50 領地に戻りました (3)
50
ポワミエ伯爵邸にあるコレットの自室。
そこでは、ドレス選びに頭を悩ませるコレットの姿が。
実は、ロデールからの手紙には、ポワミエ伯爵邸に訪れる旨が書かれていたのだ。
彼に少しでも自分を良く見せたい一心でドレスを選んでいるが、なかなか決まらない。
「こちらのドレスが良いかしら。でも、あからさまよね……」
「ロラ卿はお喜びになると思いますよ」
コレットが指さしたのは、ロデールの瞳と似た深い海のような青色のドレス。
上半身を中心に、至る所にダイアモンドで作られた花が縫い付けられ、海に白い花が咲いているように見える。裾に向かって広がっており、幾重にも重なったフリルはまるで波打ち際のよう。
自分の気持ちを暗に伝えるには一番、適切だと考えたが、少し迷っていた。誰の目から見ても分かりやすいので恥ずかしく思っているのだ。
しかし、侍女からの言葉を聞いて考えを改める。
「……じゃあ、こちらのドレスにするわ」
「ふふ、承知いたしました」
コレットがようやくドレスを決め、侍女達はすぐに支度を始める。
鎖骨の部分にはドレスの白い花に合わせて、ダイアモンドのネックレスが。髪型はひとまとめにして巻き、前へ垂らした。
「お嬢様、いかがでしょう」
「わあ! とっても大人っぽくて素敵ね。ありがとう」
侍女たちに美しく着飾ってもらい、コレットは悦に入る。
私の姿を見たら、ロデール様はどのような表情をなさるかしら。
耳を赤くしていただけたら嬉しいわ。
コレットはロデールが耳を赤くさせる様子を想像し、可愛らしい笑顔を浮かべた。
しばらくして、使用人からロデールがポワミエ伯爵邸に到着したことを知らされる。
コレットはロデールの体調が気がかりだった。しかし、彼の姿を見て、想像していたものより、ずっと元気そうで安心する。
「いらっしゃいませ、ロデール様。お会いできて嬉しいです。どうぞ、お入りになってください」
そう言って、邸宅内へ招く。
「ああ、私もコレットに会えて、とても嬉しいよ」
ロデールは言い終わるや否や、みるみるうちに耳を赤くさせる。
ドレスを見て赤くしてくれたのだろうかと、コレットは自身の意図した通りになったことを期待した。
その時――
「こんにちは!」
玄関にある二階の部分から姿を現したサロモンは、コレットやロデールに向かって階段を駆け下りる。
「お邪魔してしまって、ごめんなさいね。サロモン、ダメでしょう!」
サロモンを追いかけるように、ポワミエ伯爵夫人や乳母が姿を現す。
「構いませんよ、ポワミエ伯爵夫人。どうか、ご無理をなさらないでください」
ポワミエ伯爵夫人が体調を崩していることを知っているのだろう。伯爵夫人を気遣うと、ロデールはサロモンの背丈に合わせて屈む。
受け入れてもらえたことを察し、サロモンは嬉しそうに彼の前へ。
「初めまして、ポワミエ伯爵令息。私はロデール・ロラ。覚えていただけたら嬉しいです」
「はじめまして。ぼくの なまえは、サロモンだよ!」
ロデールが自己紹介をするとサロモンも名乗った。その後、サロモンはあることに気付き、ロデールとコレットを確かめるように何度も見比べる。
「おにいさんの おめめ、とっても きれいだね。おねえさまが きているドレスのいろに そっくり!」
サロモンに指摘され、ロデールの耳は一層、赤く染まる。それと、ほぼ同時にコレットも顔を赤くさせた。
伯爵夫人や乳母はこれ以上、場を荒らしてはならないと思い、サロモンを誘導する。
「サロモン、これ以上は邪魔になるから、あちらで遊びましょう」
「坊ちゃま、おやつも御座いますよ」
「はーい。おにいさん、またね!」
伯爵夫人や乳母は二人に頭を下げ、乳母に抱っこされたサロモンは手を振りながら去って行った。
少し気まずい雰囲気に場が静まり返る。
そんな中、先に口を開いたのはコレットだ。
「あの……弟が失礼いたしました」
「い、いや……」
「えっと、ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
「……ありがとう」
コレットは弟の非礼を詫び、部屋へと案内することに。その半歩ほど後ろをロデールが続く。
サロモンのお陰で、ロデールの気持ちを知ることができた。
しかし、それと同時にコレットの気持ちも周りに知れ渡ることとなり、消え入りたくなるほど恥ずかしくなった。




