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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
6上
345/350

33

 ……本当に、ケイトがいればいいのに。

 何かがこの森に近付いてきてる。ひとり二人じゃないし、足取りからしてペスティスでもない。ブッチたちだ。派手に火を焚いたり銃ぶっ放したりギャアギャア騒いだり、ご近所さんがいたら殴りに来る程度のことはしてたから人が寄って来るのも不思議じゃないけど、この寒さの中こんなとこまで追って来るなんてちょっと驚き。少し考えれば危ないってわかると思うけど、寒さで脳みそ止まってるのかな。

 んー、騒いだらリベックシャー起こしちゃうし、術で化かして追い返せないかな。とっても怖いクマ亜人のシミグリさんにでも……いや、あいつらシミグリさんのこと知らないか。服装もこのままじゃバレるし、無理だな。殺そう。

「――この人数で獣人を相手にするのは厳しい。おれとタバス、ペイロン、シャジャの4人で押さえる。お前たちは絶対にここでリベックシャーを殺れ」

「本当にやるのか? 獣人が離れなかったらどうする?」

「どうするもこうするもあるか。獣人のことは無視しろ。いいか? リベックシャーを殺るのに集中するんだ。姿を晒さず、素早くだ。殺っちまったら逃げればいい」

 出迎えようと歩いてるうちから声が聞こえてくる。内容が駄々漏れなのも含めて最初とまるで変わってない。失敗しても目下ずに続ける姿勢は悪くない気もするけど、人数的にもう潰滅してるような状態でどうして続ける判断になるのか……わかんない。なんで襲って来るんだこいつら。

「よし、ここからは何も話すな。とにかく獣人に気付かれないよう慎重に距離を詰めろ。近付いてぶっ放してやれば獣人だってどうしようもねぇ」

 言ってる間にわたしが近付いてることには気付いてない。リベックシャーに用なら夜中の訪問なんて迷惑だ。礼儀知らずの不届き者に出すお茶はないし、石ころくらえ。

「うっ!」

「おい、どうした」

「ベッシュがやられた。おい、しっかりしろ」

「肺をやられてる。伏せろ、バレてるぞ」

 動揺してる。これで勝ち目がないってわかってもらおう。それ、次は鼻をへし折ってやる――。

「グェッ! いっ、痛ェ! もうやめてくれぇッ」

 狙い通り。握りこぶし大の石を顔面で受けた男はひっくり返って起き上がりもせず泣き言を口にした。

「ファシックてめぇ! クソッ、そこだっ!」

 弓使いのペイロンが松明の明かりを頼りに、石の軌道を見て矢を射返してきた。腕前に自信はあるようだけど、いまさら弓矢なんか怖くない。機関銃でも持ってこないとね。

「今のうちだ、お前ら急げ」

「何が今のうちだよ!」

 不満を抱きつつも、やるしかないと腹を括ったか、逃亡兵たちはやけくそ気味に走ってきた。本当に諦めが悪い。よし、ブッチのひざの皿割って士気をくじいてやろう。

「うぉッと! あぶねぇな」

 ひざ目掛けて石を投げると、獣人の相手はお任せと言うだけあって、ブッチは盛大に転びながら石を躱して焚き火にダッシュ。さっき話してた計画は何処に行ったか、さては一丸になってリベックシャーを袋にして逃げる気か。やれるものならやってみろ。

 何処ぞのエセ鳥人さん同様真っ直ぐ突っ込んで来る獲物、ことさらニンゲンなんて罠に掛けるのは簡単。間に糸を張っておけば、こんな感じに――、

「うぉぁ!?」

 俊足を発揮してひとり前を走ってた男が盛大にスッ転んだ。勢いよく突っ込んだから胴がざっくり切れてるけど、後続は死に物狂いで気が回らなかったのか、続く数人も糸に気付かず突っ込む。たちまち阿鼻叫喚。

「なんだ!? 奴はひとりじゃないのか!?」

「焚き火は罠だ!」

 先頭が尽く地面に倒れると、男たちはようやく危険を察知して足を止めた。何が起きたのかもわからず混乱して逃げ出すやつも現れた。

 罠の扱いに定評があるらしいブッチは「しまった!」って顔して逃げる兵士を目で追ったけど、追い掛ける余裕はない様子。おもむろに仲間が倒れたところへ近付いて、倒れたひとりに声を掛けてる。わたしの張った糸の存在には気付いたらしい。

「クソッ、こんな手にしてやられるなんて情けないな。それになんだ、クソ硬いぞ。鋼製か?」

「獣人が金属線なんて使うのか?」

「全然見えない。こんなもの仕掛けられてたら、這って進むしかないぜ」

 気付いたところでもう遅い。残りは9人、これだけ数が減っちゃえば、まとめて相手したってどうとでもなる。ナイフを回収して、本番といこう。

「見かけによらず頭を使えるらしいな。何処だ獣人、出て来い。いるんだろう? このおれが相手だ」

 ブッチは案外落ち着いてる。こういうのは獣人の首を取って美味しいゴハン食べてきたようなやつだと相場が知れてるけど、だからといって真っ向勝負で勝てると思い込んでるのは自分を過信しすぎ。……逃げるふりして迂回してるのはいないな。一応気を付けておかないと。

 ただ、ブッチたちとは別のどうしようもない問題がある。それは寝ていたリベックシャーが目を覚まして、こっちに向かってること。怪我してるのに出て来られると面倒だけし、もしそうなったら斬られないことを祈るしかない。

「――あっ、あそこ、獣人だ! ブッチ、獣人は任せていいんだよな!?」

 取り敢えず先にわたしが姿を見せると、ブッチたちは憎々しげにわたしを見た。わたしがいなければこんなとことまで来なくてよかっただろうに。まあ、自業自得。

「出たな獣人ッ! よくも逃げ回ってくれたなァ……! ――いいぞお前ら、ここは任せてリベックシャーを探せ! 鋼線なんてそう多くはないはずだ。木の枝振り回して進めばラクに通り抜けられる!」

「その必要はないぞ、ブッチ!」

 ……あーあ、案の定リベックシャーが堂々と姿を現した。隠れててくれた方がありがたかったんだけど、そうだよね、願うだけ無駄なタイプだよね。

 お目当ての人と再開できたブッチはにやにやと笑顔を見せた。因縁の対決……みたいな雰囲気出してるけど、たぶんそこまでの関係じゃない。今朝までは顔見知り程度の関係。

「おぉや、坊っちゃん。おねむじゃなかったようで。夜更かしとは感心しませんなぁ」

「ブッチ、このおれとてここまで来たなら容赦はしないぞ。人への恩を忘れ悪行に走る下郎に、これ以上掛ける情けはそうない。せめて身を野ざらしに武人らしく骸となるがいい」

 リベックシャーは温かくして多少睡眠を取ったお陰で、多少回復してるように見える。消耗してるのは脱走兵たちも同じだし、どうしようもなく悪い状況ってわけじゃない。でも本気で、動けるならわたしに全部任せて離れててほしかった。その方が早いし堅実で気がラク。

「武人だぁ? 勘違いしていらっしゃる。おれたちは狩人、あんたたちみたいなイケ好かねぇ貴族さまや、アホで獣臭ぇガキをシメて銭稼ぐのが仕事だ。軍服なんて疫病の予防薬さえいただけりゃ用無しだったのさ」

 などと自分の立場を明確にして、ブッチはどうして自分たちが馬鹿な真似するのかという謎を紐解くヒントをくれた。

 なるほど。入隊得点の疫病予防さえやってもらえれば、西の国に安心して逃げれる。こいつら最初から逃げる気だったんだ。まあ、どうせお国は瘴気に呑まれて当分は不毛の地、取り返しても大変だし、ベーレーレン人と轡並べて命張る価値もないって認識かも。

「そんな考えでいながら何故城壁を越えた? もっと早く脱走しておけば、ここで命を張る必要はなかっただろ?」

「けっ、有り金全部ぶん取っといてよくいうぜ。――もういい、殺せ」

 獣人やペスティスが相手じゃなければ勝てると思ってるのか、脱走兵たちは雄叫びを上げてリベックシャーに襲い掛かり、火花を散らした。軍のやり方に不満があるんだろうけど、自分たちみたいなやつらがいるのが原因じゃないかな。

「おっと獣人、お前の遊び相手はこっちだ」

 わたしの前に立ち塞がるのはブッチ、タバス、ペイロン、シャジャの下衆四人組。一時行方知れずだったブッチの計画が破綻の果てに実現してる。しょうがないからリベックシャーはリベックシャーで頑張ってもらおう。

「……人数少ない。何しに来たの?」

「黙れクソガキ、お前たちをぶち殺せば処罰はなし、それに栄転だって狙えるんだ。殺してやる」

 いったいどんな妄想を繰り広げたらこんな考えに至るんだろう。謝って許しを乞う方がまだ助かりそうな気がするのに、こんな真夜中に、森でキツネ亜人に勝負を挑む選択をするなんて正気の沙汰じゃない。

 まあ、そんなに死にたいなら叶えてやるのが優しい獣人、夜中にケンカ売られたら買わなきゃならないのがキツネ亜人。そういうわけで、全員死んでもらおう。

「栄転とか、何言ってんだよブッチ。あんたは一生狩人に決まってるだろ。……ヘヘ、銀毛は高く売れる」

 タバスってやつは報奨金に目移りして、わたしの頭見てにやにやしながら斬り掛かってきた。シャジャってやつも同様、超のつく笑顔。凄いやつらだ、能天気すぎる。

「お前たち、自分が馬鹿なことしてるってわかってないね」

 現実見るところから始めたらいいのに。

「わかるかよぉ、人間さまの思考はてめぇら獣人ほど単純じゃないんでな、こういうことだってできちまう。ハハハッ、さっさとくたばってくれよ!」

 ……言うほどそっちの思考複雑なの? 技術面は悪くない気がするし、真面目に兵隊してれば上手にやれたと思うけど、中身がこれじゃ土台無理なんだろうな。

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