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私の夢は私が決める ~婚約者に「夢を叶えるために支えて欲しい」とお願いされましたけれど、勝手だと思いませんか?~  作者: ほし


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46 (ジョイル視点)

46(ジョイル視点)




「よし、完璧だ!」


 自宅でジョイルは完成した油絵を、ようやく丁寧に布で包み終えた。


 きっと、この絵は将来的に何百億もの価値を持つようになる。絶対に傷一つ付けてはならない。

 多くの人の目に触れ、思わず涙があふれてしまうほど感動させ、いつまでも人々の心に残り続けるだろう。

 そして、この絵を描いた自分は世界中から称賛され、その素晴らしさが後世にまで語り継がれるのだ。


「はあ、油絵を描くのに意外と時間がかかったから、依頼を受ける時は製作期間を長めに取るようにしないとな。その間も生活していくために、製作費の他に生活費も多めに請求しよう。遊興費も必要になるかもな」


 自分が描くのだ。依頼主はいつまでも待つだろうし、言い値でも喜んで支払うはずだと、ジョイルは根拠のない自信を持つ。


 外出する準備をし、先ほど包み終えた絵を両手でしっかりと抱える。



 ジョイルが目指しているのは、大通りにある中で一番、有名な画廊。

 他の画廊より段違いに大きく、立派な三階建ての建物だ。ゆっくり絵画を鑑賞して欲しいのか、庭に常緑樹が植栽されており、一階の部分をすっぽりと覆っている。


 油絵が完成したら最初に持ち込もうと、買い出しで前を通るたびに決意していたのだ。


 ジョイルは早速、有名な画廊のドアを開ける。


 ロビーは広く全体的に白を基調としており、二階の部分まで吹き抜けとなっていた。パルテノン神殿に使われているようなコリント式の柱がいくつも並び、貴族も満足するような高級感を出している。作品を良く見せるためだろう、小さな美術館のようだ。

 正面には受付があり、見目の麗しい男性が深々と頭を下げた。胸元の名札を見ると画商らしい。


 ジョイルは、受付にいる画商らしき男性に声をかける。


「ちょっと良いか? 君はここの画商だろうか?」


「左様でございます。こちらで、画商として勤務しております。私に何かご用命でしょうか?」


 画商であることを確認したジョイルは、笑顔になった。


「そ、そうか! あの、僕の絵を展示して欲しいんだけれど……」


「申し訳ありません。ご訪問いただいたところ、誠に恐縮でございますが、只今、お持ち込みによる絵画のお取り扱いはいたしておりません。改めて、こちらからお知らせさせていただきたく存じますので、本日はお引き取りくださいませ」


 ジョイルが自身の描いた絵の展示を申し出たところ、画商の男性に拒否されてしまった。


「絵も見ずに僕を帰すのか!? 見ないと絶対に後悔するぞ!?」


「ですが、こちらにも予定がありますので……」


「僕は君のために言っているんだ!」


 ジョイルは食い下がる。彼の親切心から忠告したのだが、それだけではない。

 家具や雑貨を売って得た金銭のほとんどは、昨日の酒場で使ってしまった。今、彼の手元にある所持金は残りわずか。


 もう、自身が描いた絵を引き取ってもらって、金銭を得るしかない。


 しかし、画商の男性も引かない。


「申し訳ありません、お持ち込みいただいた絵画を正当に評価したく、そのための期間を十分に設け――」


「あー、もう!!」


 ジョイルは叫んだ後、近くに置いてあるソファーで絵の梱包を解きだす。

 咄嗟のことに、画商の男性は動揺した。


「お客様、困ります!」


 勝手に絵の梱包を解くジョイルを、画商の男性は止めようとするが上手くいかない。

 ロビーで騒いでいると、他の画商や絵画を購入しに来た客が集まりだす。

 そのことに気付かないジョイルは、梱包材として使った布をそこらへんに放り投げ、自信満々に持ち込んだ絵を見せた。


「どうだ! 僕の絵は!!」


 そこには、いつか見たベルワーテ侯爵邸の庭園に咲いていた、赤い大輪の薔薇らしきものが描かれていた。赤い花弁は、鮮やかな赤色のブライトレッド一色で塗られていた。輪郭を黒色ではっきりと描かれているので、どこか平面的だ。

 周りには赤い大輪の薔薇らしきものを引き立たせるように、ピンクや黄色の花のようなものも描かれていた。赤い大輪の薔薇がキャンバスのほとんどを占めているので、とても窮屈そうにしている。

 背景は緑色一色で乱雑に塗られていた。葉や茎を表現するためか、こちらも輪郭を黒色ではっきりと描かれているが、あまりにも拙い。

 ところどころ、色が混じってしまった部分を修正したような跡がある。筆を縦横無尽に走らせたのだろう、跡がくっきりと残っており、修正だと判別できないほど汚らしい。


 誇らしげなジョイルに対し、画商の男性の表情は冷ややかだ。


「見て良かっただろ? この僕に感謝するんだな。それで、いくらの値を付けたい? 僕としては、一億以上が妥当だと考えている」


「申し訳ありません……そちらの絵画は、弊画廊でお取り扱いできません。僭越ながら、画塾に通われるか、すでに画家として活躍されている方に弟子入りすることをお勧めいたします」


 自分の絵に、高値を付けられるほど価値があると思っていたジョイル。

 しかし、画商の男性から暗に下手だと指摘されてしまった。


「なんだと!? 僕の絵が下手だとでも言いたいのか!?」


 そう言うと、ようやく他の画商や客がロビーに集まりだしていることに気付く。

 これ幸いと、ジョイルは絵画を購入しに来た客に自分の絵を見せる。


「絵を買いに来たんだろ!? どうだ、この素晴らしい絵は!! 将来的に何百億もの値が付く絵だが、今なら一億で売ってやろう!!」


 ジョイルは自身が一生懸命に描いた渾身の絵を見せるが、周りの反応は鈍い。


「ああ、分かったぞ! たったの一億だから心苦しいんだな!?」


 見当違いなことを言われ、客は明らかに困惑していた。なにやら客同士で、ざわざわと話しをしている。

 不本意な結果に怒りを滲ませながら、ジョイルは再び自身の絵を梱包し直す。その手つきは、自宅の時よりも少し荒かった。


「ふ、ふん! 後悔したって、遅いんだからな!!」


 他の画商や絵画を購入しに来た客に対して悪態をつき、乱暴にドアを開け、飛び出すように画廊を後にした。



 どいつも、こいつも、なぜ僕が描いたこの絵の良さを理解できない!?

 あの画廊も、画廊にいた客も二流以下だ!!



 心の中で愚痴を吐き捨てるジョイルは、憤りで顔を歪ませながら別の画廊へと向かった。

【2026.6.26】

『買い取り』ではなく『展示』でした。申し訳ありません。

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