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70 心から慕っている方に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされました 終

70




 ポワミエ伯爵領にある邸宅の談話室。

 王都にある邸宅の応接室と同じ、亜麻色のような淡い赤色を含んだ黄色の壁紙に、全体的に胡桃の殻のような茶色の絨毯。家具は装飾が少なく素朴で、優しい部屋の雰囲気になっている。

 違うのは、少し部屋が広いこと。部屋に花が生けられておらず、代わりに庭園を見渡せるほど窓が大きいことくらいだろうか。


 ポワミエ伯爵家の息女であるコレットは、新たに婚約者となったロデールと共に結婚式の打ち合わせの真っ最中。


 この日の打ち合わせ内容は、式の招待客について。

 コレットは親交のある貴族の息女や子息の名前が書かれた紙を見ながら、ロデールに相談する。


「実は私、友人のベライス様を招待しようと思っているのだけれど、良いかしら?」


「そういえば彼女と仲が良かったね。ぜひ、出席していただきたい」


「ありがとう!」


 コレットは感謝し、名簿に丸を付けた。

 次に、ロデールの招待客について質問する。


「ロデール様はどなたを招待なさるの?」


「私は同僚を招待しようと考えている」


「もしかして、手紙を添削していただいてた方かしら?」


 コレットがそう指摘すると、ロデールが気まずそうにする。

 図星なのだろう。


「あ、ああ……。で、でも、今は違う!」


「ええ、存じておりますわ」


 相手の狼狽(うろた)える姿が可笑(おか)しくて、コレットは手で口を隠しながらクスクスと笑う。

 ロデールは眉を八の字にしていたが、どこか嬉しそうだ。


 ひとしきり笑った後、コレットは名簿にメモを取る。

 その間、ロデールは思い出したように、ある包みを取り出す。


「ああ、そうだ。これ、母上からコレットに渡すよう頼まれていたのだった」


 そう言って、コレットへ手渡した。

 両手ほどの大きさで、丁寧に包装されている。

 相手を大切に想っていることが一目で分かるほどだ。


「あら、ベルワーテ侯爵夫人から? 何かしら。開けてみても良いですか?」


「もちろん」


 ロデールから許可を得て、コレットは受け取った包みを丁寧に解く。


 そこには、ベルワーテ侯爵夫人が手作りしたケーキが詰め込まれていた。

 材料を混ぜて焼いただけなので見た目は少々素朴だが、練り込まれている乾燥した果物と甘いバターのほのかな香りが鼻腔をくすぐる。

 しかし以前と違って、クルミが練り込まれていた。

 ロデールが作ったケーキの作り方を一部、取り入れたのだろう。


「母上が張り切っていたよ。コレットのために久しぶりに作ることができて嬉しいと」


「まあ! 私も、侯爵夫人がお作りになるケーキをいただくことができて嬉しいわ!」


 ロデールがベルワーテ侯爵夫人からの言付を伝えると、コレットは嬉しそうにした。


 今まで何度も食べたことはあるが、自分のために作られたケーキはとても美味しかった。それは、ロデールがコレットのために作ったケーキも同じ。

 コレットはロデールにおねだりする。


「ご迷惑でなければ、ロデール様がお作りになるケーキもいただきたいわ。とっても美味しかったもの!」


「コレットが望むのなら、いつでも作るよ」


「嬉しい、ありがとうございます!」


 ロデールから色よい返事をもらったコレット。

 調子に乗って更におねだりする。


「私も侯爵夫人が良ければ作り方を教わろうと考えているの。もし宜しければ、召し上がっていただけませんか?」


「コ、コレットが作ったものなら大歓迎だ……!」


 ロデールは耳を赤くした。恥ずかしいのか、コレットから視線を外して横を向いたが、耳が真っ赤になっている様子がよく分かる。


 コレットは微笑ましく思いながら、侯爵夫人の作ったケーキを見つめる。


 自分もいつか二人の間にできる子供たちに、このケーキを振舞いたい。美味しいと笑顔で言ってくれるだろうか?


 未来について想像しているコレットの様子を、真剣な表情で見つめるロデール。


「なあ、コレット……」


「なあに?」


「実は……」


 根詰めたような表情のロデール。

 以前、見た光景。しかし、コレットに不安など欠片も無かった。彼を信頼しているからだ。


 ロデールは組んでいた手を少し動かした後、ようやく口を開く。


「私には夢がある。その夢を叶えるために、支えて欲しい」


「夢――ですか?」


「ああ」


 ロデールは組んでいた手をギュッと握った。


「私には未熟な部分が多い。精一杯、努力するが、それでも難しいかも知れないと考えてしまうのだ」


 そして、コレットを真っ直ぐに見つめる。


「正式に結婚したら、足りないところを補い合う夫婦になりたい。コレットに未熟なところがあれば私が補う。だから、私の未熟なところはコレットが補ってくれないか?」


 ロデールの語った夢の内容に、コレットは悲しげな表情になる。


「将来のことについては二人で決めることだと思うの……勝手にお決めになって悲しいわ……」


「す、すまない……」


「あ、いえ……こちらこそ、言い過ぎてしまって、ごめんなさい」


 慌てて謝罪するロデールに、コレットも謝罪する。


 二人の将来のことは、改めて時間を設けて話し合いたかった。

 しかし、その必要は無かったのかもしれない。


 なぜなら、コレットの夢は――


「実は私も考えていたの。お互いに支え合っていきたい――て」


 幼いころ、夢中になって読んでいた恋愛小説。

 物語の登場人物のように、互いに支え合って生涯を共にしていきたい。

 今も変わらず、コレットが心から望む夢だ。


 ロデールは耳を赤くさせて、はにかんだような笑顔を向ける。



 これから二人で共に人生を歩みながら、たった一つの夢を叶えていく。

最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございます。


番外編も投稿する予定なので、よろしければお読みください!

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