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67 誘拐されました (4)

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 辺りが真っ暗になり、深夜を回ったころ。木深いせいか、星は所々に見える程度だ。

 未だにコレットは部屋に監禁されている状態だったが、手足を縛るロープから解かれていた。


 協力者の男性がサファイアのネックレスを売りに行って、しばらくはジョイルと不毛な話し合いをした。その後、数時間おきにコレットの様子を見に来るだけで、会話はしていない。


 顔を合わせる度に、ジョイルの様子から彼が焦っていることを、コレットは察していた。


 サファイアのネックレスを売りに行くように命じた、協力者の男性が帰ってこないからだろう。

 内心、そのことで頭がいっぱいに違いない。


 時折、他の協力者の男性たちと話し合っている声が聞こえる。

 今も部屋に面している廊下で不安を吐露し合っているようだ。


 コレットはドアを少し開け、彼らの様子と会話をうかがう。


「帰って来ない……。あいつ……もしかしてネックレスを持ち逃げしたんじゃないだろうな」


 ジョイルはイライラしながら頭をかきむしる。

 それを聞いた他の協力者の男性たちも焦りだした。


「そ、それって、俺らに金が入らねえってことか!?」


「ふざけんなよ! どうすんだよ……俺、もう金ねえのに……」


 彼らは金銭のことばかりで、売りに行った協力者の男性を案じるどころか、非難している。

 その様子をコレットは蔑視するような目で見ていた。


 その視線に気付いたのか、ジョイルが部屋に来る。

 コレットは慌ててドアから後退った。


 バンッ!!


「お前のせいだ! 全部お前の……!」


 ジョイルは乱暴に部屋へと押し入り、コレットに怒鳴った。

 冷や汗をかくコレットは、彼と距離を取るべく後ろに下がる。

 少し遅れて、協力者の男性たちはジョイルを止めに入った。


「お、おい、落ち着けって!」


「そ、そうだ、八つ当たりはよせ。女に怒鳴るなよ」


 落ち着くように促したが、ジョイルは暴走を続ける。


「うるさい! 全部、こいつのせいなんだ!!」


 止めようとする協力者の男性たちに、ジョイルが怒鳴った瞬間――


 バタン!!

 バタバタバタバタ!


「な、なんだ!?」


「こいつら勝手に……!」


「いって!!」


 突然、家に入ってきた大勢の男性たちに、ジョイルや協力者の男性たちは身柄を拘束された。

 特に酷く暴れたせいで、ジョイルは床に叩きつけられるように体を押さえられる。


「コレット、大丈夫か!?」


 大勢の男性たちに遅れて、ロデールが現れた。その後ろからエミードも続く。

 ようやく、コレットは救助が来たのだと状況を察する。しかし、何故この場にロデールがいるのか疑問に思っていた。


「ロデール様……ど、どうして……」


「ポワミエ伯爵から連絡をいただいたのだ。コレットが誘拐されたと」


 ロデールは、コレットのドレスに付いた汚れを払いながら答える。

 慕っている者の顔を見て、コレットは安堵の表情を見せた。


「そう……だったのですね……」


「コレット、怪我はないか?」


 心配そうに聞くロデールに、コレットは冷や汗をかきながらも笑顔で答えた。


「え、ええ……ロデール様の顔を見て安心しました」


 ロデールがコレットの手首を見ると少し赤くなっており、所々かさぶたのようなものができていた。

 慕っている者に怪我をさせられ、ロデールは眉をひそめる。


 すると突然、ジョイルが叫びだした。


「コレット! 全部お前のせいだからな! 僕がこんな惨めな目に遭っているのは!!」


 ジョイルの大声に怯え、コレットはロデールに寄りかかる。ロデールも彼女を守るために自分に引き寄せ、ジョイルを睨みつけた。

 だが、ジョイルは鬱憤が溜まっているのだろう。そんなことでは(ひる)まず、さらにコレットを罵る。


「愛する者の夢は、自分の夢だろう!? お前が僕の夢を応援して、支えてさえくれれば――」


「ふざけないで!」


 場が静まり返る。


 突然のコレットの大声に、周囲は驚いたのだろう。彼女は気にせず、さらに言葉を続ける。


「私の夢は、私が決めるの! 自分の夢を誰かが決めて良いものではないわ!!」


 コレットは、ジョイルが初めて自分に夢を打ち明けられたことを思い出す。

 あの頃は、愛する者から画家になる夢を打ち明けられて嬉しかった。信頼されているのだと実感できたからだ。

 コレットは一度、ジョイルの夢を応援し、支えようとした。


 しかし、それは決して、自分の夢を相手に委ねたわけではない。


 コレットの夢は、心から慕っている人と支え合うこと。

 ジョイルの夢を応援することは、自分の夢を叶えることに繋がると思ったからだ。


 それなのに、ジョイルは画家になる夢を叶えるために平民になる覚悟は無く、相手にすべての負担を強いようとしていた。


 コレットは自分を利用しようとする相手に、気持ちが覚めてしまったのだ。


 彼女の言葉を聞いて、ジョイルは泣き出した。


「くっ……う、ううう……」


 嗚咽と共に、ぽたぽたという音が(かす)かに聞える。ジョイルの顔辺りにある床に、涙がこぼれているのだろう。

 エミードは、元友人の無様な姿を悲痛な面持ちで見ていた。


「……連れていけ」


 エミードが命じると、ジョイルと協力者の男性たちは連行されていった。



 コレットもロデールに支えられながら、監禁されていた家を後にする。

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