53 領地に戻りました (6)
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掌より一回り大きい箱。その箱を、コレットに向けて開く。
「まあ! とっても綺麗!」
美しいサファイアが、一際、目を引くネックレスだった。
サファイアは親指ほどの大きさで深い青色をしており、周りに小さなダイアモンドがあしらわれている。
その下には、小さな雫の形をしたサファイアが連なり、とても可愛らしい。サファイアの周りにもダイアモンドがあしらわれていたが、少し間が空いているので別々に揺れるのだろう。
ロデールはコレットに、ネックレスを差し出す。
「コレットに自分の想いが通じたら渡そうと思っていた。良ければ、受け取って欲しい」
深い青色のサファイアはまるで、ロデールの瞳のようだ。
彼の意図を察するコレット。
「ありがとうございます。大切にしますね!」
コレットはロデールから、ネックレスを受け取る。
「あの、こちらのネックレスを今、身に着けてみても宜しいですか?」
「ああ! もちろん!」
ロデールから許可を得たコレットは、一旦ネックレスを彼に預けてお願いすることに。
後ろを向く直前、ロデールの様子をうかがう。コレットにネックレスを着けることになった彼は、さらに耳を赤くし、全体的に真っ赤になっていた。
ネックレスを着けてもらっている間、小刻みな振動がネックレス越しに伝わってくる。きっと、緊張しているのだろう。そのせいか、着けるのに、かなり苦労しているようだ。
今も全体的に耳を真っ赤にさせながら悪戦苦闘していると思うと、とても可愛く感じる。
想像したコレットが静かに口元に弧を描いていると、ロデールに後ろから声をかけられる。
「父上から聞いたけれど、クレイトロワ公爵令嬢が主催のお茶会で、私たちの悪評を払しょくするよう掛け合ってくれたそうだね。とても助かったよ、感謝する」
そういえば――と、ベルワーテ侯爵に侯爵夫人とロデールにと贈り物の茶葉を託した際、感謝されたことを思い出すコレット。彼もまた、いわれのない悪評に苦しめられていたのだろう。
しかし、悪評を払しょくできたのはコレットが動いたからではない。
「いいえ、クレイトロワ公爵令嬢が弁明の機会を作ってくださったのよ。ご配慮がなければ、領地運営や事業に影響があったかもしれないわ」
それに――と付け加えながら話を続ける。
「ロデール様の人徳があったから、クレイトロワ公爵令嬢に目をかけていただけたのよ」
オフェーヌが気にかけてくれていたのは、ロデールが公爵家で修練を積み、彼女の信頼を得ていたからだ。自分はそれに乗っかっただけだと、コレットは主張した。
「私の方こそ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
コレットが感謝すると、ロデールは受け入れた。
そのことが可笑しいのか、コレットはふふっと笑い出す。
ロデールは、彼女が笑ったことに疑問を抱く。
「どうした?」
「いえ、お互いに感謝の言葉を言い合ってばかりですね」
コレットが理由を言うと同じように、ふふっとロデールも笑う。
「そうだな」
そう言った後、ロデールが自分から離れる気配をコレットは感じ取った。
「終わったよ」
「ありがとうございます」
上から見下ろすと、サファイアやダイアモンドがキラキラと輝いていた。
正面に向き直ったコレット。そして、微笑みながらロデールを見る。
「どうでしょうか?」
「とても似合っている」
似合っているかを聞かれ、ロデールは答えた。
耳だけでなく、頬も赤くさせて。
その様子に、コレットは本心で答えてくれたのだと感じる。
「嬉しい。本当に、ありがとうございます」
再び、コレットは感謝を伝えた。
しばらくすると、部屋の外で待機していた使用人が入室する。
使用人が、コレットに贈られたネックレスが似合っていることを伝えると、二人は幸せそうな表情をした。
ネックレスが似合っていると褒められただけで、こんなに幸せなのだ。
結婚したら、どのような幸せが待っているのだろう。
コレットは今ある幸せに、充足感を味わった。
ロデールが二杯目の紅茶を飲み終わったころ、帰り支度を始める。日が暮れる前に、宿泊予定の宿まで着いておきたいのだろう。
コレットは使用人を伴って、玄関先まで見送ることに。
「それでは、道中お気を付けくださいませ」
「ああ」
「ロデール様が無事、領主教育を終えられますよう心より祈っておりますわ」
「ありがとう。コレットも、あまり無理をしないように」
「ありがとうございます」
ロデールは馬車に乗り、出発する。
徐々に走らせる速度は上がり、あっという間に小さくなった。
コレットは馬車が見えなくなるまで見送っていた。
その様子を見守っていた侍女が、コレットに話しかける。
「寂しくなりますね、お嬢様……」
「いいえ」
コレットは鎖骨の部分で輝くネックレスに触れる。
以前なら寂しく思っただろうが、今は違う。
コレットには、ロデールから贈られたネックレスがあるからだ。
「ロデール様はいつも、見守ってくださるわ」
コレットがそう呟くと、美しい深い青色のサファイアが意志を持ったように煌めいた。




