40 お茶会に招待されました (8)
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「申し訳ないけれど、侍女ならポワミエ伯爵令嬢から、あらかじめ有利な証言をするよう指示されていたのでは?」
「私は侍女に、そのようなことを指示しておりません」
オフェーヌの疑問に、すかさずコレットははっきりと否定する。
否定したからといって、証言の信憑性は皆無のままだ。オフェーヌとの信頼関係は希薄で、コレットには悪評が立っている。
コレットの言葉を信じろと言っても無理だろう。
「ポワミエ伯爵令嬢のことを信じろと?」
話にならないとでも言いたげに、オフェーヌは笑顔でコレットに再び問いかける。
「クレイトロワ公爵令嬢は、私を信じてくださいますわ」
コレットは断言する。
彼女には、確信があった。
「あら、どうしてそう言い切れるのかしら?」
オフェーヌは幼子に話すような口ぶりで、優しく問いかけた。
コレットは真剣な面持ちで答える。
「こちらのお茶会に、私を招待してくださったこと自体が証拠です」
良識のある貴族なら、評判の悪い者を邸宅に招くことは無い。周囲に同類と思われ、家の評判が落ちるからだ。
家の爵位や家格が上がるにつれ、個人の感情より家の格式を重んじる。公爵家ともなれば、尚更その傾向は強まる。
しかし、オフェーヌは自身が主催するお茶会にコレットを招待した。
これは、ある程度コレットを信頼し、事情を聞く用意があるということ。普段から素行の悪い息女とは違い、急にコレットに悪評が立ち始めたので気になったのだろう。
貴族の最上位に立つ公爵家の者として、噂で乱れた社交界を正そうと考えているのだ。
その証拠に、オフェーヌは自身の婚約者から贈られた貴重な植物や紅茶を使用して、他の招待客と同じようにコレットをもてなした。婚約者からの大切な贈り物を使って歓待したということは、明らかに良い印象を持っていることを示している。
コレットから事情を聞く際も一方的に責めることはせず、提示された証拠について疑問を指摘するに止めていた。
「ふふ。それなら、なぜ私がポワミエ伯爵令嬢を招待したかお分かり?」
オフェーヌの言葉に、コレットは少し緊張を解く。
だが、まだ気を抜くことはできない。
「私の希望的な推察になりますが、弁明の機会をいただけたものと解釈しております」
「ええ、正解よ。ごめんなさいね、厳しく追及してしまって。私はポワミエ伯爵令嬢から事情を聞いて、正当性があれば社交界に広まっている噂を訂正しようと考えていたの」
オフェーヌはお茶会に招待した息女たちに視線をやる。その視線に息女たちは、にこやかに応えた。
彼女たちもコレットの言い分に納得し、社交界で広まっている噂の訂正に協力することを示唆している。
推察は当たっていたと、コレットは胸をなでおろす。
オフェーヌはさらに言葉を続ける。
「でも、これは私がポワミエ伯爵令嬢のことを好意的に捉えていたからよ。他のご令嬢が相手なら、状況が悪化していたかもしれないわ。事前にしっかり根回しをするか、婚約破棄が成立しても期間を開けてからロラ卿と外出するべきだったわね」
コレットとロデールの不貞をしていない証拠は、手紙と侍女の証言のみ。
悪意がある者なら、社交界で更に悪評を広められることは容易に想像できる。そのような事態にならぬよう、対策を講じるべきだった。
多大なる影響力を持つ、クレイトロワ公爵家の息女が味方だったおかげで最悪の事態は免れるだろう。
今回は、たまたま運が良かっただけ。
さらに、もう一つ解決策を提案される。
「信頼している方にご臨席いただくのも良いと思うわ」
オフェーヌの言葉を聞いたコレットは、思わずベライスを見る。
ベライスはとても心配そうな表情でコレットを見ていた。
きっと、コレットの醜聞を聞いて心を痛めたに違いない。彼女のことだ、もしかしたら友人の悪評を払しょくしようと奮闘してくれていたかもしれない。やつれていたのは、その疲れではないだろうか。
そして、オフェーヌは優しい表情から一変、少し厳しい表情へ。
「ポワミエ伯爵令嬢もいずれ他家に嫁ぐ身。もっと利口にならなければね」
コレットの軽率な行動を叱責しているのだ。
当主であるポワミエ伯爵ほどではないにしろ、彼女にも貴族としての責任が伴う。家だけでなく、領地や領民のことも考えて行動するように忠告しているのだ。
この先、結婚して他家に入れば女主人として働かなくてはならない。社交にも気を配る必要が出てくるだろう。
自分を大切に想ってくれている人たちを蔑ろにするなど、あってはならないこと。
権利を与えられる分、今よりも責任はずっと重くなる。
「精進いたします」
コレットはオフェーヌからの忠告を重く受け止める。
それから――と言いながら、オフェーヌの矛先はベライスへと向く。
「ご友人を信じて味方になることは素晴らしいけれど、もっと冷静にならなければね。侯爵位をお継ぎになるのでしょう? 貴女の行動や言動一つで、領地や領民が危機的な状況に陥る可能性もあることを心に留めておきなさい」
「はい、留意いたします……」
注意されたベライスは小さくなる。
なんとか事態は収束に向かうことになって、コレットはようやく安堵する。
しかし、一つだけ気になる点があった。




