇ ◇ ◇ 



 オレたちが林のところまで戻ってくると、

 周辺には街の警備隊や、

 衛兵が集まっていた。


 目の前の林にも大きな異変がある。


 何本もの樹木が無残に倒されていた。


<タツヤ……。>

「……………。」


 オレとリゼルは言いようのない、

 不安に襲われる。


 「状況はどうなっておる?」


 サンダースのおっさんが、

 近くの隊員へ声をかけた。


「これは、ベルディア公!」


 おっさんに気づいた隊員や衛兵が、

 一斉に敬礼をした。


 そこから、年配の隊員が一歩前へ出た。


「近くの住民からの通報を受け、

 駆けつけたところ、

 このような状態でありました。」


 オレが林を出た時とは、

 まったく違う光景が目の前に広がっている。


「どうやら、騒動は治まったものと考えられます!」


 隊員はさらに報告を続けた。


「デイニーは!?」


 オレは、思わず声に出した。


「中に、リンドブルムの学生、

 近所の老人と少年、三名が倒れています。」


 年配の隊員が答えてくれた。


 おっさんはそれを聞くと、

 オレを残したまま馬から降りた。


「案内せよ!」


「あの…!」


 オレが言いかけたところで、


「リゼル!君はそこで待っておれ!」


 おっさんの声には逆らえない凄みがあった。


<タツヤ…あとはサンダース将軍たちに任せよう。>

(そ、そうだな…。)


オレとリゼルは、馬上からデイニーの無事を祈った。







次回


病床のデイニーを見舞うタツヤたち。

そこで、デイニーの秘密を知ることに――。


一方、ミルファは中央軍参謀トップとの会談に臨む。



機導大戰ライデンシャフト


お楽しみに!

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