表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトレイシアともう一度  作者: 長原玉乙
6上
340/350

28

「……撃ってこないな。銃兵は何処だ? 一斉射凌げば思い切って走り抜けられるのに……」

「仲間が来るの待ってる。わたしが先行して銃兵倒すね」

 前方から金属が擦れ、軋む音が聞こえる。カンテラで信号を送ってるな。森の方から足音が近付いてる。

 わたしたちの行動に脱走兵たちが機敏な反応を見せている一方、自分の目では敵の姿どころか足元すら満足に見えないリベックシャーは、腰を落としてそろりそろりと慎重に進んでる。急がないと敵が少ないところを進むことにした意味がない。せめて、今のうちに銃兵を倒しておかないと。

「獣人が前に出たか? 不味いな……」

「のこのこ出て来てくれたな。そこだ、よく狙え!」

 ブッチは森にいるらしく、銃兵を率いてるのは弓を持った男だ。松明に火を灯すと、わたしたちの進路に投げて銃兵に位置を知らせた。真っ暗のところにいたから目が眩む。

「撃てッ!」

 うーん、先手を打とうっていうわたしの目論見が外れちゃった。仕方ない、もったいないけどナイフで受けよう。で、こうなったら強行突破。銃兵数人黙らせればいいのは変わらない。いつもやってること。

「おお、撃たれてる撃たれてる。ご武運を」

 背後では隊長がすでに他人事で状況を楽しんでる。これでリベックシャーがベーレーレン人だったら喜んで脱走兵をぶちのめすのに手を貸してくれただろうに、トメクスレン人でおまけに獣人がセットじゃ期待するだけ無駄というもの。

「あの獣人、銃弾を防いだ!?」

「リッ、リベックシャーを狙え!」

 何処に弾が飛ぶかわからないマスケットは下手に射線から逃れようとするより、弾が発射されてからどうするか決める方が安全。躱したらリベックシャーに当たるような弾はナイフで受けた。ナイフは折れた。

 ああ、またナイフを新調しなくちゃ。なんてことを考えながら松明を拾って弓持ちに投げ付け、それから目の前に出てきたやつぶっ飛ばして、囲いを抜けたところで後ろにいたリベックシャーが一発くらった。

「痛っ、中にいればよかった」

 右の太ももをかすってる。死にやしないだろうけど嫌なとこだし、しつこく追ってくるならリベックシャーだけ先行させてここで足止めでもしていようかな。

「銃かして」

「わかった。2発入ってる。矢に気を付けろよ」

 弾数が頼りないけど、ちょっとでも足止めできれば御の字。誰を撃とうかな。

「撃ってくるぞ。伏せろ、伏せろ」

 振り返って見ると、銃兵たちは地形の陰に隠れた。多少の起伏でも、わたしの目線からじゃ立ち止まってよく狙わないと当たらない。んー、どうしよう。離れるふりして……ものは試しにジャンプしながら振り返って撃ってみよう。

「うわっ、なんて撃ち方だ」

「誰かやられたぞ」

 やってみるもので、なかなかいい感じ。空中からなら起伏に隠れてる程度のやつは見えるし、余計な揺れがないから狙いやすい。そして楽しいかも知れない。

「おい、あの獣人化け物だぞ!? 胡散臭いオヤジが適当なことを言いやがって、将軍の護衛を任されるやつが戦えないわけあるかよ!」

「落ち着け、弾はそう多くないはずだ。お前たちは弾切れを待ってリベックシャーを殺ればいい」

「それができれば……クソッ、簡単に言うな! あの獣人も殺らなきゃ結局死罪じゃないのか!」

 唯一残念だったことは、弓持ちの男を撃ち損ねたこと。振り返ったときには近場の茂みの陰に飛び込んで見えなくなった。プロの動き。何のプロかはさておき。

「弾の予備、ある?」

「あるぞ。使うか?」

「うんん。いい」

 敵はわたしに撃たれるのを嫌がって……いや、違うか。みんな一発撃ったから装填するために足を止めたんだ。お陰で距離を離すことができた。

 この暗さだともう見失ってるだろうし、これでひとまず安心。リベックシャーも怪我をものともせず走ってくれるから助かった。でも、問題はここから。

「離れたはいいが――うわっ、くそ、邪魔な石ころだな」

 明かりからも遠ざかり、リベックシャーは再び足元が見えなくなって速度が落ちた。転んで余計に怪我をされるよりマシだろうけど、これで逃げ切るのは厳しいからわたしが腕を掴んで安全そうな場所を進もう。

 最たる問題は、追っ手は松明があるぶん足が速いってとこ。隠れる場所は無くもないけど、腕のいい猟師なら獲物の痕跡を見落としてはくれない。

「あいつら、合流して追ってきてる」

「クソッ、何処に侵食者がいるかわかったもんじゃないのに、こんなところで根性を見せるなよ。――ちょっと傷口縛るから止まってくれ」

 下手に隠れるより移動して追跡を振り切る方がいいことはリベックシャーもわかってるから、わたしを頼りに頑張ってくれてる。さて、どうやって距離を稼ごうか。

「脚、大丈夫?」

「我ながら情けないが、やっぱり近くの友軍陣地に逃げ込むとしよう。追ってきたところで引き渡たされることはないだろ。――いででっ」

 リベックシャーは自力で止血を済ませて再び歩き始め、懐から何か取り出そうとし始めた。お夜食かな。

「森を突破して隣の陣地に向かわなかったのは判断ミスだった気がする。……それで、ここは何処だ?」

 リベックシャーは一山越えて安心した様子だけど、その割には不安になる言葉。

「……場所、わからないの?」

「お前を頼りに走って来たんだぞ? わかるわけないだろ。まあ、一応地図はある。人間はこんな暗闇の中では地図が読めないんだ。ほら、代わりに読んでくれ」

 なるほど、言われてみれば当然。

 地図を受け取って目を落とすと、なるほどわかりにくい地図だ。何せここはだだっぴろい原っぱにこじんまりした森ばかり、目印になるものがないし、いまが何処かもわからない。昼間どれだけ進んできたかもわかってない。

「…………?」

「そりゃそうだよなぁ。不味いぞ、なんでこんな日に限って寒くなるんだ? イライラしてくる。落ち着けよおれ」

 リベックシャーは苛立ち気味だけど、感情を抑えようと頑張ってくれてる。巻き込まれた身のわたしとしては怒られたら余計に困る。見捨ててひとりで帰ったっていいんだから。

 まあ、このお坊ちゃんもそれはわかってるような感じはする。こういう比較的にもマトモなニンゲンは神聖連邦じゃ貴重だから、助けておいて損はない。出自によっては後々に期待も持てるし。

 それにしてもこの地図、道らしきものがいくつか描かれてるけど、ハーベスからダン川まで一本道じゃないっけ。どうなってるのこれ。

「あいつら、近付いてきてる。移動しよ」

「真っ直ぐにか?」

「扇状に広がってて、中心より右にずれてる」

「北に向かって走ってきたはずだから、右ってことは東だな。なんにせよ近場の味方の陣地に行くには一度やり過ごすしかない。いっそこのまま東に進んでもいいな」

 リベックシャーは喋りながら歩き始めた。目は慣れてきたのかな。茂みに向かってるけど。

「……そっち、茂み」

「わっ、もう少し早く言ってくれ!」

「バレちゃう。急いで」

 また腕を掴んで、安全なルートを進む。たぶん東に向かってるんだろう。追っ手は右手の脇を通過して、運がよければもう会わなくなるはずだ。ブレイブジャダル将軍のところを目指すとなると、時間が掛かるかも知れないけど、今日一夜を乗り切れば追い付かれる危険も低くなると思う。

「この辺りはもう侵食者の縄張りと言っていいだろうな。気を付けてくれ、おれは何もできないからな」

「……人の姿してるやつなら、なんとかする」

「鉄車やゴーレムが出たら、おれを捨てていけ」

「んー。――あ、ペスティス」

 言ってる傍から出てきた。しかも進んでる先から。

「ペス? なんだそれ」

「侵食者のこと。あっちいこ」

「そうか。お前呑気だな」

 褒められてもいいところを、しれっと悪口みたいなことを言ってきた。お前を生かしてとどけようと頑張ってるのに呑気とはなんだ。もう少し言い方ないの? 拗ねるぞ。

 少しばかり不満はあるけど話すのは嫌だから言葉に出さず、それからしばらくリベックシャーを引っ張って進み、時々リベックシャーがつまずいたり足を取られたりする以外は何事もなく進んだ。

 逃亡兵たちはやっぱり優秀で、わたしたちが進路を変えたのに気付いて追跡してきてる。ペスティスに遮られ足踏みする時間もあったものの、時間が経つにつれて少しずつ距離を縮めてきた。

「まだつけられてる」

「痕跡がバレたのか?」

「ん。足跡が残っちゃうから、追跡は簡単。何処かで出し抜かないと逃げ切れない」

 戦闘中は頼りにならなかったのに、意外と手強いのはお互い様か。リベックシャーはここにきて焦ってるみたい。戦闘は得意だけど追跡を振り切ったり、誤魔化すための知識は乏しいらしい。大人数で派手な服着て歩く軍隊で、個人がこそこそするための技術なんて教わらないよね。

「どうすればいい?」

「岩場があればいいけど……あとはペスティスの群れが通った跡とかあれば、足跡をごまかせるかも。一度追跡を振り切ったら、人手がバラけてるうちに南にいく?」

「そうしよう」

 リベックシャーひとりで隠れてもらって、わたしが追っ手を片付けるのが手っ取り早いと思うけど、やり過ぎると怒られる気がする。悪評が立ったら貴族としても困るよね。

「松明の光が見える。3リゼールもないな」

「この先に川があるみたい。入れば足跡とにおいを消せるけど、凍えて死ぬかも」

「自分が入るくらいならあいつらを放り込む。せめて、川岸が岩場だといいが……」

 なんてことはなく、近付いて見てみれば川岸は砂だった。

 んー、どうせダン川まで続いてるんだし、川沿いを進めば東にいけるよね。つまりそっちが東だ。

「靴底が水に浸かる辺りまで進んで」

「この辺りか? どうするつもりだ?」

「いいから。動かないでね」

 わたしはリベックシャーを掴んで担いだ。川を渡ったように見えるから、判断に迷うはず。あとは足跡を残さずに迂回しながら引き返せばいい。

「重くないか?」

「おもい」

 リベックシャーの足跡を見失わせるにはいい思い付きだ。靴履いてきてよかった。足先だろうと濡れたらぜったいつらくなる。間違いなく貴族さま見捨てて帰る。

 川から離れて少しすると、ブッチたちと擦れ違った。しめしめ、場所が入れ替わっちゃえばこっちのものだ。お先に帰らせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ