60 仕事で他の領地を訪れました (2)
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熟考していたポワミエ伯爵が口を開く。
「戻ろう。ポワミエ領に」
「本当によろしいのですか?」
ポワミエ伯爵の決断に、コレットは確認する。
次回、カレドロ伯爵と会う機会が訪れるのは、いつになるか……。
そう彼女が心配していると、ポワミエ伯爵は安心させるように答える。
「ああ、コレットに何かあってからでは遅いからな。平民たった一人に情けないが……。カレドロ伯爵も早馬を飛ばしてまで知らせてくださったのだ、話し合いを別の日にお願いしてもご理解いただけるだろう」
ポワミエ伯爵は娘の身の安全を第一に考えた。さらに、今回知らせてくれたカレドロ伯爵も、事情を理解してくれるだろうと踏んでの決断だ。ここは一旦、引いて、再び態勢を整えてから臨むべきだと。
「それに、引き返さないとロデールくんに叱られそうだ」
そう苦笑いをしながら、コレットの未来の夫に対しても気遣った。
「ありがとうございます」
父親の決断に、コレットは感謝の言葉を口にした。
ポワミエ伯爵は今後の予定を口にする。
「準備が整い次第、明日の朝にはホテルを発つ」
「分かりました」
ポワミエ伯爵は、カレドロ伯爵の遣いの者に手紙を渡す。
知らせてくれたことへの感謝、万が一に備えて領地に戻ること、後日、話し合いの予定について、すり合わせをしたい旨が綴られていた。
翌日の朝、ポワミエ伯爵とコレットは出立の準備を整えていた。
「我々がカレドロ伯爵領にいることを、奴に気付かれる前に発たなくてはな。どこかで知られていたり、見られている可能性がある」
「ええ、そうですね」
もしかしたら、どこかで自分たちがカレドロ伯爵領にいることを知られ、なにか仕掛けるつもりかもしれない。
まだ、ジョイルには知られていないという楽観的な見方は捨て、警戒しながら行動していた。
「ねえ、おねえさん。おねえさんの おなまえ、コレットっていうの?」
小さな女の子が話しかけてきた。歳はコレットの弟、サロモンと同じくらいだろうか。
不審に思ったコレットは屈んで女の子の背丈に合わせ、聞き返す。
「どうして?」
「あのね。もんのところで、おとこのひとが さがしてたよ」
コレットを探しているということは、ジョイルかもしれない。
コレットは更に女の子に質問する。
「その男の人は、どのような様子だった?」
「うーんとね、いっぱいの おとこのひとと いっしょだったよ」
横で聞いていたポワミエ伯爵も警戒心を強める。
コレットは話しをしてくれた女の子にお礼を言うと、その子は満面の笑顔でどこかへ走り去った。
「すでに、気付かれていたか……遠回りになるが、別の道から帰ろう」
「はい」
ポワミエ伯爵は護衛や御者に、帰り道の変更を伝えた。
ホテルを発ってから一時間ほど。
ポワミエ伯爵一行は見晴らしの良い場所を走っていた。草原が広がり、遠くに山が見える。
ジョイルだけでなく、野盗にも警戒しているのだ。
しばらくすると、御者によって町が見えることを伝えられ、ポワミエ伯爵はそこで休憩することに決める。
町に入り、適当な店の前に馬車を止めた。
先にポワミエ伯爵が降り、コレットも続いた。
その時――
「きゃ!!」
数人の護衛がコレットの体を抱え、列を離れる。
「コレット!!」
「お嬢様!!」
ポワミエ伯爵と侍女が叫ぶ。
他の護衛はまさかの事態に対応が遅れてしまった。
その隙に、コレットを拉致した数人の護衛は彼女を抱えて逃走。
コレットを救出しようとする他の護衛は、彼女を拉致した数人の護衛を追いかける。
「待て!」
救出しようとする他の護衛に追いつかれる前に、コレットを拉致した数人の護衛が近くにあった荷馬車を奪う。そして、荷台部分に彼女を放り込んだ。
ドン!!
「痛!!」
コレットは床に手を突き、衝撃を和らげたが、それでも激痛を伴った。
もしかしたら、手が擦りむいたかもしれない。
コレットを荷台に乗せ、彼女を拉致した数人の護衛も荷馬車に乗り込む。
その間に、救出しようとする他の護衛の数人は追いつき、荷台部分へ。
しかし、コレットを取られまいと、彼女を拉致した数人の護衛はすぐに馬を全速力で走らせる。
ヒヒーン!!
「うわ!!」
救出しようとする他の護衛はしがみついたが、耐えきれず振り落とされてしまった。
とんでもない速さで駆ける馬車。大きく揺れる荷台部分で、コレットは激しく抵抗する。
「い、嫌! 放して!!」
「大人しくしろ!!」
抵抗するコレットを鬱陶しく思ったのか、コレットを拉致した数人の護衛は彼女の体を乱暴に押さえつける。
自身を拉致した数人の護衛に体を押さえられ、動けなくなった隙にロープで縛られる。腕を後ろに痕ができそうなほど縛られ、次に足の部分にも同じように縛られた。
その最中、コレットは痛みに耐えながら自身を拉致した数人の護衛を見る。
よく見ると、ポワミエ伯爵領の私兵が着る服と少し違っていた。
通常より護衛の数を増やしたことで、偽物が混ざり込んでいることに気付かなかったのだ。
ポワミエ伯爵領の私兵を知っているということは、同じ貴族だろう。着る服まで知っているとなると、何度も会ったことのある人物に限定される。
走る馬車の中、コレットは確信する。
自分を拉致するように指示した首謀者は、ジョイルだと。




