66 (ロデール視点)
66(ロデール視点)
それは、宝飾品を主に買い取っている業者からの報告書だった。
高価そうな、青色の宝石が印象的なネックレスの買い取りを求められたが、どう見ても相手の装いは平民。それとなく出所を尋ねたところ、男性が逃亡。不審に思ったので報告したと、いうものだった。
真剣に報告書を読むロデールを不思議に思い、カレドロ伯爵がのぞき込む。
「ただの報告書のようだが……」
「し、失礼いたしました! 混乱していたせいか、混ざってしまったようです」
家令は自身の不手際を謝罪し、ロデールの手にしている報告書を回収しようとしたが制される。
「いえ。私はこの報告書に書かれている“青色の宝石が印象的なネックレス”が気になったので」
ロデールの言葉に、ポワミエ伯爵が思い出したように言葉を発する。
「そ、そういえば、コレットはお守りだと言って、いつもサファイアのネックレスを身に着けていた……!」
再び、ロデールは周りに説明する。
「私はポワミエ伯爵令嬢に、サファイアのネックレスを贈りました。もし、その時のネックレスだとしたら――」
「ポワミエ伯爵令嬢の持ち物を売って金を作ろうとした――その逃亡した奴がジョイルということか!」
息子の言葉に、ベルワーテ侯爵が即座に反応した。
ロデールはさらに付け加える。
「もしくは、ジョイルの協力者か、ジョイルとは関係なく、単にポワミエ伯爵令嬢を狙って誘拐した者か」
報告書を読んでいるカレドロ伯爵。
捜索が進展する糸口を見つけたからだろう。少し心にゆとりが生まれたのか、かすかに表情を和らげる。
「幸運なことに、報告書には逃亡した男性の特徴が詳細に書かれている。その男の確保に目的を絞るよう、すぐにエミードと騎士団に通達しよう」
エミードと騎士団に通達されてから、すぐに逃亡した相手が確保された。
報告を受け、ロデールたちは、すぐに向かうことに。
場所はカレドロ伯爵の邸宅から一番近い街だった。
広場でうろうろしていた男性を不審に思い、住民が通報。その、うろうろしていた男性こそが、宝飾品の買い取り店から逃亡した男性だった。
「な、何なんだよ、お前ら!!」
屈強な体つきの男性は広場のレンガに突っ伏し、後ろ手の状態で押さえ込まれていた。激しく暴れたが、体を押さえている騎士はびくともしない。
騎士と共に捜索していたエミードは、ロデールたちが到着したことに気付いて状況を説明する。
「住民から通報された内容に、捜索中の男性の特徴が当てはまっていたので急行したところ、広場にいたので確保しました」
さらにエミードは、両手でサファイアのネックレスを広げる。
「男の体を探ったところ、こちらを発見しました。報告書に記載されていた“青色の宝石が印象的なネックレス”はこちらのことかと」
「間違いない……! コレットに贈ったものだ!」
ロデールは思わず声を上げた。
早く娘に会いたくて焦っているポワミエ伯爵は、屈強な体つきの男性に声を荒げる。
「おい、このネックレスをどこで入手した!」
「き、貴族様――ジョイルにもらったんだ。友情の証だって」
屈強な体つきの男性は目を泳がせる。
その様子を、ベルワーテ侯爵は冷めた表情で見ていた。
「嘘だな」
「嘘じゃねえ! 貴族のジョイルにもらったんだ!!」
「なら、その貴族の家名は?」
「し、知らねえよ……確かベルなんとかって言っていたような……」
しどろもどろになる屈強な体つきの男性に、助け舟を出すように教えるベルワーテ侯爵。
「ベルワーテ侯爵家か?」
「そ、そうだ!! そこの跡継ぎにもらったんだ!!」
それを聞いたベルワーテ侯爵は、険しい表情を相手に向ける。
「私がベルワーテ侯爵家の当主だが、ジョイルなんて子供はいない。私の子供は、ここにいるロデールただ一人だ。もちろん、跡継ぎもな」
ベルワーテ侯爵は冷静に事実を述べた。
血筋で言えばジョイルもベルワーテ侯爵の子供に違いないが、すでに親子の縁を切っている。
しかし、屈強な体つきの男性は信じない。
「い、いくら俺が平民だからって、騙そうとしても、そうはいかねえぞ!!」
「なら、この家紋で理解できるか?」
ベルワーテ侯爵は、家紋の刺繍が入ったハンカチを相手に見せる。
残念なことに、屈強な体つきの男性は平民。その家紋がベルワーテ侯爵家のものか判別が困難なようだ。
「それが、ベルなんとかの家紋である証拠もないだろう!!」
それを聞いて、ロデールは屈強な体つきの男性の前に立ち、屈んだ。
「では、この紋章はどうだ?」
見せたのは、この国の王室騎士であることを証明する徽章だ。
「これは、この国の王室騎士であることを証明する紋章だ。意匠として取り入れられている、中央の紋章――」
ロデールは、徽章の中央にある紋章を指さした。
「これは王家の家紋だ。一度は見たことがあるのではないか?」
掲示板に王家からのお触れが出される際、王家の家紋も描かれている。平民である屈強な体つきの男性でも目にしたことがあるのだろう。
その王家の家紋を意匠に取り入れている王室騎士が、ベルワーテ侯爵だと言い張る男性の隣に立っている。
ベルワーテ侯爵の語ったことが真実だと理解したのか、屈強な体つきの男性は震えだし、汗をかきだした。
「そ、そんな……。俺たちは……ジョイルに騙されていたって言うのか?」
項垂れる相手に、ロデールは怒りを滲ませながら冷たく命令する。
「さあ、ジョイルの居場所まで案内しろ」
【2026.7.23】
“私兵”から“騎士”へ修正しました。申し訳ありません。




