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ドライビング・ミスダリオン

―――フィレリア王国・アルレオンから続く街道―――



 月夜、城塞都市アルレオンから、

 王都グレミアへと続く街道を、

 一台の魔導モービルが、

 猛スピードで駆け抜けていった。


 その様子を、

 王都へ戻る途中の侯爵将軍ギル・ドレは、

 道端に止めた馬車の外から、

 苦々しく見送った。


「リトマイケ…………、

 ……今のは……何だ。」


「えっ………!?

 い、今のでありますか…、

 え、えーと…あれは……。」 


 王国軍・元中将リトマイケは、

 ギル・ドレからの問いに答えられず、

 あわてて傍の従者たちへ目配せをした。


 その中の一人が、


「先ほどこちらを通過したのは、

 ()()()()()()()()が所有している、

 魔導モービルなる乗り物かと。」


 ギル・ドレからの問いに答えた。


 それを聞いたギル・ドレは、

 立ち上がるなり手にした銀の盃を、

 傍に止めてある馬車の車体へ、

 思い切り投げつけた。


「いつになったら出発するのだ!!」


 ギル・ドレは声を荒らげた。


「そうだ!いつまでこのような場所で、

 閣下を待たせるのじゃ!!」


 リトマイケもわざとらしく続いた。


 ギル・ドレ達の乗った馬車は、

 人気のない道中で馬車が故障し、

 走行不能となり、

 この場で足止めを食らっていた。


 ギル・ドレは王都へ戻り次第、

 王国軍の最高責任者となった

 北の盟主サウール・ポウジーへ、

 改めてリゼル・ティターニアの死刑を

 進言するつもりであった。


「閣下、こちらの馬車なのですが…、

 この場で応急処置が出来ぬほど、

 車軸をひどく破損しておりまして…。」


 苛立つギル・ドレたちへ、

 別の従者が必死で説明をする。


 それを聞いたリトマイケは、


「では、どうするのだ!

 まさかこのような場所で、

 閣下やこのリトマイケに、

 一夜を明かせというのか!!」


 さらに大声で怒鳴る。


「た、只今近くの集落にて、

 代わりとなる馬車を調達しておりますので、

 なにとぞお待ちください。」


 従者は精一杯の弁明をした。


 青ざめた従者の説明を聞き、

 ギル・ドレとリトマイケは、

 組み立て式の椅子に再び腰を下ろした。


 しばらくして、

 集落へ行っていた馬車調達組が戻ってきた。


「……………。」


 ギル・ドレは調達されてきた馬車を見て、

 リトマイケを睨んだ。


「こ、これに乗れというのか…!!」


 リトマイケは、自分の目を疑った。


 ギル・ドレたちの前に現れたのは

 家畜運搬用の荷車だった。


「申し訳ありません!!

 これしかありませんでした!!」


 調達から戻った兵士は、

 ギル・ドレ達の顔を直視することができなかった。


「か、閣下に、

 このような獣臭い荷車など…。」


 リトマイケが怒鳴りつけているところへ、


「もうよい!!そこの馬に鞍をつけよ!」


 ギル・ドレは命令を発した。


「承知いたしました!」


 従者たちは指示された通り、

 鞍の準備を始めた。


「さっさと、こうしておればよかったわ。」


 ギル・ドレは吐き捨てるように呟き、


「そこの者、

 明かりを持ち先導せよ。」


 さらなる指示を出した。


 それを聞いていたリトマイケは、


「か、閣下、私はどうすれば…。」


 一人で慌てた。


 ギル・ドレはそんなリトマイケに対し、


「その獣臭い荷車にでも乗ればよかろう。」


 冷たく言い放った。


 馬の準備が整うと、

 ギル・ドレは馬にまたがり、

 従者の一人を引き連れ、

 その場を走り去った。





―――王都への街道―――



 深夜、月明かりに照らされた、

 アルレオンから王都へと続く街道。


 魔導モービルを運転するセバスチャンの横で、

 ミルファは目を覚ました。


「ふぁああ…、けっこう寝ちゃった。」


「このところ、

 きちんとお休みになっておられませんでしたから、

 何よりでございます。」


「運転ありがと、

 おかげでよく休めた、

 それでさ、どう順調?」


「はい、このまま行けば、

 明け方には到着できると思います。」


「運転、代わろっか?」


「大丈夫でございます、

 王都までの運転、お任せくだされ。」

 

 セバスチャンはまっすぐ進路を見つめる。

 

「話のついでといっては何ですが、

 ()()()御一行、

 どうやら馬車が故障したのか、

 道中止まっておいででしたので、

 ()()()()()おきました。」


「マジで!?」


「はい。」


 そう言うと、

 セバスチャンはかすかに笑みを浮かべた。


 ミルファは運転するセバスチャンを、

 助手席から思いっきり抱きしめた。





―――半日前・アルレオン領ミルファ邸―――



 少し時間を巻き戻し、

 昼下がりのアルレオン。


 アルレオン軍学校・新校長サンダース・ヒルは、

 アルレオン領主邸の応接間で、

 館の主ミルファ・ダリオンが、

 議会への説明から帰ってくるのを待っていた。


 応接間でミルファを待つ間、

 てもちぶさたのサンダースは、

 何度も懐のタバコケースに手を伸ばした。


 そして、手持ちのタバコも無くなると、

 サンダースは出されたお茶へ手を伸ばした。


 そこへ、


「あー疲れた!!」


 館の主が帰ってきた。


「サンダースそっちはどうだった。」


 ミルファは部屋へ入るなり、

 単刀直入にサンダースへ尋ねた。


「まずは、レリウス君の容態ですが…

 かなり危険な状態であると。」


「うちの基地の治癒士チームでは、

 手に負えないか……。」


 二人の表情は一気に険しくなった。


 サンダースは続けた。


「一刻も早く、

 より高度な治癒魔法が使える者の施術を、

 受けさせなければなりません。」


 それを聞いたミルファは、


「急ぎで、一級の治癒士がいる

 前線基地と連絡取ったけど、

 どの基地もこっちへの緊急派遣は難しいって…。

 戦闘がいつ起こるかもわかんないし、

 正式な軍からの指令でもないし…。」


 神妙な面持ちで答えた。


 サンダースも難しい顔で応じる。


「魔法を使える者の中でも、

 治癒魔法を扱えるもの、

 なおかつ優れた能力を持つ者は、

 限られておりますからな…。

 ならば、中央へご相談は?」


「まだ…してない、

 ギル・ドレの仲間に、

 邪魔されるかもしれないし、

 それに()()()()()もあるし…。」


「リゼル・ティターニアの決闘の件、

 そちらも何とかしなくてはいけませんな。」


「そうなんだよね…。」


「中央の新しい総督…、

 確か…北のサウール・ポウジーでしたな。」


「ボク…、そいつよく知らない。」


「私も、面識こそありますが、

 頼みごとができる仲ではありません。」


 二人の間に重苦しい空気が漂う。


「そうだ、教官を、

 前線基地へ搬送って出来ないかな?

 連れて行けば、

 対処してもらえるかも!?」


「ふむ……なかなか厳しいですな、

 今のレリウス君の状態で長距離移動ですか…。」


「やっぱり難しいか…。」


「意識がまだ戻らぬなか、

 治癒士たちの懸命な治療で、

 ギリギリ命をつなぎとめているところ、

 加えて、前線基地ですから、

 当然、運んだとしても、

 戦闘発生のリスクもあります。」


「うーん……どうしたもんかな。」


 ミルファは腕を組み、

 思案しながら応接間の中を歩き始めた。


「ミルファ殿、議会との折衝いかがでした?」


 ミルファはサンダースから問いかけられると、

 立ち止まって、サンダースへ向いた。


「もう全然ダメ、みんな費用の話になると、

 押し付け合いで、結局ほとんど決まらなかった。」


「そういうことでしたら、微力ながら、

 このサンダース・ヒルも援助させていただきます。」


「ホント!?それ、めっちゃ助かる!!」


 ここで、

 今まで部屋の隅で黙っていたセバスチャンが、


「恐れながら申し上げます、

 今回の補償や修繕に掛かる費用、

 かなりの額になりますうえ、

 ベルディア公に援助していただくにしても、

 あまりご負担いただくわけにもいかぬかと。」


 その美しいバリトンボイスを響かせた。


「だよね…、

 じゃあセバスチャン、

 やっぱり、旅の支度をお願い。」


「支度でしたら、すでに取り掛かっております、

 間もなく出発できるかと。」


 サンダースは驚いた表情で、

 ミルファへ尋ねた。


「どちらへ行かれるのですか?」


「王都へ行ってくる!」


 ミルファは力強く答えた。




 

―――アルレオン軍学校・寮への道中―――



 日が西に傾きかけた頃、

 オレは一日の授業が終わって、

 学校から寮へ帰っているところだった。


 オレは頭の中のリゼルの声に、

 耳を傾けていた。


<タツヤ!すごいよ!!

 あのサンダース・ヒル将軍から、

 直接教えてもらえるんだよ!!>


 (…う、うん。)


<授業楽しみだね!!

 それから、トーナメント戦も!!

 いつ始まるんだろ、絶対勝たなきゃ!!>


(そ、そうだ……ね。)


<そ、そうだ…ね、

 じゃなくて、人の話ちゃんと聞いてるの!

 もっと気合入れてよ!>


(そう言われても…、痛てててて…。)


 リゼルはパイロットの座をかけた

 トーナメントの開催が決まって、

 明らかに興奮している。


 そんなリゼルに対して、

 オレはというと、

 相変わらず怪我の痛みにやられ中。


<……大丈夫?>


 リゼルが一応心配してくれる。


(安静にしてれば、少しは楽なんだけど…、

 だからって、授業休むわけにはいかないし、

 そんな中でまた操縦しなきゃいけないって…、

 ふぅ……痛ててててっ、

 いいよなリゼルは…痛みを感じなくて!!)


<……確かに…そうだけど……。>


 さっきまでのハイテンションから一転、

 リゼルの返事は明らかに重くなった。

 

 オレはその瞬間、

 自分の言葉の無神経さに、

 すぐ気づかされた。


(ご、ごめん、

 オレ、リゼルの気持ち考えてなかった…。)


<……いいよ、今回は大目にみてあげる。

 ホントに痛いみたいだから、>


(あ、ありがと…。

 でもなんか…、すげー上から目線…。)


<何か言った?>


(い、いいえ、リゼルが偉そうだなんて、

 これっぽっちも考えてません。)


<ウソだね!!

 めちゃくちゃ考えてるじゃん!!>


(バ、バレた!

 あは、あははははは!)


 オレは必死に笑ってごまかした。


 オレはいつものリゼルとのやりとりができて、

 なんだか、少しホッとした気持ちになった。


<タツヤ…、そんなに痛いんだったら、

 ミルファさんにお願いして、

 もう一回、痛みを消す魔法をかけてもらったら?>


<そうだ…、その手があるじゃん!

 もう一回、ミルファにお願いして、

 魔法かけてもらおう。>


 オレは目的地を寮から、

 ミルファの屋敷へ変更する。


 すると、すぐにリゼルがオレに尋ねてきた。


<ミルファさんのお屋敷への道だけど、

 タツヤわかるの?>


(えっ……み、道!?

 ……だいたいの、方角なら、

 ……わかる…と思う。)


<だいたい…ねぇ…、

 すごく、怪しいんだけど。>


(…はいはいはいはい、

 白状しますよ、

 道はわかっていませんよ!)


<はぁ……やっぱり。>


(仕方ない、ここは一度寮に戻って

 デイニーにお屋敷までの道案内をお願いするか…。)



◇◇◇



 寮の部屋に戻ると、

 デイニーは机に向かって、

 勉強している。


 オレは邪魔をしないように、

 できる限り気配を消した。


(デイニー……、

 あの一件以来、なんか話しかけずらいんだよな

 デイニーも、あまり話しかけてこないし…。)


<あのさ…、

 今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。>


(はいはい…、わかってるって。)


 オレは、リゼルにせっつかれて、

 デイニーにおそるおそる話しかける。


「あのさあ…デイニー、

 ちょっといいかな?」


 それから事情を話し、

 道案内を頼んだ。


「ちょっと待ってな、

 このレポートを書き終わってからな。

 すぐ済むから。」


 デイニーはいつものように気さくに、

 オレたちの願いを引き受けてくれた。

 

 オレは、ほっとして大きく息を吐き出す。

 

 そしてそのまま、デイニーの作業が終わるのを待った。


 少しして、


「よし終わった、じゃあ案内してやるよ。」


 デイニーは勢いよく席を立つと、

 オレと一緒に部屋を出た。

 

 寮の玄関にさしかかったところで、

 デイニーはオレに話しかけてきた。


「寮からだと、少し距離があるから

 寮の馬を借りて、それで行くか?」


 デイニーの提案に、


「ダメダメ、それは絶対ダメ。」


 オレは必死で首を振った。


「あ、ごめん、まだ怪我が痛くて、

 馬は振動がすごいから…。」

 

「じゃあ…、歩いていくか。

 ちょっと時間かかるけど。」


 デイニーはオレのわがままに、

 一切不満を言わなかった。

 

 そしてそのまま、

 オレたちは歩いてミルファの屋敷へ向かった。


 途中、デイニーは道を大きく外れ、

 薄暗い林へ入っていく。


 オレが少しビビっていると、


「そんなにビビんなよ、

 ここを突っ切ったほうが近道なんだ。」

 

 そう言いながら、

 デイニーはオレの背中を軽く叩いた。


「痛っ……。」


 オレは思わず声を出した。


「あっ、…すまん、

 怪我してたんだよな。」


 デイニーは申し訳ない表情で、

 頭をかいた。


「そうだ、ティターニア、

 その怪我は心配だけど、

 トーナメント、とにかくがんばれよ。」


「う、うん、

 デイニーも一緒にがんばろう。」


「………オレは、

 ……無理かもな。」


「えっ…そんな、

 無理って……なんで。」


「…せっかくの機会だし、

 …お前には話しておいたほうが、

 いいかもしれない。」


 いつも朗らかなデイニーには珍しく、

 険しい表情に変わった。


「………。」


 オレは黙って聞くことにした。


「お前も見たから知ってるだろ…

 オレが普通じゃないってこと…。」


 その瞬間オレの脳裏に、

 深夜、寮の窓から部屋へ入ってくる、

 怪しく不気味に光る二つの瞳が、

 はっきりとよみがえった。


「あ、あの…時の…、

 あれ…だよね…。」


 オレは恐る恐る答えた。


 その時だった――


 突如、木陰から人影が現れ、

 オレたちへ斬りつけてきた。









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