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私の夢は私が決める ~婚約者に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされましたけれど、勝手だと思いませんか?~  作者: ほし


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58 (ジョイル視点)

58(ジョイル視点)




「君は、ポワミエ伯爵家のご令嬢に対して、そんな酷いことを要求していたのか?」


「え……?」


 状況を理解できないジョイル。

 エミードは汚いものを見るような表情をする。


「金を使うなとか、ポワミエ伯爵令嬢に押し付けた仕事を自分がしたように装えとか……心底、軽蔑するよ」


 エミードはジョイルがそこまで相手に要求していたことを知らなかったのだ。


 ジョイルは過去に要求したことを、コレットが社交界にすべて流したと思っていた。まさか、秘匿していたものも存在したことに驚く。

 画家になるためには、多くの金銭が必要だと思ったからだ。押し付けた仕事を自分がしたように装えと要求したのは、侯爵位を継いだのに格好がつかないから。画業が忙しくて仕事ができないなんて格好悪い。

 もう、画家になる夢を諦めたのだから、今となっては何の意味も無いが……。


「で、でも、僕は許されるよ。だって、兄上は勉強ができないんだから。必ず、父上は僕に泣きついてくる! ベルワーテ侯爵位を継ぐことができるのは僕だけだ!!」


 ジョイルは、後継者に相応しい人材は自分しかいないと説いた。勉強が苦手な兄では不適格なのだからと。

 しかし、エミードは呆れながら説明する。


「君も領主教育を受けていたのに知らないのか? 騎士になると装備を揃えるための資金集めに、小規模の領地を与えられるんだ。ベルワーテ侯爵もそのことはご存じのはずだから、ロラ卿が侯爵位をお継ぎになるだろう。領主としての知識は、ある程度お持ちだろうからね」


「な……あ!」


 ジョイルは大きな声を上げる。

 領主教育を受けていた時、騎士は爵位と共に小規模の領地が与えられることを思い出したのだ。


 エミードに教えられ、父親にとって自分には価値が無いことを知ったジョイルは俯く。


「今日、君に会ったのは、最後に別れを告げるためだ」


 エミードはジョイルに冷たく言い放つ。

 冷たい態度の友人に、ジョイルは憔悴したような表情で見つめる。


「本当に……最後なのか……?」


 ジョイルの言葉に後ろ髪を引かれる思いをしたのだろう。エミードは小さく溜息を吐いた。


「まあ……元友人の(よしみ)だ。軽食ぐらいは用意させよう」


 そう言って、エミードは近くにいた使用人に顔を向ける。


「そこの“平民”のために、サンドウィッチを用意するように」


「承知いたしました」


 エミードの命令を受けた使用人は頭を下げた後、邸宅の方へ走り出す。



 “平民”――ジョイルは友人の口から発せられた単語に落ち込む。

 これはジョイルとは縁を切るという意思表示として、わざと口に出したのだ。


 エミードの中では、もう友人ではないのだと、ジョイルはまざまざと思い知らされる。



 友人を頼って、ジャケットを売ってまでカレドロ伯爵領を訪ねたジョイル。

 エミードなら助けてくれると思っていた彼の切実な願いは、無残にも打ち砕かれることになった。



 カレドロ伯爵邸から追い出されたジョイルは、邸宅から一番近い街に来ていた。


 王都ほどではないが、そこそこ賑わっており、いくつか屋台が出ている。

 生鮮食品を扱う市場はもちろん、肉を焼いたもの、長くて大きいパンに野菜やチーズを挟んだもの、手軽に食べ歩きできるガレットなどが軒を連ねていた。


 中でも、屋台の数が一番多いのはブドウ酒を扱う店だ。

 カレドロ伯爵領の名産品だからだろう。多くの屋台が出ているのに、どこも客でいっぱいだった。


 ジョイルはベンチに腰を下ろし、手に持っている薄汚れた紙の包みを見つめる。

 エミードが使用人に用意させたサンドウィッチだ。

 今まで軽食を用意してもらったことは何度もあったが、いつも白い綺麗な布で包んでもらっていた。しかし、今持っているものは何かを書き損じたのか、文字が書かれていた。


 包みを解く、カサカサという紙の乾いた音が虚しい。

 中にはサンドウィッチが四切れほど入っていた。


「うう……グス……」


 自分が平民である現実を突きつけられる。

 ジョイルは思わず涙をこぼしながらサンドウィッチを一つ手に取り、頬張る。


 画家になりたいなど言い出さなければ、こんなことには……。ジョイルはサンドウィッチを口にしながら、自身の選択に後悔していると、あることを思い出す。


「コレットは今でも、僕のことを愛しているんじゃないか?」


 倹約を強いたこと、仕事を自分がしたように装うよう命じたことを、エミードは知らなかった。きっと、僕の名誉をできるだけ傷つけたくないから隠していたんだ。

 これは今でも自分を待っているという、なによりの証拠だと、ジョイルは都合よく解釈した。


 コレットに会えば、自分の人生を取り戻すことができる――と。


 ジョイルはサンドウィッチをすべて平らげ、なんとなく包み紙に使われた紙を見る。

 町の掲示板に貼る用に書かれたものなのだろう。日時やカレドロ伯爵領の地名が書かれていた。


 文字を読んでいると、ジョイルはあることを知って目を見開く。



 その包み紙は、ポワミエ伯爵とその息女が、カレドロ伯爵領を訪れることを住民に掲示板で知らせるお触れだった。

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