47 (ジョイル視点)
47(ジョイル視点)
「おかしい……何で皆、僕の絵の素晴らしさが分からないんだ!」
ジョイルは大通りにある画廊を回ったが、ことごとく取り扱いを断られてしまっていた。どの画廊も歯切れが悪く、遠回しに絵が下手だと伝えられ、彼の機嫌が悪くなっているのだ。
今から向かっているのは、大通りにある最後の画廊。
ここに断られると、大通りにある全ての画廊に断られることになる。
「この画廊で最後か……」
最後の画廊はこじんまりとしていた。
一階の部分の窓は人が出入りできるほど大きいので、中の様子が良く見える。大通りを歩く人に立ち寄ってもらうことを期待しているのか、大通りに向かって絵を見せるように展示されていた。
最初の画廊と比べると明らかに建物が小さい。あるていど経済的に恵まれていれば、平民でも気軽に立ち寄れるほど親しみやすい雰囲気を醸し出している。
ジョイルは不服なのだろう。舌打ちをした後、苛立たせながらドアを開ける。
中は民家より少し広い程度。天井や梁は木の本来の色だが、絵を良く見せるためか壁を白色にしている。
こじんまりとしているせいで展示できる絵に限りがあるのか、入ってすぐの入り口にも絵が飾られていた。
絵の下に表記されている作者は、知名度の低い者ばかり。そのせいか、値段は手ごろで、売約済みの札がいくつもの絵の額縁に貼られている。
正面に飾られている絵も油絵で、しゃがんだ平民の子供が、パンを子犬に分け与えている場面を切り取ったものだ。
場所は路地裏らしいが、光が至るところに描かれているので明るく見える。
子供の持っているパンは一口大ほどに千切られ、子犬の前に差し出していた。子供と犬の目の輝きが美しく、両者の純粋さと、これからの明るい未来を暗示しているかのようだ。
一点に集中させる効果もある、一点透視図法を用いられているせいだろう。子供と子犬に焦点が当たり、より強調するように工夫されている。子供と子犬よりも、背景が薄い色で表現されているのもあるかも知れない。
平凡だが、とても微笑ましい絵だ。
しかし、その絵を見たジョイルは鼻で笑う。
「なんて、つまらない絵だ。この程度なら、僕の絵も喜んで展示してくれるに違いない」
ジョイルが画廊に入店したことを知り、誰かが小走りで近付いてくる。
「いらっしゃいませ。なにかご用でしょうか?」
おそらく画商だろう。灰色の髪を後ろに流した壮年の上品な男性だ。
朗らかな笑顔でジョイルを出迎える。
「僕の絵を、ここの画廊に展示してもらいたいんだ」
「ありがとうございます。それでは早速、作品を拝見しても宜しいでしょうか?」
「ああ」
ジョイルが絵の展示をしてもらうよう申し出ると、画商の男性は作品の梱包に使った布を丁寧な手つきで解く。
その様子をジョイルは腕を組みながら待つ。
画商の男性が梱包を解き終わり、作品を目にすると、ジョイルに対して申し訳なさそうな表情をする。
「申し訳ありませんが、こちらの絵は弊画廊ではお取り扱いできません。大変、申し上げにくいのですが、もう少し絵の腕を磨かれた方が――」
「はあ!? こんなに素晴らしいのに、なぜ拒否するんだ! どう見ても、僕の絵がこの画廊で一番、上手だろ!! 画商のくせに、そんなことも分からないのか!?」
ジョイルは、画商の男性に抗議する。
自分に絵の才能があることを信じているのだ。だからこそ、なぜ展示を断られるのか理解に苦しむのだろう。
さらに、画商の男性はおそらく平民。貴族だった自身の絵を、平民に拒否されて苛立っているのだ。
「失礼いたします……」
画商の男性は一言断り、絵を持ち歩く。
その後を、ジョイルは酷く苛立たせた様子で追う。
画商の男性は入り口で立ち止まり、先ほどの平民の子供がパンを子犬に分け与えている絵の横に並べるように掲げた。
平民の子供がパンを子犬に分け与えている絵と、ジョイルの描いた絵を、同時に見比べることができるように。
「あ……」
ジョイルは愕然とする。
なんて自分が描いた絵は、幼稚で拙いんだ。
入り口にある絵と僕が描いた絵を見比べたら、差は歴然じゃないか。
まるで、大人の描いた絵と子供の描いた絵ほど違う。
ようやく、彼は自分の絵の実力を正確に把握した。
そんな、愕然としているジョイルをよそに、画商の男性は持ち込まれた絵を丁寧に布で包む。
「申し訳ありません。お引き取りください」
画商の男性は少し頭を下げながら、恭しく持ち主に絵を返す。
まるで高価なものであるかのように。
すると、どこからか声が聞こえる。
「ねえ、あの方……」
「確か、侯爵家のご令息だったような……」
気付かなかったが、数人ほど客がいたのだ。
しかも、ジョイルを知っているということは、おそらく貴族。
「っ……!」
画商の男性から、ジョイルはひったくるように自身の絵を受け取り、逃げるようにして画廊を出た。
顔を真っ赤にして大通りを駆け抜ける。何人もの人にぶつかったが、気にする余裕はなかった。
それは怒りではなく、羞恥心からだ。




