37 お茶会に招待されました (5)
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オフェーヌは招待客たちに、紅茶や焼き菓子を振舞った。
「いかがかしら?」
振舞われた紅茶や焼き菓子への感想を聞かれ、皆、口々に褒め始める。
「とても美味しいですわ。甘みと酸味が絶妙ですわね」
「焼き菓子にスパイスが使われているのかしら。柑橘系の風味に、ほんの少し辛味があって、いくつでもいただいてしまいそう」
「香りもお味もどこかエキゾチックで、素敵な庭園を眺めながらいただくと異国にいるような気分になります」
最近、オフェーヌが輿入れする予定の国は、遠い国との貿易が盛んに行われていると聞いていた。
庭園に植えられている植物も紅茶の茶葉も、婚約者から贈られたものだろう。
しかし、コレットにはそれらを楽しむ余裕は無かった。
『ポワミエ伯爵令嬢とは、たくさんお話したいと思っていたの』
コレットは、先ほどオフェーヌに挨拶した際に言われたことを思い出す。
あれは、断罪することを予告してのことだろうか――と。
紅茶を口にしながら、ちらりと招待客たちを見る。
招待客は十人ほど。王家の血筋を持つ公爵家か、その下の侯爵家の息女ばかり。
自分と同じ伯爵家の息女もいたが、歴史は古く、王家からの陞爵の打診を何度も断っている名家出身。爵位は同じでも、ポワミエ伯爵家より明らかに家格は上だ。
友人のベライスが味方でいてくれるとはいえ、自身より家格の上の者に囲まれて居心地が悪い。
「ポワミエ伯爵令嬢はいかがかしら?」
オフェーヌに感想を求められ、コレットは気が動転しながらも無難に答える。
「今まで、いただいたことのないお味で、とても美味しいです。素晴らしさを言葉にできない自分が恥ずかしいですわ」
嘘ではない。
緊張から、今のコレットに紅茶や焼き菓子を味わう余裕は無い。しかし、今まで口にしたことのない味であるのも、また事実なので、感想を言葉で言い表すのに困ってしまった。
「あら、そう。ごめんなさいね、かえって気を遣わせてしまって。何か悩んでいらしたように見えたから、紅茶や焼き菓子の感想を口実にお声掛けしたの」
そして、にこりと笑いながら続ける。
「なにか悩みがあれば、いつでも仰ってくださいね」
例の噂について聞き出したいのだ。
そのことに気付いたコレットは、覚悟を決める。
「お気遣いいただき、ありがとうございます。早速ですが、お言葉に甘えても宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
オフェーヌから許可を得たコレットは、手にしていたカップをソーサーに置く。
そして、一呼吸、置いた後に相談を始める。
「実は、私とロラ卿がベルワーテ侯爵家のご令息だったジョイルさんを陥れ、跡継ぎの座から引きずり落したのではないかという、根も葉もない噂が流れていることに困惑しているのです。私たちに、そう言った事実はありませんのに」
やはり、皆、名家出身の息女だけあって、小さく笑いながら静かに耳を傾けていた。
評判の悪い息女なら、前のめりになりながら嬉々として聞いていただろう。
「その噂は私も耳にしていてよ。鵜呑みにしているわけではないけれど、証拠もないからポワミエ伯爵令嬢の言葉を信用することも難しいわね」
オフェーヌは噂について懐疑的だが、コレットの主張についても同様だった。どちらも証拠が無いのだから当然だろう。
「証拠ならありますわ」
コレットは近くに待機していた侍女から、あるものを受け取り、提示する。
ジョイルからの謝罪の手紙だ。
「ジョイルさんは画家になることを切望していらしたのです。私に貴族の仕事をすべて押し付けて。そのことを知った父は、ジョイルさんに責任感が無く、信用できないといって婚約破棄を申し出たのです」
前に組んでいた手に力がこもる。
「婚約破棄についての話し合いの席で……彼は私の母について暴言を吐きました。手紙にて謝罪を受けましたが、その時のことを思い出すと未だに怒りで体が震えますわ……」
思い出す時間は減っているとはいえ、ジョイルから投げつけられた暴言を思い出すと腹が立つ。
コレットの言い分を静かに聞いたベライスは、怒りで顔を真っ赤にする。
「まあ、酷いわ! 前から嫌な方だとは思っていたけれど、コレット様にだけ仕事をさせようとしていたなんて! ポワミエ伯爵夫人にも暴言を吐いたなんて、許せなくて当然よ!!」
大切な友人やその家族を傷つけられ、憤りを感じていたのだ。
そんな激昂するベライスとは対照的に、オフェーヌは冷静だった。
「仰ったことが本当なら酷い話だけれど、証拠がジョイルさんからの手紙だけでは弱いわね。仕事の分担について何も書かれていないし……ポワミエ伯爵令嬢がこの日のために、捏造したのではなくて?」
捏造を疑っているオフェーヌに、コレットは次にあるものを提示する。




