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アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
6上
342/350

30

「また厄介事が増えたぞ、こんな時に」

 本当にね。近くに味方の陣地あるんだし、こんな人気のないとこに降りることないのに。

「誰かきて〜。――って、誰かいる!」

 顔が見えるようになったから拝んでみれば、えーっと、ミズだっけ。夜になるとあちこち飛んでる人。

 ミズはあわや激突するかって速度で地面に近付き、わたしたちが隠れてる枝の下でふわっと浮き上がると、手で枝を掴んでそのままよじ登った。流石の身のこなし、でも枝の上で小さくなってるのはなんとも情けない。

「あなたは、飛竜殺しさん!」

「え、違う」

 わたしと目が合うと、ミズは早速声を掛けてきた。さてはグリフォンをわたしに押し付ける気だ。しかし日頃から、空の戦いとならば鳥人族と言ってるのにそれはちょっと……。

「嘘です! 助けてください、飛竜殺しさん。わたしはもうへとへとです!」

「お前、飛竜なんて狩ったことあるのか」

「……一応。危ないから下がってて」

 グリフォンは降下中にミズのことを見失ったみたいだったのに、話すついでにがさがさと枝を揺らすものだからあっさり見付かった。グリフォンから逃げ切る脚がないわたしたちからしたら、頼まれなくてもなんとかするしかない。

 空を飛べるやつの相手は面倒だから肩を落としていると、グリフォンの前脚が迫ってきた。ほんのり瘴気出してるからやっぱりペスティスか。こいつらはなんで飛べるくせに瘴気に呑まれてるの。何度でも問いたいけど言葉が通じない。

 横に倒れて爪を躱しながら糸付きナイフを投げ付けると、ナイフは肋の隙間に突き刺さって引っ掛かった。グリフォンは痛そうにひと声鳴いたけど、そう簡単に止まるものでもなく、わたしを吊り上げながら上昇していく。

「おいおい、危ないぞ。――何処いった? もう見えない」

 リベックシャーがそう言ってる最中にも、突っ込んできたもう一匹の口に予備のナイフを投げ入れてひとまずあしらうと、わたしを引っ張ってるグリフォンが急制動をかけて目の前に迫った。

 刺したナイフが抜けそうになってるのを通り過ぎざま蹴り付けて刺し直し、その勢いで距離を取る。するとグリフォンは痛みで頭に瘴気が昇ったか、真っ直ぐこっちに飛んできた。これならなんとかできるかな。

 近付くにつれてたるむ糸を、腕をくるくるしてグリフォンの身体に巻き付けて引っ張る。肉を切れるほどじゃなかったけど、ちょっと体勢が崩れた隙に頭目掛けて踵を落として、なんとか背中に取り付けた。

 ……うわっ、掴んだとこから瘴気が舐めてる。気が遠くなりそう。早く落ちろ鳥。

「ニンゲンは目が見えないんですか? 仕方がないですね、夜でも目が見えるおまじないをしてあげます。手伝えくださいニンゲン」

「おっ、よく見える。――いいぞアトレイシア、やれやれ」

 夜目を得たリベックシャーが観戦を楽しみ始めてからは、糸を引いては手を離して移動する、地道で面倒で疲れる手法でグリフォンを締め付けて、どうにか地面に降ろすことができた。すでに指がすんごく痛いし、瘴気を浴び過ぎてふらふら。やんなる。

「流石は飛竜殺しさん!」

 わたしの方はなんとかなった。途中からもう一匹引き受けてくれてるミズを手伝って、あっちから先に消し炭にしてやろう。その方がたぶん安全。

 ミズは、ここが勝負と意を決して散弾銃を取り出し、至近距離からグリフォンの首にぶっ放した。羽毛と瘴気でよくわからないけど弾子がいくつか突き抜けて、グリフォンはよたついてる。ついでにミズは反動でひっくり返ってる。

 んー、動き鈍ったグリフォンに飛び乗って追撃しようか。途中でこっちが力尽きそうだな。岩でも投げ付けとこ。

 転がってる岩を掴み、ふらふらしながら持ち上げて雑にぶん投げると、何処に当たったか見てなかったけどグリフォンは倒れた。見た目はいかついけど空飛べるように骨はすかすかで打たれ弱いからナイフ刺すより効果的かも。

「まだ息があるな。おら、くたばれ」

 リベックシャーも岩を拾い上げて投げ付け、起き上がる前に剣で滅多斬りにして仕留めた。

 よし、あとは足元で雁字搦めになってジタバタしてる方。リベックシャーから剣を借りて、これも塵になるまで繰り返し剣で斬って刺してして無事撃破。しばらく瘴気に触れてたし、糸の状態だけちょっと心配。そろそろホロビに頼んで交換してもらおうかな。

「飛竜殺しさん、次の準備はいいですか?」

 次? あぁ、そういえばもう何匹か空に飛んでたっけ。

 見上げると、遥か上空にとどまってた影が降りてきてる。グリフォンよりひと回り小柄なそれには、白っぽい手足に黒とか灰色とかが模様を描き、手には槍が一本。エセ鳥人だ。女の子。ちょっと神秘的かも。

「なんだあのガキ」

「鳥人のまがいもの」

「なんだそれ」

 わかんない。前に見たのは筋骨隆々のお兄さんだし、あんなのいるんだって感じ。まあ、鳥人なんて大人になっても大きいのから小さいのまで頭ふたつ分くらい身長差ある生き物だし、こっちの方が一般的なサイズでもある。

「取り敢えず敵」

「亜人だろ? 話し合いで片付けられないのか?」

「あいつらの言葉は翻訳されない」

 言葉が通じないならぶちのめすしかない。連れて来てるグリフォンもろとも地面を這わせてやる……と、言うほどにはやる気出ない。こちとら巻き込まれてる身なので。

「なかなか戻ってこないと思ったら、こんなところに邪魔者がいるとはね」

「……本当だ! 翻訳されない!」

「ね」

「でもリュオン語なら少しはわかるぞ」

「ね」

 エセ鳥人が喋った。アブミ語とかいうデオシアの言語じゃなくて、この辺りの獣人には割と馴染みのあるリュオン語。これなら魔術で翻訳してもらえなくても大丈夫。

「わたしはエルミロード。天空を駆るグリフォンを統べ、地を這う――。えっと……なんていうの?」

 せっかく話ができる人として登場したのに台詞忘れたの?

 エセ鳥人は何かこう、カッコいい口上を述べて登場を彩りたいみたい。でも亜人の語彙力で上手い言葉を見付けるのは難しい。鳥人って大人が勉強教えてくれることあるの?

「まあいいわ。それよりっ、よくもわたしのグリフォンを灰みたいにしてくれたわね! 後悔させてあげるわ!」

 エルミロードと名乗ったエセ鳥人は唐突に怒りを顕にして吠えた。あれってエセ鳥人からも「灰みたい」って認識されてるんだ。まあ、それ以外に例えようないよね。

「そうか、昼間にベーレーレンの陣地を攻撃したのはこいつだな? それがなければ今頃は……。おい獣人、面倒をかけられた仕返しをしてやれよ」

 リベックシャーは逆恨みに片足突っ込んだ理屈でわたしを焚き付けて、エセ鳥人と戦わせようとしてくれてる。追われる身なのはブッチたちのせいだし、エセ鳥人からしたら何の話かわからなくて迷惑だと思う。戦争してるんだからペスティスがそこかしこを攻撃するのは当たり前。

「やっつけちゃってください、飛竜殺しさん!」

 ミズは鳥人の誇りを何処に捨ててきたのか、わたしに全幅の信頼を寄せ背に隠れてくれてる。わたしが攻撃受けるの?

「ニンゲンに味方しているうえに獣人に助けを乞うなんて、とんだ鳥人の恥晒しね!」

「先にニンゲンの兵器持ち出しておいてよく言うよ。この恥知らずの卑怯者! 飛んでさえずるだけのつまんないクズ鳥! 血色不良のおたんこなす!」

「な、ん、で、すって〜ッ? 許さないわよこの豆鳥! やっちゃえグリフォン!」

 ミズが言い返すと、そのあまりの言いようにエセ鳥人は瞬時にキレた。ただ、体躯は連れてきてるグリフォンと大差ないし、迫力はそんなにない。

「ひぃ! 飛竜殺しさん、助けて〜!」

「相手貶すだけ貶して丸投げかよ」

 グリフォンが襲い掛かって来ると、わたしの背に隠れてたミズはさっと飛び立って安全な距離を確保した。こんなの代理戦争だ。お願いします、勝手にやってください。

 前脚とくちばしを掻い潜り、隙を見てわたしも距離を取ると、グリフォンはミズには目もくれず、引き続きこっちに攻撃を仕掛けてきた。こいつらいつも目の前しか見てない。

「また獣人なんか頼って! まあいいわ、サシで勝負よ!」

「夜の空が誰のものか……わからせてやります!」

 一対一になるとミズもやる気を出すものらしい。鳥人らしく槍を構えるエセ鳥人に対し、散弾銃の銃口を向け鳥人らしからぬ姿を見せ付けるミズ。何発残してるか知らないけど、撃ち尽くしたら打つ手なさそう。

「くらいなさい!」

  策もなしに突撃したら先に撃たれることはエセ鳥人も承知のことか、まずは突風を起こして体勢を崩す作戦に出た。

 すると、ミズは多勢に無勢の中、無事にここまで逃げてきただけのことはある。翼を広げて風に乗り、射撃姿勢を崩さないまま地面を離れて追撃を阻止した。なんだかんだで航空隊内では指折りの戦績を持つ、上澄みも上澄み。

「逃げ回ることに関してはわたしより上手いみたいね。あのときもそうやって、ニンゲンと戦わずひとりで逃げ回っていたの? この卑怯者!」

「悪者がなに言ってるやがるんです!?」

 射線を外すために横に回りながら距離を詰めようとするエセ鳥人エルミロードと、直撃を狙ってなかなか引き金を引かないミズ、派手さはないけどいい勝負。

 「あのとき」っていうのは、前の戦争かな。エセ鳥人はニンゲンと戦っていた……ということは、もしかしたら元は鳥人で、ニンゲンと戦うためにタナトスの力を取り込んだのかも。それなら、わたしたちがニンゲンと組んでることに腹を立てて攻撃してくるのも無理はない。

 エセ鳥人も思ったより悪いやつらじゃないのかも……。んー、まあそんなことはどうでもいい状況か。

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