62 誘拐されました (2)
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「コレット……助けてくれ……」
ジョイルの悲痛な叫び。
コレットは幼少期、ジョイルに悩みを聞いてもらった時のことを思い出す。
あの頃は領主教育に挫けそうになり、爵位を継ぐ重圧で押し潰されそうだった。しかし、ジョイルに助言をもらって実行に移した結果、余裕を持って領主教育の勉強に打ち込めるように。
弟のサロモンが生まれたことで爵位を継ぐ権利は失われてしまったが、そのことは今でも感謝している。
当時は彼に助けてもらった。今度は自分が恩に報いる番だ。
そう結論を出したコレットは、ジョイルを真っ直ぐに見つめる。
「分かりました。私から父にお願いして、貴方の就職先を斡旋してもらえるように――」
「それじゃあ、意味がないんだよ! 僕は貴族に戻りたいんだ!」
床に這いつくばり、貴族に戻りたいと叫んだジョイル。
彼女からの提案に不満を持ち、更に垂れ流す。
「就職先を斡旋するということは、平民のままなんだろう!?」
ジョイルはみっともなく泣きながら文句を言う。
手で何度も床を叩き、癇癪を起した。
「僕の父上に籍を戻してくれるよう説得してくれるとか、爵位を継ぐ令嬢との縁を取り持つとか、跡継ぎを探している貴族を紹介してくれるとか! どうして、そんなにお前は察しが悪いんだよ!!」
情けない彼の様子を、コレットは冷めた目で見ている。
仮に説得や紹介をしたとしても、相手が応じてくれる可能性は極めて低いだろう。
ベルワーテ侯爵はジョイルに酷く失望している。彼の醜聞は社交界で広く知られているので、婿や養子に迎えると家名に傷が付く。
ふと、コレットの脳裏に懐かしい記憶がよみがえる。
記憶にあるのは、堂々と立っている幼いジョイルの姿。
その姿は、侯爵位を継ぐに相応しい風格をしていた。
ああ……もう、あの頃の彼はいないのね……。
はっきりとジョイルへの気持ちが霧散したのを感じたコレット。
「そうね。以前、貴方が言ったように私は感性が乏しいから、察しも悪いのかもしれないわ」
コレットは、婚約破棄の話し合いの席でジョイルが放った言葉を口にした。
「う……。そ、そんな小さなこと……いつまで根に持って……」
自身が過去に吐き捨てた言葉に覚えがあるのだろう。ジョイルは自分が墓穴を掘ってしまったことに後悔する。
彼は小さく呟いた後、押し黙った。
しかし、コレットは厳しく追及する。
「そもそも、画家になる夢はどうしたの? デシャン男爵領にいたと聞いていたのだけれど」
「くっ……!」
コレットの言葉に、ジョイルは悲しげな表情をする。
彼の表情を見なくても何となく察していた。
ジョイルの絵は画家として通用するとは到底、思えない。大方、逃げ帰ってきたのだろう。
彼は芸術に理解のあるデシャン男爵領で、現実を知ったのだと容易に想像できる。
「ジョイルさん、もう一度言うわ。」
再び、コレットは提案する。
「貴方達がすぐに私を帰してくれるのなら、罪を償った後に就職先を斡旋してもらえるよう父にお願いするわ」
ジョイルは沈黙している。
身の振り方を考えているのかもしれない。
コレットとしても、過去に慕っていた想い人が重罪になるのだけは避けたいと考えていた。愛は無くても、情はあるからだ。
それに、親子の縁を切ったとしても、ベルワーテ侯爵家にどのような影響を及ぼすか分からない。
「ダ、ダメだ! 僕とやり直してくれるまで帰さない! もう平民は嫌なんだ!」
ジョイルの出した答えを聞き、コレットは落胆する。
「コレットとやり直せば、罪を償う必要だってないんだ!!」
どこまでも身勝手な彼に、コレットは腹立たしさを感じていた。




